1話 落ちこぼれ
才能、それは生まれた時から持つ人の可能性。
その可能性とは千差満別であり、時にはスポーツの、時には歌の、時には勉強の、時には努力の才能がある。
そういった才能を持ち生まれてきた者を人は天才と呼ぶ。
そんな天才というのは一芸特化であったり、はたまた何でもやれば出来てしまう天才の中の天才というのがいる。
天は人に二物を与えずなどと言うがそれはまやかしであると断言しよう。
天は人に二物どころか三物、四物と与えるが、人によってはゼロ物である。
それは同じ血を継いだ者同士であろうと変わらない。
なぜ分かるかって?
それは俺の兄妹が天才であり、俺だけが凡才だからである。
俺の兄は大学で会社を設立し、たったの数年で世界に誇れる大企業にした。
年収は軽く億を超えているのだとか。
そんな兄は高身長であり顔もイケメンである。
百人に聞けば全員がイケメンと答えるだろう。
アイドル顔負けの絶世の顔でありながらスポーツ万能であり、昔から成績も断トツトップ。
そんな兄と比べられ生きてきたのがこの俺。
俺には才能が無く、兄と同じように努力してもダメだった。
スポーツは中の上、勉強は平均点より少し上、顔は中の下だろう。
身長は兄とは正反対の低身長。
これだけでも辛いのに周りからは努力不足だの、兄を見習えなどと言ってくる。
そんな俺には一人の妹がいる。
もちろん例外に盛れず妹は兄の才能と同等の才能を保有し生まれてきた。
顔はもちろん美少女。
国を問わず世界中の人間が全員可愛いと言うだろう。
なんなら怒り狂った宇宙人だって妹を見ればたちまち笑顔になってしまうんじゃないかと言うほどである。
そんな絶世の顔を生まれながらに持ち合わせ、それにプラスして圧倒的な歌唱力を持ち合わせている。
妹の歌を聞けば世界観に引き込まれ、その歌声は世界平和を実現出来てしまうと感じてしまうほどである。
そしてもちろん兄と同じくスポーツも万能で、それに伴いダンスといった身体を動かす事は人一倍得意なのだとか。
そんな二人の板挟みに会いながら生きてきたのがこの俺は佐藤 亮である。
昔は皆から期待されていた。
だってそうだろう?兄も妹も天才なのだから。
だけど皆気づき初めてしまったんだ。
あぁこの子は才能がないのだと。
そこからだんだん冷たい視線を浴びるようになった。
当たり前だが努力はした。
兄や妹に少しでも追いつきたいという原動力からか、はたまた自分にだってほんの少しでも才能があると信じたいからか、そんなのとうの昔に忘れてしまった。
ただ人の2倍、それじゃ足りないから3倍、4倍と寝る間も惜しんで狂ったように努力を続けた。
最初は勉強を頑張った。
最初は学校の休み時間を削り、それでも追いつけなくて次はご飯の時間を削り、お風呂の時間、睡眠時間と徐々に私生活は勉強漬けになって行った。
それでも結果は実らなかった。
普通の子であればよく頑張った!君は頭がいいね!などと賞賛を受けられる程の結果なのかもしれない。
けど俺は普通の子ではない。
天才の中の天才。
人が乗り越えられない壁を安安と超えて行ける存在というのが身近に二人もいるのだから。
だから俺は気づいた。
勉強の才能は無いと。
そして次に行動を移したのはスポーツだった。
だがそれも結局は時間の無駄だった。
それからも歌やダンス、格闘技などと色んな方面へのチャレンジをしたが全て才能が無いと切り捨てた。
そうやって自分には何一つとして才能が無いと理解した瞬間、俺は全てを捨て逃げるように大学にて一人暮らしを決意した。
そんな一人暮らしの準備をしている最中、兄から話しかけられた。
「荷造りか?もしかして一人暮らしでもするのか?」
そういえば誰にも話していなかったな。
「そーだよ、俺はここを出ていく!」
「出ていってどうする?新しい自分の才能を発見しにでも行くのか?それとも全てが嫌で逃げ出すと?」
兄は昔から鋭い。
それに何も言えず俺は沈黙をする。
そんな俺に追撃のどこくため息を一つはき、俺が逃げたい現実を突きつけてくる。
「だから皆から見限られるんだよ」
そう、俺は周りから見限られた。
最初は学校の先生、次は周りの友達と少しづつ俺に期待を込めた視線から、冷ややかな冷たい視線へと変化して行った。
そして最後は親からも。
俺はうんざりだった。
だから逃げるんだ。
どこか誰も俺の兄妹のことを知らない世界に行きたくて。
「だったらなんだよ!見限られたことのねー兄貴に何がわかるってんだよ!逃げちゃダメなのか?やれること全てに全力を注いで、あれでもダメ、これでもダメ、そうして出来た失敗の山を見て俺はどうして逃げちゃダメなんだよ!」
俺は感情のままに言った。
俺は今まで兄に対してこんなことを言ったことは無い。
ずっと尊敬していたし、俺の目標であり、憧れだったから。
いつかその隣を歩きたくて努力をしていたんだ。
「……っ!?」
気づけば俺は涙を流していた。
兄はそんな俺を見て驚愕している。
それはそうだろう、俺は今までどんなに周りから何を言われても、どんなにしんどく立ち上がれなくても涙を流したことは一度たりとも無いのだから。
だけどそれは逃げない、負けない、いつか必ず追いつくと決めた俺の意思があったから。
だがその意志も今は無く、逃げることだけを考えているからか、俺はとめどなく涙を流す。
俺の視界は涙に覆われ、兄の顔が見れない。
どんな顔をしてそこにいるのかさえ分からない。
そして兄は無言でその場を去っていった。