2話
兄との会話から数日が経過した。
あれから一度も兄とは話していない、それどころか目も合わせていない。
元々それほど仲が良い訳では無いが、それでも会えば挨拶もするし、当然目だって合う。
だからか少し寂しい気持ちを覚えてしまう。
俺は今日引越しをする。
荷造りは全て終え、あとは業者が来るのみとなっている。
兄は今日も仕事で、妹はダンスレッスンだそうだ。
両親に至っては兄の収入からバカンスに行っているらしい。
らしいと言うのは両親から聞いたのではなく妹から聞いたからだ。
両親とはもうずっと話していない。
少しづつ見限られていったあの日から、親との会話の数は徐々に減っていき、今では会うことすらない。
だがそれも慣れているし、今更どうということは無い。
それにこれからは俺は一人で生きていくと決めたんだ。
目標も無く、自由気ままに好きな事をすると決めた。
誰も俺の事を知らない所へ行く。
その再出発地点となる俺の新居、そこは……。
「……え、なにこれチラシで見たのと違うんだけど」
俺の手には1枚のチラシがあり、そのチラシには【新築!】という文字があり、そこには綺麗に塗装され、汚れ一つないとても綺麗なアパートの写真が貼られていた。
だが俺の目の前にある家はというと、壁の塗装がところどころ剥がれており、汚れしかない、ビフォーとアフターを逆にしたかのような現象が起きている。
「な、なんだこのチラシとのギャッブは……」
俺は驚きのあまり立ち尽くしていた。
本当なら部屋に入り荷解きを直ぐに開始したいところなのだが、あまりの衝撃でそれどころでは無い。
「あれ!新しいお隣さん?」
これから住む家とのご対面に驚いていると、後ろから声が掛けられた。
そして振り返ってみると、このアパートにはとても不釣り合いな美人な女性が立っていた。
「はいそうです。えと、ここに住んでいる方ですか?
」
「少し前から住まわせてもらっています!瀬戸です!
」
「今日からお世話になります皇です。この後ご挨拶に向かおうと思ってたんですが、後ほどまたお伺いしても大丈夫ですか?」
「ぜひぜひ!ここまだ私しか住んでいなくて、少し寂しかったのでとても嬉しいです!」
久しぶりに向けられた笑顔に俺は少し嬉しかった。
瀬戸さん、凄くいい人だ。
こんな人がお隣さんでとても良かった。アパートの見た目はあれだが、住めば都とも言う言葉がある通り、住んでみなければ分からない。
「それではまた後ほど!」
そう言って綺麗な長い黒髪を靡かせながら去っていった。
◇
「新しく住むお隣さんがとてもいい人そうで良かった!」
そう言ってルンルンとソファーに座り鼻歌を歌うのは私、瀬戸 ゆりか。
「でもあのお隣さん、私に全然変な目で見なかったな〜」
自慢じゃないけど私はとても可愛いしモテる自覚がある。
スラリと伸びた身長に、艶やかな黒髪、鼻も高いし目も天然の二重で私は見た目にはかなりの自信がある。
だけど当然見た目が良ければ全て上手くいく訳ではない。
変な人に目を付けられるし、ストーカーにだってあったことがある。
だからこそ人の視線には人一倍敏感であり、その視線が何を思っているかは分かる。
欲の捌け口としか思ってない目だったり、金目になりそうだなという目だったりと、とてもどんよりとした気持ち悪い視線を向けられて来たのが私の人生。
だけどさっきの人は違った。
皇さん、彼は私の人生でも数少ない、そういった気持ちの悪いものでは無い視線だった。
だからか私はお隣さんが皇さんで良かったと思っている。
まだ少ししかお話出来てないけど、とても良い人だなというのは先の会話でわかった。
「よし!今日もダンス頑張ろ!」
私はそう言ってソファから降りる。
私はアイドルをしている。
私は私の外見を他人にお金として見られるのが好きではない。
ではなぜアイドルをしているかって?
それは私には憧れている人がいるから。
歳は私よりもしたなのに、私よりも凄い人。
今日隣に引っ越してきた人と偶然同じ苗字の皇 りん、この人に憧れて私はアイドル業界に来たんだ!




