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家出した引きこもり伯爵令嬢は呪われた侯爵家で真相を究明する  作者: 弍口 いく


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その26 秘密の通路を見つけました

 ドアの外が静かになり、ヒューイがあきらめたことはわかった。しかし、これからどんな顔で会えばいいんだろう。

(思い切り噛みついちゃったのよね、痛かっただろうな)


 思い出すと恥ずかしさがこみ上げる。

(子ども扱いされても仕方ないわね)

 アシュリー自己嫌悪に陥りながらなにげなく窓辺へ行った。窓の外には騎士の姿があった。

 アシュリーはハッとして、入口のドアを開けた。

「ご機嫌はなおりましたか?」

 部屋の外にいたデュランが行く手を阻んだ。


(見張られてるんだ)

 アシュリーはヒューイの言葉を思い出した。〝リフェール殿下は君を国から出さないつもりだ〟逃げられないと言われた。

 なぜそれほど執着されるのかアシュリーには理解できなかった。


 確かにヘイワード家の薬草を栽培していたのは自分だが、残った者で畑の管理が出来ないなら、王宮から専門家を派遣すれば済むことだ。自分がいなくなっても困ることなどないはずだとアシュリーは思っていた。アシュリーは魔女の末裔の血脈、魔力があるなんて自覚はないし信じていなかった。


「ヒューイ様は怒ってらした?」

 きっと痛かっただろうし、噛みつかれるなんて屈辱だろう。

「いいえ、反省しておられましたよ、あなたを傷付けたと」

 デュランは穏やかな笑みを浮かべながら言った。


「女性の扱いに慣れていない人ですから許してあげてください、つい先ほどまではここでウロウロされていましたが、急用で出かけられたので俺が代わりに」


「見張ってるんですね?」

「心配されてるんですよ、まだ手首の怪我が治り切っていないのに無茶なことしないかと。詳しい事情は聞いておりませんが、ヒューイ様にとってあなたは特別な存在らしい、あなたが望まないことはならないはずです、信じてあげてください」


 デュランに促されて室内に戻ったものの、アシュリーは疑心暗鬼に陥っていた。

(信じていないのはヒューイ様の方じゃない、私を監禁するつもりなの?)

 ヒューイが悪い人ではないことはわかっている、しかし、リフェールの手先であることには違いない。きっとリフェールのところへ、伯爵家に戻す話をしに行ったのだと思い込んだ。


(逃げなければ、連れ戻されてしまう! お金はないけど戻ってきた鞄がある、ヒューイ様はいい品だと言っていたし、これを売れば金になるはずだわ)

 アシュリーは祖母から母へ、母から自分へと譲られた鞄を取り出そうとクローゼットを開けた。


 そのとき、ふとクローゼットの奥に違和感を覚える。

 密閉された空間のはずなのに空気の流れを感じたのだ。

 アシュリーは違和感の正体を確かめようと、クローゼットの奥に手を伸ばした。


 突き当った壁に触れると、

 ガタン! と壁の一部が後ろに倒れ、アシュリーは勢いあまって倒れ込んだ。

「痛っ!」

 負傷している左手も着いてしまい少し痛かったが、さほど酷くなかったことは意外だった。

(ずいぶん回復しているんだわ)


 安心しながら顔を上げると、そこには正方形に開いた穴があった。人ひとりが屈んで通れる大きさの隠し扉だった。


(こんなところに抜け穴? 秘密の通路?)

 空気の流れがあるということは、外に続いているのかも知れないとアシュリーは考えた。しかし、ずいぶん古く、何年、いや何十年も使われていない雰囲気だ。通り抜けられるとは限らない。


(でも、行くしかないわ!)

 アシュリーはいったん部屋に戻り、鞄に荷物を詰め込んでから、先にその鞄を隠し扉の中に放り込んだ。そしてランプを手に一か八か、人ひとりギリギリ通れるその通路に入った。


 四つん這いになりながらアシュリーは進んだ。

 鞄とランプを前に置きながら、埃っぽい通路を少しずつ前進する、ランプの灯が消えないということはちゃんと空気がある証拠、やはりどこからか新鮮な空気が入り込んでいるのだ。


 程なく、狭い横穴から、立ち上がれる通路に出た。

 そこはあきらかに人工的に造られたものだった。ランプで照らすと左右どちらにも奥へと延びる通路があった。


(ここは、なに?)

 全身に鳥肌が立った。

 なんとも言えない嫌悪感、よどんだ空気に包まれて、身体の底から得体の知れない恐怖が沸き上がる感じに足が竦んだ。


(呪いの思念が充満している?)

 なぜかそう感じた。

 呪いの噂は本物で、オリヴィアが見たと騒いでいた黒マントの魔女がここに潜んでいるのかも知れない。

(もし、出くわしたら……)


 しかし、来てしまった以上、進むしかない。どちらに行けばいいか? それはもう勘に頼るしかない。

ランプを持つ手が震えた。

 根拠はなかったが、アシュリーは右へ行くことにした。


 その時、不意に脇道から出てきた人影とぶつかりそうになった。


「きゃ!」

 お互いに短い悲鳴を上げる。

 相手も驚いたようだった。


 それはフード付きの黒マントを着た女だった。


 黒マントの女も驚いた目をアシュリーに向けた。

 視線が合う。

(あなたは!?)

 彼女の瞳が紫色だったことにアシュリーは驚いた。


 次の瞬間、後ろから衝撃を受け、プツリと意識が途切れた。


 アシュリーはその場に倒れた。


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