その33 地下牢で事件です
「ヒューイ様の許可なしでお通しすることは出来ません」
夕食も終わった夜更け、騎士棟の地下にある牢屋に来たオリヴィアとダリアは、見張りに立つ騎士に止められた。
昨日の計画通り、銀食器を盗んだダリアはそれをいったんオリヴィアの部屋に隠してから、二人はジャックが囚われている地下牢に赴いたが、簡単には通れない。
「私が頼んでもダメなの?」
オリヴィアは潤んだ上目遣いで騎士に迫った。
身体を押し付けるようにして、
「ダリアがあまりに可哀想で、一目ご主人に会わせてあげたいだけなのよ」
オリヴィアは騎士の胸に手を当てた。
「お願い、内緒にしておくから」
「そ、そう言われましても」
騎士が困り果てた、その時、
「大変だ!!」
奥から大きな叫び声がした。
「なんだ!?」
騎士は慌ててそちらへ向かった。
そのチャンスを逃さず、オリヴィアとダリアもあとに続いた。
「何事だ!」
牢の前で騎士が鉄格子を握りしめて中を覗き込んでいた。
そこへもう一人が鍵を持って駆け付けた。
ダリアが見張りの騎士を追い越して、牢の前へ駆け寄った。
「ジャック!」
牢内を覗き込んだ時、ダリアは目に飛び込んだ光景に言葉を失った。
中には、首を吊ったジャックの姿があった。
切り落とされた右腕に巻かれていた包帯をほどいてロープ代わりし、窓の鉄格子に結び付けて首を吊ったのだ。
鍵が開けられると、ダリアは屈強な騎士も止めることが出来なかった凄い勢いで中に飛び込んだ。
「嘘よ!! ジャックぅ!!」
ジャックに縋って半狂乱になった。
「なぜこんなことに!!」
「やめろ! 離れろ!」
騎士二人がかりでダリアを引き離した。
騒ぎを聞いて駆けつけたデュランは中の状況を見て愕然とした。
「なんだ、これは!」
「申し訳ありません、ちょっと目を離したすきに、痛み止めが効いてずっと眠っていましたから、まさかそんなことをするとは」
牢の中で騎士に取り押さえられているダリアと、恐怖で足が竦んで動けないでいるオリヴィアを見下ろし、
「なぜ、部外者がいるんだ」
デュランに睨みつけられたオリヴィアは青ざめた。
「わ、私は……」
いたたまれなくなってその場から逃げ出した。
後からダリアの叫びがずっと追いかけてくる恐怖からオリヴィアは耳をふさぎながら走った。
逃げたオリヴィアは捨て置き、
「下ろしてやれ」
デュランは低い声で命令した。
騎士に抑えつけられているダリアは、身を捩りながら横たえられるジャックに手を伸ばしていた。
「なんの騒ぎです」
そこへ現れたアルドは牢の前まで来た時、ちょうど騎士たちに下ろされて、床に横たえられたジャックの遺体を見て思わず口を押えた。
「自殺したのですか」
「違うわ! 殺されたのよ! 呪い殺されたのよ!」
ダリアはすかさず叫んだ。
「呪いなんかない、ジャックは薬物中毒で禁断症状に堪えられなかったんだろう」
デュランは冷たく言ったが、
「シモンズ家は呪われているのよ! お嬢様が見たのは魔女よ、どこかに潜んでいるのよ! そして次の獲物を狙っているのよ!」
ダリアの甲高い声が牢内に響き渡った。
「次は隊長さんかも知れないわよ!」
ダリアはデュランを指さした。続いて、
「そっちの騎士さんかも、いえ、アルドさんかも!」
と次々と指さした。その顔はもはや正気を失っていた。
「この女をつまみ出せ」
「はい」
二人の騎士がダリアの両脇を抱えて、引きずるように連れ出した。
「みんな殺されるわ! この邸にいる者全員、呪い殺されるのよ!」
ダリアはなおも叫び続けた。
「それからヒューイ様に連絡を」
残った騎士に指示した。
「はい」