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家出した引きこもり伯爵令嬢は呪われた侯爵家で真相を究明する  作者: 弍口 いく


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その35 魔女を発見しました

 ヒューイは身を隠しながら、近づいてくるランプの灯りに目を凝らした。灯は二つ、ゆっくりこちらに向かってくる。


 ヒューイに抱き寄せられたアシュリーは、こんな状況にもかかわらず彼の吐息がかかる距離にドキドキしていた。心臓の音が、接近してくる正体不明の男女にも聞こえないか心配になるほど高鳴った。


 それは平静を装っているヒューイも同様だった。心拍数の上昇は敵の接近による緊張からか、それともアシュリーの体温を感じてのことなのかはわからなかったが……。

 ランプの灯がいよいよ近付いた時、ヒューイはアシュリーを背に押しやりながら剣を抜いた。


 刃は男の首元でピタリと止まった。

 刃先が当たった冷たい感触に、男はビクッとして立ち止まった。

 ランプに照らし出された男の顔は、

「アルド! お前がなぜ」

 ヒューイは驚きの声を上げた。


 剣を喉元に突き付けられて身動きできないアルドは、目だけを動かしてヒューイとその後ろから顔を出すアシュリーを確認した。

「おや、こんなところで逢引きですか」

「ふざけるな!」


 ヒューイが見せた一瞬の動揺をアルドは見逃さず、刃を首に当てられたまま故意に踏み込んだ。

 アルドの皮膚がピッと裂ける。

 本気で斬るつもりがなかったヒューイは反射的に剣を引いた。


「逃げて姉さん!」

 剣を恐れずアルドはヒューイに体当たりして壁に押しつけた。


 後退りしたリーナとアシュリーの視線が交錯した。

(あの時の女性だ!)

 大きく見開いた瞳は紫色に煌めいていた。


 躊躇していたリーナだったが、クルリと背を向けて駆けだした。

「待って!」

 アシュリーは追おうと踏み出すが、すかさず出したアルドの足に引っかかって膝をついた。


「キャッ!」

 アシュリーの悲鳴に、リーナは一瞬振り向いた。

 再び視線が合ったアシュリーに、リーナは不敵な笑みを浮かべた。


 なんとも言い難い悲壮感漂う笑みだった。その意味かわからずアシュリーはゾッとして固まった。


 リーナは再び背を向けて走り出した。

 ランプも持たず闇の中に消える足音だけが壁に反射した。


「くそっ!」

 不覚を取ったヒューイだったが、アシュリーが立ち上がった時は体制逆転しており、アルドを後ろ手に拘束していた。

「逃がしたか」

「ごめんなさい」

「お前のせいじゃない、大丈夫か?」

「ええ」

 少し膝を擦り剥いているだろうが、たいしたことはなさそうだった。


 ヒューイはアルドを引っ張った。

 後ろ手に縛られたアルドは無理な態勢で乱暴に扱われて顔を歪めた。

「お前だったとはな」

「姉さんって言いました? さっきの人のこと」

 アシュリーはアルドに迫った。


「ええ」

 アルドはヒューイに視線を向けて、

「メイドの顔なんか覚えていないでしょうけど、五年前まで邸で働いていたリーナです」

 確かにヒューイは、自分と関わり合いのない使用人まで覚えてはいなかった。


「幼い頃、離れ離れになった俺の姉だったんです、偶然ここで再会したんですけど、ライナスの死でショックを受けて失踪してしまいました」

「ライナスの?」

「恋人だったんです、結婚間近でした」

「まさかライナスの復讐のために舞い戻ったのか?」


「ええ、姉はそのつもりでここに潜んでいたんですが、俺は見つかる前に連れ出そうとしていたんです」

「アンを殴って気絶させたのはお前か!」

 ヒューイはアルドの胸ぐらを掴み上げた。

「申し訳ありません、あの時は咄嗟にそうするしかなかったんです」

 今にも殴り掛からんばかりの勢いのヒューイの手を、アシュリーは掴んで止めた。


「私は大丈夫だったんですから」

「脳震盪を舐めるな、後遺症が残ったかもしれないんだぞ」

「もうなんともありません」

 ヒューイは突き飛ばすようにアルドを放した。


 アルドが尻もちをついたその地面にはちょうど魔法陣が描かれていた。

「それは」

「落書きですよ」

 アルドは吐き捨てるように言った。

 アシュリーは屈んで魔法陣にそっと触れてみた。確かに、この魔法陣からはなにも感じなかった。


「こんな落書きで呪いの魔術が発動するわけありません、姉は自分が魔術師だと思っていますが、呪いで人を殺すことなんて出来ませんよ、正気ではないんです、五年前に最愛の人を亡くしてからずっと精神を病んでいるんです」


「彼女がそんな状態なら、医者に見せるとか方法はあるだろ、相談してくれればよかったのに」

「侯爵家に侵入したんですよ、それだけでも重罪です。頭のおかしい女が何かやらかしたと疑われるだけです、だから姉の無実をはらすのが先決で、調べていたんです」


 ヒューイはリフェールから、アルドが事件を調べていると聞かされていたが、そう言う訳だったのかと納得した。

「このままだと、真犯人にすべての事件をなすりつけられるのは目に見えていますから」

「真犯人って誰なんだ」

「まだ、確証はありません」

 アルドは残念そうに俯いた。


「とにかく戻って、お前が調べたことも詳しく聞かせてもらおうか」

 ヒューイはアルドの腕を掴んで立たせた。

「俺の話の前に、デュラン隊長があなたを捜していますよ、ジャックが自殺した件で」

「自殺? 牢内でか」


「ええ、禁断症状に耐えかねたのだろうと思いますよ、それも呪いのせいにされかねませんから、リーナを一刻も早く逃がさなければならないと思って急いでここへ来たんです。でも、まさかこんなところであなたたちが逢引きしているとは思いもよりませんでした」


「逢引きじゃない!」

 ヒューイとアシュリーは揃って真っ赤になったが、暗くてアルドに見えなかったのは幸いだった。


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