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第14話 猿と公務員とテレビ出演

 秋の日は釣瓶落とし、とはよく言ったものだ。


 佐藤健司がその日のデイトレードを終え、ノートPCの画面に表示された無機質な数字の羅列から意識を引き剥がした時、ワンルームの安アパートの窓の外はすでに濃紺の闇に包まれていた。部屋の照明をつけるのも忘れ、彼は椅子の背もたれにぐったりと体重を預ける。脳が沸騰したヤカンのようにキリキリと痛みを訴えていた。


 今日の戦績はプラス4万7千円。勝率は7割を超えた。

 Xのアカウント『@Kabu_no_K』に本日の戦績を淡々と報告すると、ものの数秒で数十の「いいね」が付き、称賛と、そしてほんの少しの嫉妬が入り混じったリプライが滝のように流れていく。フォロワー数はすでに5千人を突破していた。

 5ちゃんねるの予言スレは、もはや彼が何かを書き込まなくても信者たちが勝手に過去の予言を分析し神格化し、part.12にまで到達していた。


 世間から見れば彼は彗星の如く現れた天才トレーダーであり、謎多き預言者なのだろう。

 だがその実態はこれだ。

 一日中神経をすり減らし、夕食はコンビニで買った百円のカップ麺。着ているのは三年前から着古しているよれたスウェット。そしてこの成功の裏には、人知れず流された一人の警察官の血と、それを防げなかったという決して消えることのない罪悪感が心の奥底に澱のように沈殿している。


「……はぁ」


 深い溜息が薄暗い部屋に虚しく響いた。

 金は増えた。口座の残高はもはや二百万円に迫ろうとしている。人生は確かに変わった。だがこの先に何があるというのか。ただこの孤独な戦いを延々と続けていくだけなのか。

 そんな虚無感が亡霊のように彼の心に忍び寄ってきた、その瞬間だった。


 ポケットの中でスマートフォンが軽快な通知音を立てた。

 健司はもはやその音を聞くだけで送り主が誰なのか分かった。彼の人生の唯一無二の支配者であり、そして忌々しい恩人。

 彼はうんざりした気分でLINEの画面を開いた。

 アイコンはあの気の抜けた猿のイラスト。名前は『魔導書様』。


『おい猿。いつまで黄昏れている。感傷に浸るのは全ての戦いが終わってからにしろ』


 その心を見透かしたかのようなテキストに、健司は思わず眉をひそめた。


「うるさいな。こっちの気も知らないで……」

 健司は悪態をつくようにそう打ち込んだ。


『知るかそんなもの。猿の感傷など一円の価値もない。それより次のステップに移るぞ』


 その一方的な宣言に、健司は溜息をついた。

 また何か無茶な訓練が始まるのだろう。だが今の彼にそれを拒否する選択肢も気力もなかった。


「……次はなんだよ」


『うむ。そろそろ潮時だろう』


 魔導書は勿体ぶるように少し間を置いてから、次のメッセージを送ってきた。


『次は日本の組織――“ヤタガラス”に勧誘されよう!』


「……は?」


 健司は自分の目を疑った。

 ヤタガラス。

 その名前を彼は知っていた。魔導書が以前語っていた組織だ。この日本に潜む能力者を秘密裏に管理し補助しているという政府直属の超法規的機関。

 そこに勧誘される?


『そうだ。いいか猿。今までのステップでお前は有名人になる道のりを経ている。そして今お前はそこそこ有名人だ。巷で噂の百発百中で相場を当てるデイトレーダーとしてな!』


