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家出した引きこもり伯爵令嬢は呪われた侯爵家で真相を究明する  作者: 弍口 いく


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その14 お手伝いをしています

 アシュリーがシモンズ家に来てから、あっと言う間に十日が経った。

 毎日のようにヒューイの補佐と、薔薇園の再生も手掛けていたので、適度に忙しく、ヘイワード家での嫌な出来事を思い出す暇はなかった。


 ヒューイは薔薇の手入れも手伝ってくれ、最初はぎこちなかった彼と一緒の時間も当たり前になっていた。





「なにをしているんだ?」

 その日、ヒューイとアシュリーが薔薇園から執務室に戻ると、そこには家令のアルバート・ブランがいた。

 机上に積み上げられた書類から、なにかを探しているようだった。


「これは旦那様、お戻りですか」

「なにをしていると聞いている」

「昨日サインをお願いしていた書類を」

「無断で入室して、勝手に探していたのか?」

「急ぎでして」

 ヒューイの厳しい口調を聞いても、ブランは悪びれた様子も見せなかった。


「あの書類には不備が見つかった、他の書類もすべて見直しているから、まだサインしていない」

「それは困りました、提出期限がありますし、カイル様の時のように私が代筆して処理しておきましょうか」

「代筆?」

「カイル様には信頼していただいておりましたし、すべて任されていました」


「これからは俺がやる」

「しかし」

異母兄あにがどう処理していたかは知らないが、今後は俺がすべての書類に目を通す」

「そんなことをされていたら業務が滞りますよ、それでなくてもあなたは不慣れなのに」

 無能だと言われているようでヒューイは不快感を露にした。


「大丈夫だ、アンに手伝ってもらっているから」

「その娘で役に立っているのですか?」

 ブランはバカにしたようにアシュリーを見たが、

「彼女は優秀だ、ミスをいくつも見つけているし」

「ミス……」


「それに会計士を手配している、明日来る予定だ」

「会計士ですと?」

 それまで二人を見下すような態度だったブランの顔が強張った。


「お前の言う通り、不慣れだから勉強しようと思ってな、お前の負担を少しでも減らしてやろうと思ってるんだ」

 ヒューイは意味ありげな笑みを向けた。もちろん目は笑っていない。


「それから、今後は無断入室を禁じる」



   *   *   *



「何者なんだ、あの娘は!」

 ブランは飲み干したワイングラスを叩きつけるようにテーブルに置いた。


「荒れてるじゃない、どうしたの?」

 東棟に与えられているブランの自室の応接間で、向かい合って飲んでいたトンプソンが不思議そうに尋ねた。

「あの娘が来てから十日、やたらヒューイ様と一緒にいるから、あんな娘が好みなのかと思っていたら、執務を手伝っているらしい」

「ああ、その事」


「知っていたのか?」

「ええ、聞いたわ、それと扱いに気をつけろってね、旦那様が町で拾ってきた平民娘かと思ってたら、どうやら違うみたい」

 トンプソンは不敵な笑みを浮かべながらグラスを傾けた。


「ハッキリとは仰らなかったけど、第三王子リフェール殿下と関わりがあるようだわ」

「なんだって! もしかして会計士かも知れない、明日来ると言っていたが、身分を偽ってもうすでに来ていたのか!」


 ブランは頭を抱えた。

「追い出される、それで済めばいいが、逮捕されるかも知れない」

「横領が露見したのね」

「時間の問題だ、すでにミスを指摘されているし」

「ミスじゃなくて改ざんよね」


「元騎士の脳筋侯爵なら気付かれないと高を括っていたのに」

「とっくに疑われていたと思うわよ、そうでなきゃカイル様みたいに、あなたに丸投げしてたでしょうに、それを自分でやると言い出した時に気付かなかったアンタが甘かったのよ」

「なんでその時に言わなわかったんだよ!」

「言ったでしょ、しばらくは大人しくしておいた方がいいって、聞かなかったじゃない」


「もうお終いだ」

 ブランは立ち上がり、クローゼットから大きな鞄を出した。

「そうよね、庇ってくださるイザベル奥様はもういらっしゃらないものね」

「そうなんだ、イザベル様の頼みではじめたことだったのに! 男狂いの奥様が、男娼を買う金が必要だったからなんだ」


「でも、あなたもたんまり懐に入れていたわよね」

 ブランは鞄に、机の中に隠していた金貨の袋や書類を無造作に詰め込んでいた。

「ついでだ」

「ついでにしては大金じゃない」


「今夜のうちに、逃げるぞ」

「長い付き合いだったから、寂しくなるわね」

「お前、一緒に来ないのか?」

「なんで?」

「お前だってお零れにあずかっていたじゃないか、同罪だろ」

「私は直接手を染めてないし、なんとでも言い逃れできるわ」

「くっ、薄情な女だ」

「そんなの昔から知ってるでしょ」


 トンプソンは空になったグラスをポケットに入れた。

「高級ワインにもしばらくはありつけないわね」

「俺よりワインの心配か?」

「無事に逃げ切れるよう、祈っておいてあげるわよ、さよなら」

 心がこもっていない言葉を残し、トンプソンは部屋から出て行った。


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