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その2 家出を決意しました

「僕は健気で優しいリディアを愛してしまった、真実の愛を知ってしまったんだ、だから君との婚約は破棄して、リディアと婚約し直す」

 ブルーノは浮気したのを棚に上げて、芝居がかった言葉を吐いた。


 この小芝居を、同席している実父ルドルフ・ヘイワード伯爵と義母のカティアは満足そうに見物していた。シナリオは完成していたようだ。


「お異母姉ねえさま、ゴメンなさい、でも私たち愛し合ってしまったのよ、愛を知らないお異母姉さまにはこの気持ちおわかりにならないかも知れないけど、私たちはもう誰にも引き離せないのよ」

 リディアも用意していたのだろう臭いセリフを吐く。


「そう言う訳だから、異母妹いもうとの幸せのために身を引いてくれるわね」

 カティアがお願いではなく命令口調で言った。

 そして、ルドルフも、

「ブルーノ君は伯爵位を継いでくれる婿養子だ、従ってリディアと彼がこの家を継ぐことになる」

 畳みかけるように言った。


(そういう事ね、私に家を継がせないつもりなんだ)

 ルドルフがリディアだけを自分の娘と溺愛しているのはわかっていたので、まったく予想していなかったことではないが、ブルーノに確認しなければならないことが一つあった。


「バルト子爵夫妻は了承されているのかしら」

「それはこれから説明するさ、俺が伯爵家に婿養子入りすることに変わりない、反対する理由はない……はずだ」

 ブルーノは歯切れ悪く答えた。


 バルト子爵夫人マルレーネの実家とヘイワード伯爵家は遠縁に当たる。マルレーネは幼い頃からミシェルを妹のように可愛がっており、嫁いでからも気にかけていた。


 アシュリーを出産するときの難産で、以降の出産は無理だろうと医師の宣告を受けた時、ヘイワード家の直系はアシュリー一人に決定してしまった。ヘイワード家の血は絶やしてはならないもの、事情を知るマルレーネの息子を婿養子に迎える話が、アシュリーの生後間もなく決定した。


(恋愛感情はなかったけど、悪い人間ではないし、お互いの家のためにはベストなのだと受け入れていた。それをあんな奴らの口車にまんまと乗せられるなんて、マルレーネおば様が知った時の怒り狂う顔が目に浮かぶわ)


 バルト子爵夫人が婚約破棄を認めるはずはない、きっと揉めるだろうとアシュリーは思った。

(でも、おば様に叱られてブルーノが目を覚ましたとしても、もう遅いわ、一度やらかしたバカは、また同じことをやらかすと決まっているもの)

 アシュリーはブルーノを見限った。


「そうですか、ではバルト子爵夫妻によろしくお伝えください。婚約破棄承りました」

(ごめんなさいマルレーネおば様、お母様亡きあと、私を気にかけてくださったのはおば様だけだった、でも、決心したわ、この家の呪縛から解き放たれます)


「それだけか? 他に言うことはないのか?」

 ルドルフは眉をひそめた。

「別にありません」


「婚約破棄を言い渡されたのに顔色一つ変えないとは、本当にかわいげのない女だ、感情というものがないのか? 母親そっくりだな」

(そんな女にしたのは誰?)

 アシュリーはルドルフを睨みつけた。こんな男が父親だとは思いたくもなかった。


「お前みたいな傷物、縁談も難しいだろうから、お情けでこの家には置いてやろう、面倒はみてやるから、せいぜい今まで通り薬草作りに精を出すんだな」

「もう自室に下がらせてもらってよろしいでしょうか?」

 アシュリーは冷めきった無表情を装いながら退室した。


 部屋に戻ったアシュリーは、こみ上げる怒りで震える体をベッドに投げ出した。

(家に置いてやる? 面倒をみてやる? どっちがよ! 伯爵家の収入源である良質な薬草の栽培方法を伝授されているのは私だけだと言うことを失念しているのかしら)


 それだけでなく、伯爵家の執務すべてを母親から引き継いでこなしているのはアシュリーだった。

(まずはマルレーネおば様に事の次第を知らせなければならないわ。ブルーノは虚偽の報告をするだろうから、真実を手紙にしたためなければ)


 自分が去れば、今年はともかく来年からの収穫に支障が出るのは想像に難くない。取引をしているバルト家にも影響があるだろう、母の友人だったマルレーネに負担はかけたくなかった。


(私が家を出たら奴らは驚くでしょうね、世間知らずの引きこもりが家を出ようなんて考えもしないでしょうから、でも私は知ってしまったのよ)


 アシュリーは三年前の事故の後、不思議な夢を見た。

 その世界では女性も自立して、男性と肩を並べて働いていた。


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