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家出した引きこもり伯爵令嬢は呪われた侯爵家で真相を究明する  作者: 弍口 いく


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42/44

その42 予想していたようです

 抱き合っている二人にリフェールは少し驚いたような目を向けた。アルドは間が悪かったとバツ悪そうに目を逸らした。


「殿下!」

 ヒューイは慌てて離れようとしたが、アシュリーは逆にガッチリしがみ付いた。

「これは、その……」

 離れないアシュリーに慌てふためくヒューイの手は震えていた。


「私、どこへも行きません、ヒューイ様の傍にいます」

「アシュリー、その話、今は」

「王宮へは行きません、私は」

 これ以上、アシュリーに言わせてはいけないと、ヒューイは強引にアシュリーを引き離してリフェールの前に跪いた。


「申し訳ありません、アシュリーは混乱しているんです、俺が変なことを言ってしまったせいです」

 深々と頭を下げた。

「殿下のご意向に背くつもりはありません」


 リフェールは張りつけた無表情でヒューイを見下ろした。

「でもハッキリ言ったよね、ヒューイの傍にいる、王宮へは行かないと」

「それは俺が迷わせるようなことを言ったからです、悪いのは俺です、罰するなら俺を」

「罰ってなんですか? 私、なにかしてしまったんですか?」

 二人の会話の意味がわからず、アシュリーは戸惑った。


「ほら、君が物騒なこと言うからアシュリーが怖がっているじゃないか」

 リフェールは不安げに瞳を揺らすアシュリーを気遣った。ヒューイは跪いたままアシュリーを見上げて、

「お前は怖がることない、俺が護るから」


「ほう、どうやって?」

 リフェールは冷ややかに言った。

「命に代えても」

 二人の視線がぶつかり、緊張が走った。


 一瞬の沈黙の後、リフェールは堪えきれずに噴き出した。

「まったく、君ってバカだな、よけいに彼女を怯えさせているじゃないか」

 リフェールが笑ったのを見たアシュリーはホッと力が抜けた。


 急に笑い出したリフェールの真意がわからず、ヒューイはまだ警戒していた。

「で、君はアシュリーになにを言ったの?」

「……ずっと傍にいてほしいと」

「そして彼女も君の傍にいたいと思っている」

 アシュリーはコクリと頷いた。


「それならそれで、いいけど」

「えっ?」

「なに、そんなに驚いてるの、言ったよね、彼女の希望は叶えるつもりだよって」

 リフェールの意外な言葉にヒューイはキョトンと間抜け面を晒した。


「でも、殿下は……アシュリーを傍に置こうとしてらっしゃるんですよね」

「彼女の魔力は国のために使ってほしいと思ったから、王宮魔術師団に来てくれないかと期待したんだけど、君の傍を離れたくないんなら無理みたいだね」


 ヒューイようやく体の力が抜けて、ガックリ肩を落とした。

「そんな紛らわしい」

「なにを勘違いしてたんだ?」

 リフェールは意地悪な笑みを浮かべた。


「説明不足だったかな」

「わざとではありませんか」

 アルドが笑いを堪えながら口を挟んだ。

「君は鋭いね、ヒューイが手放さないはずだ」


 ヒューイは最初から揶揄われていたことにやっと気付き、ヨロヨロと立ち上がった。

「俺で……遊びましたね」

「こうなることは予想していたよ、二人を見ていれば誰でも気付く」

 リフェールに視線を流されたアルドは大きく頷いた。


 だいたいの意味を理解し、真っ赤になっているアシュリーにリフェールは、

「でも、ゲンズブール公爵家への養女の件は、お祖母様の御意向だからのんでもらうよ、いったん公爵家へ行ってもらう必要がある。心配ないよ、ちゃんと歓迎してくれるから、向こうにはちゃんと侍女もいるし、ここより快適な暮らしが出来るはずだ」

「今でも十分快適ですけど」


「でも、嫁入り前の令嬢がなんの関係もない男の邸にいるのは非常識だからね」

 リフェールはヒューイに目を細めて、

「一緒に暮らしたいと思うなら、正式に婚約を申し込んで連れ帰るんだね」

「そんな、いきなり婚約なんて」

 ヒューイは慌てた。

「しないの?」

 リフェールは語気を強めた。


 そしてまたプッと噴き出した。

「邪魔者は消えるとするか、僕はアルドにお茶を御馳走してもらうよ」

 アルドに、

「君の入れるお茶は一味違うからね、王宮に連れて帰りたいくらいだよ」

「ありがたいお言葉です」


 二人はヒューイとアシュリーを残して薔薇園を後に歩き出した。

「出逢って一か月余りで結ばれるなんて、ロマンチックだね」

 リフェールは満足そうにニコニコしている。

「まだ結ばれてはいないと思いますけど」

「心の話なんだけど」

「失礼しました」


「ところで姉上から連絡はあったか?」

「ええ、手紙が届きました、元気にしている、働き口が見つかったと書いてありました。それが本当ならいいのですが」

「そうだね」





 残されたヒューイとアシュリーは、気まずい雰囲気。

「えっと……そう言うわけだから」

 ヒューイが沈黙を破った。


「そう言うわけって?」

「お前はいったんゲンズブール公爵家へ行くということだ、でも、すぐに迎えに行くから」


 ヒューイはアシュリーの前に片膝を立てて屈んだ。

「アシュリー、愛している、俺の妻になってほしい」

 彼女に手を差し伸べた。

「ずっと傍にいてほしいんだ」


 家出した時はこんな未来が待っているなんてアシュリーは予想していなかった。

 自由になれる、家のために決められた人生を歩むのではなく、自分で決めることが出来る、恋愛だって自由にできる、恋をしてもいいんだ、夢じゃなくてリアルに運命の出会いを求めてもいいんだ。そう思っていたが、まさか恋愛経験ゼロの自分が、本当に運命の出逢いをするなんて思ってはいなかった。


 アシュリーはヒューイの手にそっと自分の手を重ねようとしたが、思いが溢れて彼に身体ごとダイブした。

 突飛な行動を受け止めきれずに、ヒューイは尻もちをついた。

「おいっ」


 アシュリーは言葉もなくヒューイに抱きついた。

「やれやれ、とんだじゃじゃ馬に惚れてしまったな」

 ヒューイも彼女を抱きしめた。


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