表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/44

その18 疑われているようです

 ブランの死は、横領が発覚しそうになり、追い詰められての自殺だろうと結論付けられた。根拠として、翌日到着した会計士によって横領が立証された。長年に渡り着服した金は、愛人への貢物やギャンブルに消えていたと思われる。


 しかし不可解な点もあった、逃亡しようとしていた形跡もあったのだ。隠し持っていた金や宝石類が鞄に詰められていた。その途中でやはり逃げ切れないと思い直したのかも知れないが、本人が死んだ今となっては、真相を語れる者はいない。


 そしてジャックは薬物に手を出していたことが判明した。前借を頼みに行ったのは薬欲しさに金が必要になったからだった。そこでブランの凄惨な死にざまを見て動揺し、自分が犯人にされてしまうのではないかと言う恐怖から、禁断症状も加わって錯乱状態に陥り、刃物を振り回した、と言う見解に落ち着いた。


 もう少しで本当の殺人犯になるところだったジャックは一命をとりとめたが、右手を失ったうえ、侯爵に対する殺人未遂で投獄された。事情聴取を試みたが、薬の影響か正気を失ったままで、話が聞ける状態ではなかった。


 アシュリーの呪い発言は、ヒューイとデュラン、アルドの胸に止められた。発言に根拠がなかったこと、なにより邸の者たちを動揺させたくなかったという理由からだった。



   *   *   *



「嘘よ! ジャックが旦那様を殺そうとしたなんて!」

 翌日、夫であるジャックが右手を切り落とされた上、投獄されたと聞いたダリアは半狂乱になった。

「理由がないじゃない! きっとあの女のでっちあげよ!」

 ジャックが薬物中毒だったことにまったく気付いていなかったダリアは叫んだ。


「デュラン様も目撃されたんですよ、ナイフを持っていたことは確かなんですから」

 メイドの支度部屋で叫ぶダリアを、外に聞こえてはマズいと、後輩メイドのスーザンは落ち着かせようとしたが、憤慨した彼女は聞く耳を持たない。

「だからって、右腕を切り落とすなんてあんまりよ! もう料理人として働けないじゃない」


「状況がわかってるんですか? 働くどころか処刑されてもおかしくないんですよ、生かされているのは旦那様のご慈悲よ」

「なにがご慈悲よ! 長年働いているジャックより、最近来たばかりのアンを信じたんでしょ! 本当のことを聞こうにも会わせてもらえないのよ、何か隠しているに違いないわ」


「それはジャックさんが正気を失っているからだと聞きましたよ」

「そんなの変よ、昨日までなんともなかったのに、急にそんなことになるはずないわ! 拷問されてるのよ、それでおかしくなったんだわ、そしてジャックを犯人に仕立て上げようとしているのよ」


「これ以上騒ぎ立てると、あなたまで牢屋に入れられますよ」

 なだめるスーザンを無視して、ダリアは怒りに顔を真っ赤にしながら止まらない。

「きっとあの女が旦那様の気を引くために仕組んだのよ、来た時から胡散臭いと思ってたのよ、それにあの瞳、紫の瞳は魔女の瞳って言うじゃない、そう言えば前にいたわね、同じように紫の瞳をした子が」


「そんな子いましたっけ?」

「アンタが来る前の話だから知らないだろうけど、彼女、恋人が死んだのは侯爵家のせいだって言い残して姿を消したのよ、あの時は忙しい時期に自分勝手な奴って思ったけど、今更ながら彼女の気持ちがわかるわ。でも、あたしは泣き寝入りしないわよ、消えたりなんかしない、ジャックの無実を証明してみせるわ」


「私もジャックは無実だと思うわ、そしてブランさんもね」

 いつからそこにいたのか、トンプソンが突然話に加わった。


「長年勤めあげたブランさんのちょっとしたミスを見つけたからって、不正だと騒ぎ立て、そうやって陥れて、ヒューイ様に自分を認めてもらおうとしたんでしょ。ブランさんは身の潔白を訴えるために命を断ったのよ」

 トンプソンはまことしやかに言った。


「でも、会計士の方が横領の証拠を見つけられたと、旦那様は仰ってましたわ」

 スーザンの言葉にトンプソンはすぐさま反論した。

「王宮から来た会計士でしょ、あの人も共犯者よ、アンも第三王子リフェール殿下の関係者らしいから、きっと執務が得意でない旦那様を騙して、侯爵家を乗っ取るつもりよ」


「なんで第三王子の手の者が侯爵家を乗っ取るんですか? お二人はご友人だと聞いていますけど」

「甘いわね、貴族なんてみんな腹の中では何を考えているかわからないのよ、たとえ友人でも平気で騙すのよ。シモンズ侯爵家は領地も広く豊かで、巨額の財産もあるから、リフェール殿下は後ろ盾にするため掌中に収めておきたいのではないかしら」


「難しいことは、あたしなんかにはわかりませんけどね」

 スーザンは込み入った話に匙を投げた。

「あたしは仕事に戻ります」

 普段は冷静なトンプソンまで殺気立っていることにスーザンは違和感を覚えたが、面倒なのでさっさと抜けることにした。


 部屋を出るスーザンを見ながら、ダリアはトンプソンに、

「ジャックの冤罪をはらす方法はあると思いますか?」

 縋るような目を向けた。


「もちろんよ、まずはオリヴィアお嬢様を味方につけなければ」

 トンプソンは不敵な笑みを浮かべた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