なーろっぱ世界の短編 婚約破棄とか聖女とかドアマットとか転生とか
ここは神さまに祝福された国 ~これホント!~
ここは神さまに祝福された国。
周辺の国々が、神への信仰をうしなっていくなかで、この国だけは、神さまを敬い続けているのです。
とはいうものの、やはりバカは現れるもので――
「メルル! お前とは婚約破棄だ!」
卒業式の夜会の席で、ピピン王太子殿下が絶叫しました。
隣には、誰もが判る迷惑そうな顔で、男爵令嬢が立たされています。
列席者たちは瞬時に察しました。
あの男爵令嬢、王太子が王太子だから逆らえないだけなのだ、と。
お気の毒に。
ゾーンバッキ侯爵令嬢メルルは、一瞬、面倒そうな表情を浮かべましたが、
「理由をお伺いしても?」
「理由!? はっ! お前が嫌いなんだよブス! オレは王になる! 王妃くらい好みで選ばせてもらうぜ!」
列席者たちは思いました。
冤罪をかけるとか、隣に立っている男爵令嬢をいじめてるとか、作法があるだろう作法が!
終わった。
このバカ終わった、と。
国王陛下が「若いうちはいろいろあるからな……」と遠い目をして目をそらしていた結果だと。
陛下も子供の育て方だけは、まちがったなぁ。
この王国は神さまに祝福された国。
王様の頭上には、いつもキラキラした輪が光っています。
王太子の頭上には、生まれた時から、ピカピカ光る球体が浮いています。
だから跡目争いが起きたことがありません。
なんせ、王が崩御した瞬間、ピカピカがキラキラになるのですから。
他にも神官長や大臣には、みな光る印がついています。
当然ながら、このピピン王太子の頭上にも、ピカピカ光る球体が浮いていています。
が。
男爵令嬢がいきなり、ピピンを肘鉄しました!
「ぐあ」
列席者たちは感心しました。
うん。いい肘鉄だ。よほど怒りが溜まっていたに違いない。
相手が王太子だと処刑ものだけど。
男爵令嬢は、なにが起きたかわからずお腹を抱えてくの字になっているピピンに向かって、
「バカじゃない! なんでいきなり公衆の面前で婚約破棄とかするの!? 恥知らず! くそがっ!」
零下の視線で見降ろされたピピンは、事態を悟ったのか、顔を真っ赤にして。
「衛兵! こいつをつまみだせ! いや、この場で殺せ! たかが男爵令嬢が神に選ばれたオレに暴力を振るった!! 叛逆だ!」
誰も動きません。
侯爵令嬢がのんびりした口調で。
「元王太子殿下。もうあなたは王太子ではありません。あ……殿下ってつけなくていいのかも」
「なにをふざけたことを! お前も処刑だ叛逆だ!」
誰も動きません。
列席者たちは思いました。
誰かこのバカに鏡を見せてやれよ。
あ。鏡には映んないのかアレは。
男爵令嬢が冷たい声で。
「だって、あんたの光るたま消えてるもの」
「オレは王太子だぞ!」
「ゾーンバッキ侯爵令嬢の頭の上でピカピカしてるでしょ! その何も肝心なものが見えない目で見なさいよ!」
確かに、王太子の印である光る球体は、メルル令嬢の頭上に浮いていました。
「き、貴様ぁぁ! オレの印を盗んだな! この盗人め! 処刑だ! 窃盗だ! 叛逆だ!」
元王太子はメルル令嬢に飛びかかろうとしましたが、見えない壁にあっさり跳ね飛ばされ、よく跳ねるボールのように飛び、壁に激突しました。
列席者たちは、うわ、と思いました。
あれは骨のニ三本折ったな。
神さまがお仕事してるの、久しぶりに見たわ。
侯爵令嬢メルルは、
「まぁ! あ。ほんとうですわ。明るいですわ!」
確かに光は、侯爵令嬢の頭上に浮いていました。
「これで、夜は読書がはかどりますわ! ランタンの油を替えてもらわなくてすみますわ!」
男爵令嬢が思わず、
「まぶしくて眠れないのでは?」
「あ……それは困りましわね」
重々しい声が夜会の会場に響きます。
「ゾーンバッキ侯爵令嬢。その心配には及ばない。神の光は人にストレスを与えないすぐれもの。眠りを妨げたりしない」
列席者も公爵令嬢も男爵令嬢も一斉に頭を下げました。
神さまに祝福されしこの国の王様が現れたのです。
王様は、ありえない形に手足を曲げた元王子に向かって、
「バカ息子よ。お前は終わりだ」
「なぜ!? オレは神に定められた!」
「あれは神が王太子だと決めてくださっているのではない。暫定的に次はこれという印にすぎないのだ……このバカを引っ立てて牢にぶちこめ!」
兵隊たちは元王太子――いや、今はただのピピンですね――に群がり、引っ立てていきました。
引き立てられるピピンの頭上には、いつのまにか赤いバツ印が3つ浮かんでいました。
列席者たちは、察しました。
罪人の印だぞ、あれは。しかも3つも。
王太子として終わっただけじゃなくて、人生そのものが終わったな、と。
こうして神さまは自分の評判を守ったのです。
だからこの国では、未だに、神さまへの信仰は盛んなのです。
たくさんの作品の中から、本作をお読みいただきありがとうございました。
最後までお付き合いいただけたこと、とても嬉しく思います。
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別の物語も書いておりますので、もしよろしければ、そちらも覗いてみてください。