『一部ではインサイダー取引だと噂されているようだが笑わせる。お前の力はそんなちっぽけな犯罪じゃない。100%の“予知”だ! 何の問題もない!』


 魔導書のテキストは妙にテンションが高かった。まるで手塩にかけて育てた商品がようやく市場で評価され始めたことを喜ぶ悪徳プロデューサーのようだった。


「……いや問題なくはないだろ。そもそも魔法なんてものがこの世の法律で裁けるのかどうか……」


『細かいことを気にするな猿!』

 魔導書は健司の真っ当な懸念を一刀両断にした。


『重要なのは次だ! お前はこれから更に有名になってヤタガラスに勧誘される必要がある! ヤタガラスは日本国内の能力者の登録や補助をしてる組織だ。日本政府とは分かれてはいるがまあ直轄組織みたいな物だな。つまりお前は!』


 そこで魔導書のテキストは一際大きなフォントに変わった。


『“公務員”にスカウトされるのを待つのだッ!!!』


 公務員。

 そのあまりに現実的であまりに俗っぽい単語。

 健司はしばらくその三文字を呆然と見つめていた。

 そして次の瞬間。

 彼の脳内でこれまでバラバラだったパズルのピースが、一つの絵を形作るようにカチリと音を立てて繋がった。


「……なるほどな」

 健司の口から思わず納得の声が漏れた。


「目立ってたのはそういうわけか。……高く買ってもらうってことか」


『その通りだッ!』

 魔導書は満足げにそう返してきた。


『そうだ! ペーペーの新人として入社するより世間を騒がせている“大物”として最高の待遇で迎え入れられる方が効率的だろうが! お前の「予知能力」という能力はそれ自体はありふれている。Tier 3の中では掃いて捨てるほどいる能力だ。だが「株式取引を高精度で当てる」という目に見える実績を積み上げたことで、その他大勢の予知能力者とは一線を画す評価を得られる! お前の市場価値は今爆上がりしている最中なのだ!』


 健司は完全に理解した。

 全てはこのための布石だったのだ。

「予知者K」として5ちゃんねるで伝説を作ることも。

「@Kabu_no_K」としてXで信者を増やすことも。

 全てはヤタガラスというこの世界の裏側に存在する巨大組織に、自分という商品を最高の値段で売りつけるための壮大なプロモーション活動だったのだ。

 魔導書は師匠であると同時に、彼を売り出すための辣腕のマネージャーでもあった。


「……分かった。理屈は分かった」

 健司はそう打ち込んだ。

「でこれからさらに有名になるって……具体的にどうするんだ?」


 すると魔導書は待ってましたとばかりに、次なる、そして最も突拍子もない指令を下してきた。


『決まっているだろうが! ネットの世界でこれ以上燻っていても広がりには限界がある!』


『テレビ出演も目指すぞッ!!!』


「…………えー」


 健司の口から素っ頓狂な声が漏れた。


「テレビかよ……」


「テレビねえ……」


 翌日の日曜日。

 健司は近所の寂れた喫茶店の隅の席でぬるくなったコーヒーを啜りながら、一人途方に暮れていた。

 昨夜魔導書から告げられたあまりに無茶な次なる目標。

 テレビ出演。

 それはこれまで彼が戦ってきた匿名のインターネットの世界とは全くルールの違う戦場だ。顔を晒し、名前を晒し、不特定多数の人間の好奇の視線にその身を晒すということ。

 考えただけで胃が重くなる。


(俺みたいなコミュ障の陰キャがテレビなんかに出られるわけないだろ……)


 そもそもどうやって?

