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その21 誤解されているようです

「邸の中はくまなく調べましたが、侵入者は発見できませんでした」

 事件後、デュラン率いる騎士団は邸の内外をくまなく探索したが、なにも掴めなかった。ヒューイは執務室でデュランから残念な報告を受けていた。


 ブランの死は、一旦は自殺と断定したもののヒューイは納得していなかった。腑に落ちない点が多々あるし、オリヴィアが見たと騒いでいた黒マントの魔女も気になる。


 他の者たちは、気を引くためのでっちあげだと思っていたが、ヒューイはリフェールに聞いた話から、アシュリーが感じた呪いの思念を信じはじめていた。

 魔術師が本当に存在するなら、邸のどこかに潜んでいる可能性も捨てられない。


「ただ、この邸は古く、昔の戦時中に造られた地下通路があるんですよ、今は使われていないので閉鎖されていますから、そこまでは探索できませんでしたが、或いは」

「調べるとなると大掛かりな捜索になると言うわけか」

「人員も必要です、領地の本隊から何名か手配しましょうか?」


 もしリフェールの危惧が当たって、魔術師が絡んでいるのなら、王宮魔術師たちに依頼した方がいいのかも知れないが、どうしたものかとヒューイは腕組して考え込んだ。


 その時、ノックがした。

「誰だ」

「オリヴィアです」


 入室の許可も待たずにドアが開いた。

「お手伝いに来ました」

 彼女の入室と同時に充満する甘ったるい香りにヒューイは思わず顔を歪めた。

「会計士が処理したから必要ないと言っただろ」

 理解できなかったのか、それとも無視しているのかわからないがヒューイはイラっとした。


「でも、お仕事は他にもあるのでしょ、ヒューイ叔父様一人では大変だから私もお役に立ちたいのです」

 上目遣いで甘える声を発するオリヴィアに、ヒューイは嫌悪感を覚えだ。


「それより、荷物をまとめておくといい」

 ヒューイは努めて穏やかに言った。本当なら、鬱陶しいからさっさと出て行け! と怒鳴りたかったところだ。


「えっ? どういうことです?」

 寝耳に水のオリヴィアはキョトンとした。

「こんな事件続きの邸は怖いだろ、だからしばらく領地へ帰ったほうがいいと思って手配しているところだ」


「勝手に決めないでください! こんな時だからこそ、叔父様の傍でお力になりたいんです」

「必要ない!」

 さすがに突き放された一言は効いたようで、オリヴィアはビクッと身を竦めた。


 しかし、大嫌いな田舎の領地へ追いやられるのは納得できない。悔し涙か噓泣きか、オリヴィアはボロボロと涙を零した。

「なぜ泣くんだ、領地へ行くのがそんなに嫌なのか?」

 演技と疑っていても、目の前で泣かれると困ってしまう。


「頼れるのは叔父様だけなのに、邪魔者扱いされるなんて悲しいのです」

「邪魔者だなんて言ってないだろ、しばらくの間だ」

「あの女は、アンは傍に置くのですか?」


「アンは関係ないだろ」

「あんな冴えない平民がどうやって叔父様に取り入ったか想像はつきますが、騙されているのです!」

「なにを言ってるんだ?」


「平民は貞操観念が緩いと聞きますし、真面目な叔父様をたぶらかすのは容易かったでしょうけど、叔父様ほどの方が、あんな貧相な女を相手になさって身籠らせでもしたら汚点になります!」


 オリヴィアにアシュリーとの関係をそんな風に見られているとは思いもしなかったヒューイはショックを受けた。まだ十四歳の少女だと思っていたのは間違いだった、〝女〟の考え方をするのだ。


「オリヴィア様、もうそのくらいにしておかれたほうがよろしいかと」

 デュランは止めようとしたが、

「目をお覚まし下さい、下賤な平民女なんか傍に置けばろくなことにはなりません、叔父様には、いえ侯爵家にはもっと相応しい相手がいるはずです」


「誰が相応しいかは俺が決める!」

 三週間足らずだがアシュリーと過ごした日々を汚されたような気がして、無性に怒りがこみ上げた。


 声を荒げたヒューイに一瞬怯んだものの、オリヴィアは引き下がれない。

「そうですか! やはり叔父様には平民の血が流れているから、平民女に惹かれるんですね!」

「オリヴィア様!」

 デュランが思わず声をあげた。


 ヒューイは蔑んだ冷たい目をオリヴィアに向けた。

「平民の血を引く俺が侯爵に相応しくないと言うのなら、いつでも爵位は返上する。お前が、生粋の貴族を婿に迎えて継がせればいい」


 怒りがこもったヒューイの言葉にオリヴィアは青ざめ、つい言い過ぎてしまったことに気付いて慌てた。


「そんなつもりで言ったんじゃありませんわ、叔父様があの女ばかりを大事になさるからヤキモチを焼いただけなんです、頼れる身内は叔父様だけなんですから」

 ヒューイの腕にすがろうとしたが、ヒューイは体を捩って拒絶した。

「とにかく、お前は領地へ行け」


 自分ほど美少女がプライドを捨てて縋ろうとしているのに、思い通りにならないことにオリヴィアは憤慨した。

「絶対嫌です!」

 オリヴィアは怒りをぶつけるごとく力任せにドアを閉じた。


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