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コドモ戦争  作者: リリム
5/7

狡猾な五つ首

午後一時。



外食で道は混み、大抵はシエスタをしているなんとも半端で緩い時間帯。だが、愚鈍なまでに平和を噛み締められる有り難い時間でもある。しかし、それに当てはまらない地域も存在する。


『鳴海学園』


その土地である。












鳴海学園の周りにはPCパトカーに始まり冷蔵庫を搭載したトラックのような大型車まで多種多様な車両が集まっていた。

封鎖された車線めいいっぱいに車が並ぶ様はなかなか精悍である。

もっとも、隣接している小学校との関係で道幅は非常に狭くPC一台停まるだけで一杯一杯なのだが。車両によって無きに等しくなってしまった隙間を黒や紺に黄土色をした防弾チョッキを着た警官が引っきりなしに走り回っている。既に近隣住民の避難は完了し、隣接している小学校の生徒も市民体育館に避難させた。なんとも大規模な混乱模様だが、驚くべきことにこの混乱はたった15人の高校生によって引き起こされているのだ。その様子を眺めていた敬介は傍らの女子学生に声をかけた。



「やってくれ。」



女子は頷いて了解を示すと、紙の括り付けられた矢をつがえて空中に放った。



「はあっ!」


―ひゅん




風を切る音のした数秒後、鍋を殴り付けた時のようなガン!という音が聞こえた。










「署長!生徒から接触がありました。」

「あ、ああ。内容はどうだ。」



所かわって警察署では対策本部が置かれ、情報収集を行っていた。もっとも、向こうから何も言ってこないため行方不明の教師の身元と行方不明者『扱い』の生徒の身元を調べるぐらいしかやる事はなく現場への支持は

「待機」の一言しか言えないのだった。



「矢文、の・・・・ようです。」

「矢文!?」

「ええ、現場によるとパトカーに向かって矢が飛んできてボンネットに刺さったそうです。鑑識の方で回収したところ、紙が張りつけてありましたので検査した結果手紙ということが判明しました。こちらです。」



ビニール袋から白い手紙を取出し署長は読み始めた。







『拝啓、警察署長殿。私達の行為をあなたはどう思っておられるだろうか。くだらない?あるいは、なぜ?だろうか。しかし私に言わせてもらえばあなた達大人が蒔いた種だ。ありえない?いやいや、こんなことをしている大人がいる事自体学園の腐敗であろう。以下に記す者の素性調査を願いたい。きっと理解を示して頂けるだろう。コドモ代表より』




「くだらん!不法占拠に理由などあるものかっ!」



手紙を運んできた警官が署長の一喝にびくりと体を震わせた。



「どうせこれだってくだらない捏ち上げだろう。撹乱狙いだ。」

「しかし、無視で宜しいのでしょうか。相手に刺激を与えるだけでは・・・・」

「ネゴシエーターにこの事実を伝えろ。口裏合わせで信用を得る材料にはなるだろう。」

「了解しました。」



もしこの時署長が上辺だけでも捜査をしていれば警官に被害など及ばず、犯人全員を逮捕できただろう。


一人の死傷者も出さずに・・・・










現場にまた電撃が走った。PCの車載無線機に急に明瞭な電波が混信したのだ。『コドモ代表』と名乗る人物からだ。

シンプルに一言

「誰か話せる人いますか。」と。










「こんにちは。」

「あんたは?」

「僕は山岸って言うんだ。君の名前を聞いてもいいかな?」

「『コドモ代表』と言ったはずだが?」

「じゃあ君を代表って呼びたいんだけどいいかな。」

「勝手にしろ。」



山岸は車載無線機を握る手に尋常ではない量の汗をかいていた。実際の現場に着くことぐらい何回もあったが、バックグラウンドが今まで無いぐらい悪い。署長があまりにも頭が固く、この上なく強靱なラポールを築けそうなのに


『くだらない』


の一言で済ませてしまった。何もしてない空気ぐらい簡単に読まれるに決まってんだろハゲ親父!その上にハッタリで誤魔化せだぁ!?無茶にもほどがあるだろ!


勿論交渉ごとにパターンなど存在しないが、極端な話こちらのペースにどれだけ相手を巻き込めるかなのだ。

その意味では最大限相手に対する情報が必要だ。45歳会社員既婚二児の父、とこれだけでも十分過ぎるほど前準備が整えられる。あくまでも自分は貴方の味方だという立場を作るのが基本だ。

しかし、こちらには『嘘』という爆弾を体内に抱えている。信頼性も何もない状況ではただの毒薬でしかない。くそっ!たぶん、ばれるな。


「じゃあ、代表さんは何か差し入れとか必要かな。」

「おれ達には必要ない。」

「せめて人質になっている人にしたいんだけど。」

「分かった。そちらで適当に選んだ分には関与しない。」

「ありがとう。昇降口の付近に置いておくよ。」



よし!思ったより楽にブレイクできたみたいだ。後はなんとかして・・・・



「山岸さん?」来た!

「何かな。」

「なんだかあんたは信用できそうだ、あんたが全部の物資を運んでくれ。」



やった、やったぞ!完璧なまでブレイクした。それに向こうから指名とはラポールも相当高く築けた。これで交渉は有効に事が進められる。



「うん分かった。買い出しとか行かなきゃいけないからさ、二十分ぐらい時間が欲しいな。」

「ふっ、山岸さんがパシられるんだろ?警察も大変だな。」

「うん。下っぱは色々と大変なんだ。」



よしよし!もう交渉成立したも同然だ。与太話をする余裕まであるじゃないか。後は・・・・・・・・。







もしこの時、山岸が冷静でいれば事態の異常さに気付けただろう。



なぜ尊大な態度が急にしおらしくなったのか?



なぜ至上命題のはずの捜査について聞いてこないのか?


なぜ?なぜ?なぜ?










誤解が誤解を生み・自惚れが自惚れを生み、自らを飲み込んでいくことを彼らは知らない。無知なる事はかようにもひどき災難を・・・・

神とは残酷に自惚れし者の人生を木の葉のごとく弄ぶのか・・・・・・・・・・・・

この度は「コドモ戦争」を読んで頂き誠に有難うございます。さて、作中にカタカナ語が出てきたと思います。「ラポール」は信頼性「ブレイク」は警戒心を壁(障害)と考えてそれが打ち解けた(壊した)という意味合いで使用してあります。感想をお待ちしております

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