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家出した引きこもり伯爵令嬢は呪われた侯爵家で真相を究明する  作者: 弍口 いく


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22/44

その22 忌まわしい過去がありました

「下賤な平民女か……」

 自分の母もあんな風に言われていたのかと想像すると、ヒューイは胸が痛んだ。


「困ったお嬢様ですね、あれじゃ、嫁ぎ先を探すのに苦労するでしょうね」

「いや、彼女に婿養子を取らせることも考えている」

「本気ですか?」


「よく考えてみろ、運よく結婚できたとしてもあの性格だ、出戻ってくる可能性大だろ、そうなると俺はまた面倒を見なきゃならない」

 ヒューイは思いきり顔を歪めた。

「確かに」

 デュランも渋い顔をした。


「それなら、彼女の婿に爵位を譲って、俺は王宮騎士団に復帰させてもらうほうがいいと思ってるんだ」

「そう簡単にいきますか? シモンズ侯爵家の広大な領地運営を円滑にこなせる優秀な者が必要なのですよ、金や爵位目当てではたちまち没落してしまいます。それなのに、あのお嬢様が相手では婿取りも難航するのは目に見えています」

「最悪の家庭環境だったから同情の余地もあるが、それでも母親に似るもんなんだな」


 オリヴィアの母親、ヒューイの異母兄カイルの妻イザベルは、清楚で美しい仮面を被った性悪女だった。結婚してから気付いた時にはもう遅く、自分勝手で贅沢三昧、侯爵家の金を湯水のように使った。


 先代が病死してから注意する者はなく、気の弱いカイルは妻の勝手な行動を止められずに目を背け、自分も外に愛人を作って家に寄り付かなくなった。それをいいことにイザベルも若い男をはべらせるようになった。


 発覚した家令ブランの横領は、イザベルが指図していたのかも知れないとヒューイは考えていた。


 ヒューイがまだ寄宿舎に入る前でこの邸にいた頃から、兄夫婦の不仲は知っていて、幼いオリヴィアに同情していたが、まさか自分に火の粉がかかるとは思ってもいなかった。

 それは六年前、彼がまだ十三歳になったばかりの少年時代、傷つきやすい多感な年頃だった時のこと。





 深夜、ヒューイの寝室にイザベルが入ってきた。

 その日もカイルは不在だった。


 イザベルは無言でガウンを脱ぎ捨て、ヒューイのベッドに入って来た。

 むせ返るような甘い香水の香りがデュベの中に充満した。

 パジャマのズボンの中に手を入れられ、彼女が何をしようとしているのかわかるが、純情だったヒューイは恥ずかしさに声も上げられない。


 体格的には女性一人、押しのける力は十分にあったはずだ。しかし、ショックとパニックで身体が動かなかった。

 ヒューイの身体を愛撫しながら馬乗りになるイライザから顔を背けることしかできない自分が情けなかった。


 気持ち悪い、嫌悪感しかなかったが、意に反して体は反応してしまう。

 ヒューイは最悪な初体験をさせられてしまった。


 翌日、明らかに挙動不審なヒューイにデュランが気付いた。剣の稽古にも身が入らず、気もそぞろで呆然としている。そして、肩に触れただけで過剰反応して青ざめる。


 美少年だったヒューイを見るイライザの性欲丸出しの視線に気付いていたデュランは、なにがあったかを察した。デュラン自身も色目を使われており、嫌悪感から思い切り避けていた。領地の本隊へ戻る申請も出していた。


 そしてヒューイから夜這いされたことを聞き出したデュランは、すぐに彼を領地へ連れ帰った。

 カイルはもともと異母弟を疎ましく思っていたので、ヒューイのことはデュランに一任された。


 その後、ヒューイは王立学園騎士科に入学して寄宿舎に入った。以来、一度も帰郷していない。

 異母兄夫婦が亡くなるまで、一度も顔を合わせることはなかったが、忌まわしい出来事は深い心の傷となり、今なお彼を苦しめていた。





 ヒューイが不快な過去を思い出していると察したデュランは、無言で彼の肩をガシッと掴んだ。

「大丈夫だよ」

 心配してくれているのがわかったヒューイは無理に笑顔を向けた。


「ちょっと外に出てくる、この悪臭が消えるまで」

 部屋に充満した香水の臭いを嫌ったヒューイは俯きながら部屋を出た。


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