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コドモ戦争  作者: リリム
6/7

決裂の六ツ刻

ついに学生達が決意の程を見せます。彼らの決意とは・・・・

午後三時


さして面だった変化もなく、現場の緊張感も未だ切れずに続いていた。銃器対策部隊とは既に打ち合せは済済んでいる。

取材用ヘリが現場に急接近してしまい、警察のヘリが警告するも無視。強制空路変更を試みるも尚も校舎へ接近。危険距離で退避をさせようとして格闘していると思わせ学園屋上に部隊を降下。制圧させる作戦だ。

犯人との唯一の窓口になった山岸はワイシャツの上から分厚い防刃着を装着し、上着を羽織りさらにコートを着るハメになった。いくら寒くなってきた季節とはいえかなり暑苦しい。風通しはゼロに限りなく近く、がっちりとベルトで脇腹を固めているから動きづらくて仕方ない。


とはいえ


唯一訪れた好機。これを逃す理由もなく、なんとか逮捕してやろうという意欲に燃えていた。






「じゃあ行くね?」

「ああ。」


食料その他満載のキャスターを転がしながら山岸は鳴海学園へ足を踏み入れた。彼の任務とは、できるだけ犯人との会話を長引かせて注意を逸らせる事だった。






門を入り左に折れる。

すぐ左には警察車両がごった返しているはずだが、防風目的と思われる人の背程度の樹木で視界が覆われ、さらに若葉をたっぷりと茂らせた背の高い広葉樹でしっかりと封鎖されていて上下共に全く見えなかった。目を凝らしてようやく隙間を見つけられる程度の密度だ。



「現在、状況異常無し。」

『了解。』




周りを観察しながら簡単な報告をしているうちに、右手にガラス戸でぴっちりと閉められた昇降口が見えた。

そのまま右少し進み、昇降口前のちょっとした階段まで進む。



「着いたよ。僕はどうすればいいかな?」

「しばら、待ってろ。」



急に会話が途切れた。おそらく、近づいてくるヘリに気付いたんだろう。無駄に喋って警戒させるよりは無知を装ったほうがいいだろうか?



「どうしたのかな?」

「山岸さん、俺は頼んだはずだぜ。人払いをしてくれって。」

「報道ヘリがうるさくてさ、なかなか退避してくれないんだ。『真実を報道するんだ』って。」

「真実ねぇ・・・・」


ぞわり。山岸は言い様の無い不安感に襲われた。なんだこれは?こいつはまだなにか隠し玉があるんじゃないか・・・・



「山岸さん、いや山岸。茶番も終わりにしようぜ?かったりーしな。」

「へっ?どうしたの。」



いきなりの豹変ぶりだったのでなんとも情けない声を上げる山岸。同時に不安感が『不安』に昇華し確信になり、自分が冷静な目を失っていた事にも気付いた。



「報道ヘリにはヘルメットに青いベストを着た人間は乗らないよなぁ!やっぱり大人は俺達を信じていないって事だ。」


まずい、奴らのなかに双眼鏡をもっている奴がいたのだ。派手なパフォーマンスが裏目に出て機内が一瞬覗けたのだろう。




「いや、それは!」

「言い訳すんじゃねぇ!どうせ手紙にあったやつだって調べてないんだろ!?」



山岸は自分の愚かさを呪った。こうなったら負傷者ではなく死傷者が出るかもしれない。勿論、銃器対策部隊のサブマシンガンには麻酔弾か強化ゴム弾のどちらかが使用されていて殺傷能力は皆無だ。

しかし、この男の言動から察するに相手はそれこそ徹底抗戦をするはずだ。もう捕獲なんて領域ではない。



「くっくっくっ。なあ山岸、一応忠告しといてやるぞ?ヘリを近付かせない方が身のためだぜ。」

「それでも近付いたら?」

もう交渉レベルではない。少しでも情報を引き出さなければならない。この会話だって別に二人だけで聞いているわけではないのだから。



「ロールプレイングゲームで撃ち落とす。」




ロールプレイングゲーム?一体なんのことだ?おそらく何かしらの隠語だとは思うが・・・・それより何か引っ掛かる。


ロールプレイングゲーム



ロール・プレイング・ゲーム



Role・Playing・Gane



山岸の頭の中で、散らばっていた語句のピースが少しずつ組合わさり一つの答えを掲示した。




「ロール・・・・なっ!?」

「ご名答!。でも行かせねぇよ?」



―ガガガッ!



思いの外近くから銃撃音が響き、三つの弾丸が山岸を薙ぎ倒した。



「がっ!」



腹部・左胸部・左上腕部と見事に急所を射ぬかれ山岸は吹き飛んだ。




「ぐっ、はあっ、ぐぇ。」

息が詰まる。内蔵を鷲掴みされているような感覚がしてうまく呼吸できない。なまじ防刃着を着ていたせいで弾丸は貫通する事無く体内に留まっているようだ。身じろぎ一つで激痛が体をを駆け巡る。



――バラバラバラ

ヘリか!?くそっ!



