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家出した引きこもり伯爵令嬢は呪われた侯爵家で真相を究明する  作者: 弍口 いく


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その28 魔女の血が流れているようです

 アルドとリーナは地下通路から地上へ出た。

 そこは広い外庭の片隅にある小屋だった。地下通路はそこまで伸びており、地上への出入口となっていた。手入れされていない庭は雑木が覆い茂り、存在さえ忘れられている作業小屋に来る者はいない。


「酷いよ、俺になにも言わず消えるなんて! どれほど心配したか、五年間ずっと捜し続けていたんだぞ」

 アルドは怒りを露にした。


 ライナスが亡くなった日、アルドは侯爵の用事で領地へ出張しており不在だった。一週間後、仕事を終えて戻った時はすべてが終わっていた。


 ライナスの死はただの病死、シモンズ侯爵家には何の落ち度もないと、見舞金も哀悼の言葉さえなかった。ライナスの葬儀後、アルドの帰りを待つことなく、リーナは邸から姿を消した。


「ごめんなさい、あの時はあたし正気じゃなかったのよ」

「俺はそんなに頼りにならないのか? あんな時だからこそ支えたかったのに」

「あなたに迷惑はかけたくなかった、あのまま邸にいたらなにをしでかすかわからなかったから、とにかく一刻も早く離れたかったのよ」


「ライナスのことはほんとに残念だったよ、もしあの日、俺が邸にいたらなんとかしてあげられたかも知れなかったのに」

「領地へ行ってたんだから仕方ないわよ」


 ライナスの死にショックを受けたラッセルも、病が癒えることなく亡くなった。人望が厚かった老師匠ラッセルの弟子は多く、シモンズ邸での出来事はたちまち広まった。あの邸は無理を押し付けたあげく、病気になっても見殺しにすると悪評が立ち、庭師が来なくなった。


「なぜ、五年も経った今になって復讐しようと思ったんだ? 地下通路の存在をどうやって知ったんだ? 邸に忍び込んでなにをしようとしているんだ?」

 矢継ぎ早に質問するアルドは口調には怒りがこもっていた。


「五年間、力をつける努力をしていたのよ、そしてようやくと手に入れた、呪いをかける魔術の力を」

「はあ? 魔術だって」

 五年間も思い詰めすぎてとうとう頭が変になったのかとアルドは心配したが、リーナの眼は真剣だった。


「紫の瞳は魔女の瞳、あたしには魔女の血が流れているのよ」

 狂気をはらんだその目を見てアルドは鳥肌が立った。


「そんな話信じられないのも無理ないわよね、あたしだって本当に魔術が使えるなんて思ってなかったから。あんなことがなければ一生目覚めることがなかった力よ。偶然、いえ運命だったのかも知れない、旅の魔術師に会ってね、あたしの瞳を見て素質があると言ってくれた、だから魔術が使いこなせるように修業を積んだのよ」


 姉は五年前と変わらず正気を失ったままなのかとアルドは背筋が冷たくなった。目は鋭く吊り上がり、優しかった温和な表情は影を潜めてすっかり雰囲気が変わっていた。


「ようやく人を呪い殺せるだけの力がついたから半年ほど前に戻ってきたのよ」

「半年も前に?」

「そうよ、まずは前公爵夫妻と御者のマイケルを標的にしたわ、頼みを聞いて病院に運んでくれていればライナスは死なずにすんだかも知れない」

「まさか、あの事故は呪いで起こしたと?」


 どうやって? とアルドは聞きかけたが、リーナは最初から魔術だと言っているので神経を逆なでするのはよくないと思い聞くのをやめ、質問を変えた。

「それからずっと潜んでいるのか? よく見つからなかったな、それに食事とかはどうしているんだ?」

「トンプソンさんが協力してくれてるのよ」

「トンプソンが?」


「彼女もシモンズ家に恨みがあるから、利害が一致してるの」

「恨みとは?」

「詳しくは聞いてないわ、彼女も言いたくないみたいだし、でも働いていた時噂を耳にしたことはあるの、彼女、前々侯爵の愛人だったらしいわ、後妻に迎えると言われていたのに、結局は捨てられたみたい」


「そんなことがあったのか」

「私たちが働き出すよりずっと前の話だから、古い人しか知らないわ」

「でも、その人はもう亡くなってるじゃないか」

「それでも、自分の一生を台無しにした侯爵家を恨んでるのよ、だから子々孫々まで消してしまいたいらしいわ」

「ひえ~っ、女の恨みは恐ろしいね」


「彼女と会ったのは偶然だけど、私の顔を見て復讐しようとしていることを察したって言ってたわ。それほど恨みがましい顔をしていたのね、だから匿ってくれたのよ、魔術を発動させるなら標的により近い方がいいから、邸の下まで伸びているこの秘密の通路を教えてくれたの」

 アルドにはトンプソンが魔術を信じたとは思えなかった。彼女はなにか別の目的があるのではないかと勘繰った。


「じゃあ、今までの事件はすべて姉さんがかけた呪いの魔術だと言うのか? マイアー夫人も?」

「マイヤー夫人に恨みはなかったけど、トンプソンさんに頼まれたのよ、彼女も古株だからトンプソンさんの置かれている立場を知っていて、よくバカにされたと言っていたわ」

「バカにされた、それだけで?」

「ブランもね、あの男はあたしも許せなかったし」


 アルド自身、次々と人が死んでいることに違和感を抱き、なにか陰謀が絡んでいるのではないかと秘かに調べていたのだが、まさか、呪い殺したなどと聞かされるとは思ってもいなかった。


「まだ終わってないんだから、邪魔はしないでよ」

「バカげてるよ、呪ったって、復讐したって、ライナスは帰って来ないだろ」

「あたしの時間は五年前に止まったままなの、やり遂げないと時間は進まない、身動きできないのよ」


「姉さん……」

 すっかり人が変わってしまった姉を見て、アルドは胸が締め付けられた。


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