第1話 多分、友達はいない
名前は祈川ぽんず。
女。
もちろん本名じゃない。
ポン酢の味と響きが好きだから、なんとなく名乗ってるだけ。
32歳、独身。実家暮らしのフリーター。
仕事はあまり長続きしなくて、正直いくつ転職したかも覚えてない。
特別なことはないけれど、誰かに話しかけるみたいに、ここに自分のことを残してみようと思った。
たぶん、私には友達がいない。
いや、正確に言えば、「友達だった人」はいたのかもしれない。
でも気づけば連絡もしなくなったし、そもそも私の方から誰かに連絡を取ることなんて、もうずっとなかった。
「ひとりが好きそうだよね」って言われたことがある。
でも、そういうわけじゃない。
本当は、誰かと本音でつながっていたかった。
ただ、無理して誰かと一緒にいるくらいなら、ひとりでいる方が、まだ楽だっただけ。
人に合わせるのは、昔から得意だった。
空気を読むのも、話題を合わせるのも、それなりに器用だったと思う。
でも、ずっと疲れてた。
くだらない話で盛り上がる輪の中にいても、心のどこかでは、置いてけぼりになってる気がしてた。
笑ってる自分の顔が、誰よりも嘘くさく見えた。
だから――
遠ざかっていたのは、きっと私の方だったんだと思う。
誰にも嫌われていないけど、誰にも必要とされていない。
そんな、都合のいい透明人間みたいな存在。
でも、それが楽だった。
傷つかなくて済む。気を遣わなくていい。
無理して笑う必要もない。
そんな生き方に、いつの間にか慣れてしまっていた。
それでも、夜になるとふと寂しくなることがある。
誰かの通知を待ってるわけでもないのに、
スマホを何度も見てしまったり。
誰もいない部屋の中で、音も立てずに沈んでいく気分になったり。
避けたんじゃなくて、馴染めなかっただけ。それがただ、続いただけ。
ひとつの言葉が、こんなに欲しくなる夜もある。
何かに誘われても、断る理由ばかりが口から出る。
そのくせ、ほんの少しだけ期待していた自分に気づいて、後でひとりで自己嫌悪に陥ったりもする。
「どうせ誰にもわかってもらえない」って、
心のどこかで諦めているようなふりをして、
それでも本当は、ずっとわかってほしかった。
私は、いつから誰かに期待することをやめてしまったんだろう。
これは、そんな私が綴る物語。
誰にも言えなかったことを、ただ、言葉にして残していく。
いつかどこかで、同じようにひとりで生きている誰かが、
この文章に触れて、「わかるよ」って思ってくれたら――
それだけで、私がここにいた意味が、
少しだけ報われる気がする。
無理して群れられない、孤独なあなたへ。
私はここにいるよ。