「天才トレーダーです」とテレビ局に売り込みでもかけろというのか。馬鹿げている。

 彼がそんな考えを巡らせていると、テーブルの上に置いていたスマートフォンがぶぶと短く震えた。魔導書からだった。


『おい猿。何を喫茶店なんぞでしょっぱい顔をしている。お前の悩みなど手に取るように分かるぞ』


『どうせ「どうやってテレビに出るんだ?」とかそんな低レベルなことで悩んでいるんだろうが』


 図星だった。

 健司はバツの悪い思いで画面を睨みつけた。


『いいか猿。思い出せ。お前がこれまでどうやって道を切り開いてきた?』


『お前が何かをしたか? 違うだろうが。お前はただ圧倒的な“結果”を世間に見せつけてきただけだ。そうすれば世界の方が勝手にお前の元へと跪きに来るのだ』


 そのどこまでも傲慢な言葉。

 だがそれは紛れもない事実だった。


『今回も同じだ。お前はこれまで以上の圧倒的な、誰にも否定しようのない“予言の的中”を見せつければいい。そうすればメディアの方から喜んでお前に食いついてくる』


「……これまで以上の結果……?」

 健司はそう打ち込んだ。

 もう十分に派手な結果は出してきたつもりだった。大臣のスキャンダル、アプリのサーバーダウン、箱根の土砂崩れ。これ以上何をしろと?


『そうだ。これまでのお前の予言は確かにネットの世界を騒がせるには十分だった。だがテレビという巨大なメディアを本気で振り向かせるにはまだパンチが弱い』


『必要なのはエンターテイメント性だ。大衆が分かりやすく度肝を抜かれるような派手な一発が必要だ』


 魔導書はそう言うと、具体的な作戦を提示してきた。


『いいか猿。お前はこう予言するんだ』


『“一週間後とある上場企業の株価が暴落する”と』


「……株価の暴落……?」

 それはこれまでもデイトレードの中で小さなスケールで何度もやってきたことだ。


『そうだ。だが今回はスケールが違う』


『その暴落の“原因”となる巨大なスキャンダルをお前が誰よりも先に名指しで暴露するんだよ』


「――は!?」

 健司は思わず周囲の目も気にせず声を上げそうになった。

 暴露?

 スキャンダルを?


『そうだ。例えばこうだ。「来週の金曜日、大手製薬会社『メディカル・フロンティア』の株価はストップ安まで暴落する。なぜなら彼らが開発中の新薬の臨床データは全て捏造されたものだからだ」……とかな!』


 そのあまりに具体的で、あまりに悪辣な予言。

 健司は背筋が凍るのを感じた。


「……おい待て。そんなことしたらただの予言じゃ済まないぞ。名誉棄損で訴えられる! 下手したら風説の流布で逮捕されるぞ!」


『だからいいんだろうが』

 魔導書はせせら笑った。


『訴えられる寸前、あるいは逮捕される寸前のまさにそのタイミングで、お前の予言が寸分違わず的中すればどうなる?』


「……どうなるって……」


『世界は熱狂する』


『「あの男はインサイダーなどではない。本物の預言者だ」と。お前はただの天才トレーダーから社会現象そのものへと昇華される。そうなればテレビ局の連中がハイエナのようにお前の元へと群がってくるだろうよ』


 健司は言葉を失った。

 あまりに危険な綱渡り。

 だが成功した時のリターンは計り知れない。

 彼の名前は日本中に轟くことになるだろう。


『……どうする猿? やるかやらんか?』

 魔導書の悪魔のような問いかけ。

 健司はしばらくスマートフォンの画面を見つめていた。

 そして彼はゆっくりと文字を打ち込んだ。


「……分かった。やろう」

「だがその『スキャンダル』とやらをどうやって突き止めるんだ? 俺の予測予知はまだそこまで精度が高くない」


『ふん。ようやくその気になったか』

 魔導書は満足げにそう返してきた。


『心配するな。そのための“未知予知”だろうが』


『これからお前のその貧弱な脳みそをフル回転させて、世界の深淵から最高の“ネタ”を釣り上げてきてもらうぞ。覚悟しろよ猿。これまでの訓練とは比較にならんほどの負荷がお前の脳を襲うことになるからな』


