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その19 素性がバレたようです

「なんか、大変だったみたいだね」

 ヒューイはまたリフェールに呼び出されて母親の実家の食堂に来ていた。


「大変だと思うなら呼び出さないでください」

 二人はいちばん奥のテーブルで向かい合っていた。そのなら他の客に話を聞かれる心配もない。


 ブランの事件から三日が経過していたが、邸内はまだゴタゴタしていた。呪いの噂はさらに広まり、若いメイドが何人か辞めていった。古くから仕える使用人たちは残ったものの殺伐とした雰囲気が充満していた。


「で、どうなの?彼女は、怖い目に遭ったんだろ、ショックを受けてるんじゃないかと心配だよ」

「平気そうにはしているけど無理していると思います、呪いの噂も気にしているようだし、心休まらないんじゃないかな」


「呪いを?」

「あの時、ブランの部屋に呪いの思念が残っているとか、わけわかんないこと言ってましたから」

「彼女がそんなことを?」

 リフェールは神妙な表情になり考え込んだ。

「彼女はそう感じたのか……」


 リフェールは身体を前に倒してヒューイに顔を近付け、声を低くした。

「魔力を持つ者が存在することは知ってるかい?」

「ええ、でもそれは希少でしょ、王宮に魔術師がいることすら一般には知られていないほどだし」

「王宮魔術師の存在を知ってるの?」

「ええ、リフェール殿下がトップだってことも」


「おや、それは意外だったね、誰に聞いたんだ?」

「自分で調べました。俺が第三王子付きの近衛騎士を希望したのに選ばれなかった時、違和感を覚えたのでね」


「僕の部下は魔力を持つ者に限定されるから、君には全くないからね、それにしても、君のような素人が簡単に調べられるなんて、機密保持を強化しなければ」

 リフェールは腕組みして眉を寄せた。


「まさか、アンに魔力があると?」

「ああ、幼い頃に王宮で会った時、彼女も同類だと感じた、彼女自身に自覚はないだろうけど」


 リフェールの右目がキラリと輝いた。

「ヘイワード伯爵令嬢、アシュリー、それが彼女の本当の名前だよ」

「アシュリー……、ヘイワード伯爵家と言えば、王家の薬箱と言われている、あの?」

「そう、良質の薬草を栽培し、王宮薬師に卸しているあのヘイワード家だ」


 ヒューイは眉をひそめた。

「でも、ヘイワード伯爵家の娘はもっと派手な感じの令嬢だったような」

「それは彼女の異母妹だよ、婿養子である現伯爵の娘だから、ヘイワード家の血は流れていない、それをさもヘイワード伯爵家の跡取りのように扱っているんだ」


「そう言えば、異母妹に何もかも奪われたと言ってました」

「そんなことはあってはならないんだよ、ヘイワード伯爵家は少々特殊な家でね、彼女はただ一人の直系で、現在は彼女が薬草栽培を手掛けているはずだ。ヘイワード家の血筋でないと良質な薬草は育たない、伯爵はそれを知らないのだろうか」

「血筋? 魔力と関係があるのですか」


「ヘイワード家の遠い祖先は魔女だったと言われている。魔法を使える者は長らく生まれていないけど、その血の中に受け継がれている魔力で良質の薬草が育つと考えられているから、王家もヘイワード家を大切にしてきたんだ。そのたった一人の後継者が、我が国を捨て隣国ウィルトンに行こうとしていると聞いたときは驚いたよ」

 リフェールは大きな溜息をついた。


「そう言う訳で、君に保護を頼んだんだけど、まさかシモンズ家の呪いが本当に魔術絡みだとすると厄介だな」

「アン、いえアシュリー嬢が感じたことは事実だと仰るんですか?」


「シモンズ侯爵家に呪いの噂が流れ出した時、君の異母兄あに夫婦が亡くなった頃だ、念のために部下を派遣して調べたんだ、でも魔術の痕跡はなかったよ」

 そう言いながらリフェールが視線を流すと、ユーシス・クラインが傍に来た。


 ユーシスはリフェールの片腕となり動いている王宮魔術師で、年は一つ上の十八歳、本来、銀色の髪にアイスブルーの瞳の美青年だが、目立つ容姿なので普段は魔力で栗色の髪に変えている。


 ヒューイの隣に座り、

「魔法陣の痕跡はありましたが、素人の落書きのようなもの、あれで呪いの魔術が発動するとは考えられません」

 と説明した。

「いつの間に邸へ!」

「シモンズ家の警備は穴だらけ、侵入者がいたとしても不思議ではない」


「クソッ、そうならそうと教えてくださいよ」

「屈強な騎士団をうまく使いこなせばいいだろ」

「デュランと相談します。じゃあ、アンが言ってたのは、やはり噂に惑わされた思い込みですね」

「そうとも言えないよ、ユーシスよりアシュリーの魔力のほうが強いから、僅かな残留思念をキャッチしたのかも知れない」


「あんな隙だらけの少女に強い魔力があるなんて信じ難いですが」

 リフェールの言葉にプライドを傷付けられたようで、ユーシスは不服そうに言った。

「そう拗ねるなよ、彼女は特別だ、だからこの国から出すわけにはいかなかったんだよ」

 リフェールはユーシスをなだめた。


「隙だらけって、まさか」

 ヒューイはハッとした。

「そう、彼女の鞄を奪ったのはユーシスだよ、怪我をさせたのは想定外だったけど、彼女を止めることは出来た」


「それを知ったら怒るでしょうね」

「君が言わなければバレない、鞄の中身はこちらで保管しているから、僕が取り戻したことにすれば感謝されるさ」

「あなたという人は……」

 悪びれた様子のないリフェールを見て、ヒューイは呆れ返った。


 しかしリフェールの表情はにわかに厳しくなった。

「シモンズ家で立て続けに起きている悲劇が、ただの事故でも、たとえ事件だったとしても魔術とは無関係なら管轄外だと判断したんだけど……」

「事件? とは、カイル兄さんは殺されたかも知れないということですか?」


「ああ、君んちの黒髪の執事君ね」

「アルドのことですか?」

「彼、単独で探っているようだよ」

「探ってる? カイル異母兄(にい)さんの事故についてですか?」


 リフェールがユーシスに目配せすると、彼が続いて話をはじめた。

「すべてです。前侯爵の事故、マイヤー夫人の事故、そして今回のブラン、毒の出どころを調べたようです。彼は優秀ですね、入手先は突き止めたようですよ」

「俺はなにも聞いていない」


「まあ、命令もなく動いているんだから、確たる証拠をつかむまでは報告できないだろうね」

「なんのために彼が……」

「きな臭さを感じたんじゃないかな、切れ者みたいだしね。シモンズ家では確かに何かが起きている、それが事件なのか、魔術を使った呪いなのかはわからないけど」

「ただの事故ではなかったということですか」


「確証はない、でも、アシュリーが呪いの思念を感じたと言うなら、話は違ってくる、もう一度調べ直す必要があるね」


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