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家出した引きこもり伯爵令嬢は呪われた侯爵家で真相を究明する  作者: 弍口 いく


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その40 あれは呪いのせいです

「結局、トンプソンの罪はオリヴィアを誤って殺しまったことに限定したんだね、そしてショックのあまり錯乱して暴れた」

 リフェールはシモンズ侯爵邸の応接室のソファーで、ヒューイ、アシュリーと向かい合いながら優雅にティーカップを傾けていた。


「ええ、異母兄あに夫妻の事故、マイヤー夫人の事故、ブランの毒殺もアルドの調査結果と合致しますが、物的証拠はありませんし、蒸し返す必要はないと判断しました」

「そうか」


「アルドはリーナを見逃してくれるならと了承してくれました」

「それでアルドの処遇は?」

「そのままです、犯罪に加担したわけではありませんし、一人で調査して、すべての事件を解明してくれたのは彼です、優秀な人材ですからね。彼も残ることを希望しています、ここにいればリーナが連絡してくれるのではと期待しているようです」

「甘いな、君は」

 リフェールは吐息を漏らした。


「でも、説明のつかないこともあります、トンプソンの異常な力とか」

「何人もの騎士をなぎ倒したトンプソンは剣の達人だったわけだな」

「そんなはずないでしょ」

「デュランに聞いたけど、凄かったらしいじゃないか」

「幸い使用人たちは逃げて見ていないし、騎士団には箝口令を敷きました、あんな場面を見たら、呪いのなせる業だと思われるのも無理ないですから」


「あれは呪いのせいです」

 それまで黙って聞いていたアシュリーが口を挟んだ。

「呪いはトンプソンさんにかけられていた、地下通路の魔法陣はカモフラージュで、トンプソンさん自身に呪いの魔術をかけたんですよ」


「人を操る呪いなんて、そうとう強い魔力を持っていないとかけられない魔術だよ、リーナにそれがあったと思っているのかい?」

 リフェールは疑問視したが、

「でも、トンプソンさんを取り巻く黒い靄のようなもの、あれは呪いの思念だったと思います、ブランさんの部屋にも残っていました」

 アシュリーはリーナが浮かべた不敵な笑みが目に焼き付いて離れなかった。あれは復讐が成就した満足だったのではないかと感じていた。


「リーナはなぜトンプソンを呪ったんだ? ライナスの死に直接関係していない彼女を呪う理由がわからない」

「それは……そうなんですけど」

 そう言われると返す言葉がない。彼女が関係のない人まで巻き込むような人だったのだろうか?と。


「憶測でしかないけど、それはトンプソン自身の怨念だったんじゃないかな。彼女はシモンズ家にいる人たちを長年に渡り恨んでいたんだろ、普通は人を殺したいほど憎んでいても理性が踏みとどまらせる。でも、その理性の枷がはずれたとしたら?」


「そう言えばアルドが言ってました、トンプソンはリーナの魔術なんか信じていない、それにかこつけて利用したんだと」

「呪いの魔術のせいにすれば積年の恨みを晴らす隠れ蓑になると思った、それが理性の枷が外れたきっかけだったのかも知れないな」


「じゃあ、魔術は最初から関係なかったんですか? 私が感じた呪いの思念や黒い靄は、トンプソンの怨念、邪悪な感情の現れだったということですか」

「君は邪なモノを見る力を持っているんだろうね」


「トンプソンの異常な力は怨念のなせる業だったとして、じゃあそれを打ち消したアシュリーの力は」

 ヒューイはアシュリーに視線を流した。

「私はなにもしていません、ヒューイ様の実力です」

「いいや、あの時、確かに感じたよ、背中に当てた君の手から温かい力を、それにあの光は」


「それこそ、ヒューイを助けたいと願って発現したアシュリーの魔力じゃないかな」

「私には魔力があると?」

「自覚はなかったんだろうけど、魔力を持っているからこそ良質な薬草を育てることが出来るんだ、それこそが魔女の末裔であるヘイワード家の血に流れる力なんだよ」


「でも、そんな魔力があったのなら、三年前の事件は防げたのではないですか?」

 三年前にその力を発揮できていたら、母を助けられたかも知れないとアシュリーは悔やんだ。


「魔力を持っていても訓練しなければ使いこなせない、君も母上もそれを知らなかったのだから仕方ないよ。いいや、母上は知っていても望まなかったのかも知れないね、魔術を使える者は希少だ、権力闘争に巻き込まれかねないから」

「そういうものなのですか?」


「君は世間知らずなんだね」

「社交界にも出ず、引きこもっていましたから」

「そうか、でも公爵令嬢になれば社交界に出てもらわなければならないね」

「えっ?」


「アシュリーはヘイワード伯爵家から除籍されて身分がない状態だから、お祖母様に相談したら、実家のゲンズブール公爵家に養女として迎えてくださることに決まったよ」

「決まったって……」

「拒否権はないからね」

 リフェールの強い口調にアシュリーが委縮したのを見て、ヒューイは彼女の頭にポンと手を乗せた。


「社交界で顔を売るのは王家との繋がりを示すためだ、王太后様のご実家ならヘイワード伯爵も手出しできないからな」

「お祖母様は君がそんな目に遭っているなんて知らなくて驚いてらした。君のお祖母様が他界されてからは疎遠になっていたけど、もっと気にかけていれば良かったと後悔されているんだ」

「そんな、勿体ないお言葉です」


「王太合様は確か持病がおありで、薬が」

 言いかけたヒューイをリフェールが遮った。

「君ってデリカシーがないよね、そんなこと言ったら、まるでお祖母様が薬草目当てみたいじゃないか」

 アシュリーの方に身を乗り出して、

「違うからね、本当に君のことを心配なさってるから」

「ええ、わかっています」


 すべてのお膳立ては済んだ訳だ。アシュリーにとっては申し分ない身分だが、ヒューイは複雑な心境だった。アシュリーがこの邸から出て行く日が近いと思うと寂しさは否めない。

 それはアシュリーも感じていることだった。


 しかし二人とも言葉にはしなかった。

 そんなヒューイとアシュリーのぎこちない様子をリフェールは意味ありげに見ていた。


「公爵令嬢になるからと言って自由を制限するつもりはないよ、君のやりたいようにすればいい。本音は、王宮の敷地内で薬草を栽培してくれば助かるんだよ、ヘイワード家の薬草畑は全滅だから薬師たちが困っていてね、でも無理強いするつもりはないよ」

 リフェールは微笑みながら言いつつも、その目は強く望んでいた。


「良質の薬草を生み出す魔女の血統が必要なのですね、リフェール殿下は私が魔力を持っていることを見抜いてらしたのね」

「ああ、初めて逢った幼い頃にね、僕と同じ瞳だったから」

「えっ?」


 リフェールは眼帯を外した。

 その左目は紫水晶アメジストの瞳。


「何世代か前に王家は魔女を王妃に迎えたことがあったんだろうね、その後ずっと魔力を持つ者は生まれなかったんだけど、忘れた頃に魔力を持つ僕が生まれたってわけ、でも、オッドアイは特殊だから隠してたんだ」


 それを見たアシュリーの脳裏に幼い頃の記憶が蘇った。

〝綺麗な目をしているね〟

 その言葉には続きがあった。

〝僕とお揃いだ〟

(なぜ忘れていたんだろう、あの時、殿下は眼帯をされていなかったわ)


「君と僕の先祖は一緒なのかもしれないね」


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