「本部げぇっ!ハァハァ、中止を具する!」



また血を吐いた。映画のようなドバっと出てはいないからマシか?命に関わる痛みは鈍痛って聞くしな。



『こちら本部。山岸交渉官!さっきの銃撃音は何があった!』

「はぁ、はぁ。」

『どうしたんだ!?』

「撤退を・・・・」



ぐらり。明らかに視界が揺れた。イヤホンから流れる音が子守声に聞こえる。

だからって寝るわけにはいかないけどな!俯せの体を無理矢理地面から引き剥がし、仰向けに転がした。脳みそに電気が走り、ワンテンポ遅れて体中に電撃が渡った。おかげで少しばかり正気を取り戻せた。




「繰り返す、ヘリを撤退させ・・・・ろ?」



痛みの波は通り過ぎ、風邪を引いた時のような倦怠感が足先からじわじわと迫ってきた。ああ、視界が霞む。俺は死ぬのかな・・・・?

意識を手放すその前に見た。青い空と、自らを悲愴感漂う目で覗き込む存在を。












一方上空のヘリ達は、ロープを垂らし今正に降下するところだった。


『作戦中止をし全員退避せよ!繰り返す、作戦中止!』



いきなりの変更に驚きがあったものの、ヘリのパイロットは命令の復唱をした



「了解。作戦中止!」


既に降下態勢に入っていた隊員もいたため、無理にロープを巻き戻しせずに一旦屋上に降下させて改めて着陸することにした。


ほぼ同時期

「やれ!俺らの決意の程を見せてやるんだ!」



屋上の重い扉が開き、肩に長い筒を乗せた男子学生が飛び出してきた。すぐさま膝立ちの姿勢をとりサイドスコープを覗き込んだ。 



「機長!回避を!」



二名の隊員がロープの四分の一を下りかけたところだった。



―バフッ!




弾頭が発射されヘリに迫る。



「パンツァーファーストが!」

「何!?」




回避運動をとったが、既に手遅れだった。機体下部の排気口付近に着弾し、




―ズガァァァーン!




まずは降下中の隊員がロープが吹き飛んだせいで空中に放り出されコンクリに叩きつけられた。次にオレンジ色が吹き出し、引火したことを示す独特な赤色が重なった。日光を受けキラキラと金属片が輝きながら舞散る。最後に、爆風でかなり真上に舞い上がったヘリのブレードが回転の勢いを維持しながら山林へ飛び込んだ。




「なっ!・・・・」



後続ヘリの機長は目を疑った。自分達は立てこもった学生の強制排除をしに来たはずだ。しかし、眼前の光景は間違いなくロケット砲の類で撃たれた。まるで奴らは・・・・




「テロリストじゃないか!?」




思わず機首を屋上にむけてしまい、そこではっと気付いた。目視距離で屋上との距離は約二十メートル。どんな粗雑なコピー品やがたついた手製でも命中距離三十メートルは堅い。つまり




「メーデー!メーデー!学生達は携帯型対空砲を所持している模様!繰り返す、学生達は相当の武装をしているものと考えられる。十分に留意されたし!」



目の前には迫り来るロケット弾。死んでたまるか!と操縦桿を思いっきり手前に引いた。たぶん、低価格で手に入れられるロケット砲は誘導タイプではないはずで命中率も悪い。なんとか躱せるかもしれない。



「うぉぉぉっっ!」


上昇・急速反転。一般のパイロットよりは素早く的確な判断だった。しかし回避することすら願わず、弾頭と機体が接触してしまった。




―ズゴォォォン!




くぐもった響きがヘリを下から押し上げた。なんとかヘリの体裁を保っていたが、もはや飛行は不可能。木の葉のようにくるくると回転しながら落ちていった。

機内では警告音が引っきりなしに鳴り響き、各種警告灯も点灯していた。一人機長のみがペダルを踏み込んでみたり操縦桿を引いてみたりと奮戦した。回転していて視点が定まらない状況でも死の地面が近づいてきているのか分かった。




「うわーっ!!!!」




現場にいた警察官達の視界から消えた直後、爆炎と共にもうもうと黒煙が舞い上がりヘリの乗員の安否を強烈に提示した。


殉職数14人。内、銃器対策部隊隊員12名パイロット二名。









ヘリを落とした男が一人空に吠えた




「見たか!これがおれ等の決意だ!」

いかがでしたでしょうか?作中のロール・・・の部分はRPGアールピージーと呼ばれるソ連製の対戦車砲です。比較的安価で手に入るので実際のテロリストがよく使用しています。パンツァーというのはシリーズ名として対戦車砲で長年使われてきました。よって、対戦車砲全般をまとめてRPGとかパンツァーファウストといいます。漫画でよく使われている表現ですね。感想や評価をお待ちしております。

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