 健司はごくりと喉を鳴らした。

 そして彼はぬるくなったコーヒーを一気に飲み干すと席を立った。

 喫茶店の古びたドアを開けると、午後の眩しい光が彼の目に突き刺さった。

 もう後戻りはできない。

 サイは投げられた。

 彼はこれから日本中を巻き込む巨大なショーの主役になるのだ。

 その覚悟を胸に、健司はアパートへの道を確かな足取りで歩き始めた。


 その夜。

 健司は全ての準備を整えていた。

 部屋の電気を消し、カーテンを閉め切り、完全な暗闇を作り出す。外部からのあらゆる刺激を遮断するためだ。

 彼はベッドの上で静かにあぐらをかいた。

 そしてゆっくりと目を閉じる。


『……準備はいいか猿』

 魔導書の声が頭の中に直接響いてくる。


「……ああ」


『よし。では始めるぞ。今回はこれまでのように漠然と未来を観るんじゃない。意識に明確な“指向性”を持たせるんだ。「一週間以内に日本の上場企業に関する株価を暴落させるほどの巨大なスキャンダル」……その情報だけを世界の因果律の中から釣り上げる!』


 健司は言われた通り、意識をその一点に集中させていく。

 彼の精神が肉体という窮屈な檻から解き放たれ、情報の奔流へと溶け込んでいく。

 いつもの感覚。

 だが今回は何かが違った。


(……ぐ……っ!)


 頭が割れるように痛い。

 脳の奥深くを直接万力で締め上げられるかのような激痛。

 明確な目的を持って因果の深淵を探索するという行為は、彼の脳にこれまでとは比較にならないほどの負荷をかけていた。


『……猿! 耐えろ! 自我を保て! 情報の奔流に飲み込まれるな!』

 魔導書の叱咤が遠のいていく健司の意識をかろうじて繋ぎ止める。

 健司は歯を食いしばった。

 唇の端が切れ、鉄の味が口の中に広がる。

 だが彼は意識の集中をやめなかった。


 探せ。

 探せ。

 探せ。

 この情報の宇宙のどこかにあるはずだ。

 俺が求めるたった一つの真実。


 どれほどの時間が経っただろうか。

 数分か、あるいは数時間か。

 彼の限界を超えようとしていた意識がついに一つの不吉な輝きを放つ因果の糸を捉えた。

 彼はその糸に最後の力を振り絞り、精神を絡ませていく。

 そして彼は“見た”。


 ――近代的な巨大なビルの一室。

 ――白衣を着た数人の研究者たち。

 ――彼らがPCの画面に表示されたグラフの数値を改竄している。

 ――それは新素材の開発に関するデータ。

 ――その企業の名は『フューチャー・マテリアルズ』。

 ――そしてその捏造されたデータが今週末に大々的にプレスリリースされるという未来。


「……は……っ!」


 健司は現実の世界に引き戻された。

 全身はびっしょりと汗で濡れ、呼吸は荒く乱れていた。

 だが彼の目には確かな光が宿っていた。

 彼は掴んだのだ。

 世界を揺るがす巨大な爆弾を。


 彼は震える手でスマートフォンの明かりをつけ、魔導書にメッセージを送った。

 今見た全ての光景を。


 数秒後。

 魔導書から返信が来た。


『……ククク。よくやった猿! 最高のネタじゃねえか!』


『「フューチャー・マテリアルズ」……ここ数年画期的な新素材を次々と発表し、株価を上げ続けている優良企業だな。その根幹が全て嘘だったと。これ以上ないエンターテイメントだ!』


 健司は荒い息を整えながら、PCの電源を入れた。

 そしてXと5ちゃんねるの画面を開く。

 もう迷いはなかった。

 彼はこれから引き金を引くのだ。


 彼はまず5ちゃんねるの予言スレに書き込んだ。


 予知者K ◆Predict/K


 ……来週の特別な予言をします。

 これはこれまでとは比較にならないほど大きな影響を及ぼすかもしれません。

 信じるか信じないかはあなた方次第です。


【未知予知】

 来週の金曜日。新素材開発の雄『フューチャー・マテリアルズ』の株価は暴落します。

 おそらくはストップ安まで売り込まれるでしょう。


 なぜなら。


 彼らが今週末に発表する新素材『グラフェニウム』に関する輝かしいデータは全て研究者たちによって捏造されたものだからです。


 この予言の責任は全て私が負います。


 そして彼はXのアカウントにもほぼ同じ内容を投稿した。

 ただし最後の一文だけを付け加えて。


『@Kabu_no_K(株のK)』

(5ちゃんねるの予言とほぼ同文)

 ……この予言の責任は全て私が負います。

 そしてこの予言が的中した暁には、私はメディアの全ての取材に応じるつもりです。


 投稿ボタンをクリックする。

 その瞬間、健司は世界が静まり返るのを感じた。

 嵐の前の静けさ。

 それは彼が自らの手で作り出した静寂だった。


 直後。

 彼のスマートフォンとPCは狂ったように通知音を鳴らし始めた。

 Xのリポストと引用リツイートの嵐。

 5ちゃんねるのサーバーが落ちかねないほどの書き込みの奔流。

 賞賛、驚愕、そしてほとんどが非難と嘲笑。


「ついにKも焼きが回ったか」

「これは完全にアウトだろ」

「フューチャー・マテリアルズの法務部が動くな」

「逮捕待ったなし!」


 だが健司はもう何も感じなかった。

 彼はただ静かにPCを閉じた。

 そしてベッドに倒れ込む。

 あとはただ運命の金曜日を待つだけだ。

 彼の人生を賭けた最大のショーの幕が、今上がったのだ。


 運命の金曜日。

 その日、健司はデイトレードを休んだ。

 彼は朝からただ一点だけを見つめていた。

 ノートPCの画面に表示された『フューチャー・マテリアルズ』の株価チャート。

 午前9時。

 市場が開く。

 その瞬間、株価は健司の予言を嘲笑うかのように、前日の終値よりもわずかに値を上げて寄り付いた。


 Xと5ちゃんねるはお祭り騒ぎだった。

「K終わったなwww」

「風説の流布確定!」

「ざまあみろ!」


 だが健司は動じなかった。

 彼の脳裏にはあのビジョンが焼き付いている。

 彼はただ待った。


 そしてその時は訪れた。

 午前10時32分。

 とあるネット系のニュースメディアが一本のスクープ記事を配信した。


【独自】新素材の雄『フューチャー・マテリアルズ』にデータ捏造疑惑! 内部告発者が決死の告白!


 その記事が配信されたコンマ1秒後。

 世界は反転した。

 フューチャー・マテリアルズの株価チャートに見たこともないほどの巨大な赤い滝が現れた。

 売りが売りを呼び、パニックが市場を支配する。

 株価は文字通り垂直に落下していく。

 そして午前11時。

 その株価は値幅制限の下限――ストップ安に張り付いた。


 健司の予言は的中した。

 それもこれまでで最も完璧な形で。


 彼のスマートフォンはもはや通知音を鳴らすことすらやめていた。

 処理能力の限界を超えたのだ。

 画面は真っ暗なまま沈黙している。

 だが彼は知っていた。

 その沈黙の向こう側で、世界がどれほどの熱狂に包まれているかを。


 彼は静かに立ち上がった。

 そしてアパートのドアを開ける。

 彼はこれから戦場へと向かうのだ。

 匿名の安全な観測者の立場ではない。

 全ての視線をその身に浴びるショーの主役として。


 その日の午後。

 彼の壊れたと思っていたスマートフォンが一度だけ震えた。

 非通知の着信。

 健司は深呼吸を一つすると、その通話ボタンを押した。


『……あ、もしもし。私テレビ東洋の報道番組『ワールド・ビジネス・トゥナイト』のプロデューサーをしております高橋と申しますが……』

『……予知者Kさん……いえ@Kabu_no_Kさんでいらっしゃいますか……?』


 その声は興奮と畏怖とで震えていた。

 健司は窓の外の青い空を見上げた。

 そして彼は静かに、しかしはっきりと答えた。


「――はい。そうです」


 彼の次なるステージへの扉が、今確かに開かれたのだった。

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― 新着の感想 ―
テレビとは...どんどん面白くなってきてますね
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