第二話
懲りずに書いてます。少し意味不明になるかもしれません・・・(泣)
漆黒の空間の中、女性が一人佇んでいる。数歩離れたところで、少年は彼女に対峙していた。
腰まで伸びた豊かな亜麻色の髪。上質な絹地を思わせる、白く滑らかな肌。細く華奢な、その体が描く芸術的なまでの曲線美は、きっと世の全ての男の心を駆り立て、狂わせる。
少年は彼女の年齢を推し量れずにいる。青い瞳は生まれたばかりの新緑のような無垢な光をたたえながらも、これまでの生命の軌跡を見守り続けてきたような深淵さも持っていた。掛け値なしの美貌とも相まって、老いという肉体の枷から逸脱した女神なのかもしれないと、少年はぼんやりと思った。
同じ年頃の男子なら真に喜ぶべき夢なのだろうが、物心ついた時から何度も見てきた光景なので、残念ながらそのような歓喜を少年は感じない。いや、十六歳の健全な男子にとって、そういった興味や魅力をまったく感じないと言えば嘘になるだろう。
ただそれよりも、白の布地に金の刺繍を施した煌びやかなドレス、僅かな憂いを帯びた青い瞳、穏やかな微笑が、神々しいまでの清純さを生み、その雰囲気に邪さを抱くことができない。ただ、感動を覚えるのみだった。
彼女はずっと少年を見つめる。そしてゆっくりと胸の前で手を祈るように組み、浮かべている微笑みに悲しみの色を差す。
少年は夢の終わりを感じた。いつも同じ繰り返しだった。貪っていたはずの、夢特有の心地良い浮遊感の中いつの間にか現れ、悲しげな微笑みを浮かべる。次第に視界が霞み、気づけば目覚めの時を迎える。
また同じように彼女は消えていく。形容し難い思いのまま彼女を見つめ続けた。
しかし、今回はいつまで経っても夢から覚める気配がない。それどころか、彼女が祈りの手を解き、ゆっくりと少年の方へと歩いてきたのだ。
夢にまで見た。いや、夢にも見なかった夢の続きに、少年の胸に期待と戸惑いが押し寄せる。体を動かそうとしても、身動きができない。少年は彼女が目の前まで近づくのを、ただ黙って見届けることしかできなかった。
目前に迎え、少年は自分が思っていたよりも、彼女の身長が低いものだと気付いた。幼いときから見ていたというのもあったが、身長を含め、彼女という存在が案外身近なもののように感じた。
悲しげな微笑は呼吸、時の流れ、戸惑い、一切を忘却へと押しやる。彼女は少年の胸の辺りまでしか身長がなく、自然と見上げるような形になる。潤んだ蒼い瞳が、少年を見つめる。吸い込まれるように、彼女の瞳に見入っていた。
瞳に滲むのは悲しみか、あるいは……。そしてとうとう、瞳から涙が零れ落ちる。一筋の軌跡をゆっくりと描きながら、頬を伝い落ちていく。それなのに、彼女は依然として涙を拭うことなく、少年を見つめながら微笑みをたたえている。
その頬に触れ、流れる涙を拭ってやろうとして、自分の身体の感覚がないことに気付く。胸の内に込み上げる、もどかしさ、怒りにも似た熱い何かを、言葉にすることすら出来ずに少年は俯いた。
そんな少年の心を察したのか、彼女は視線を下げ、おもむろに少年の両手を取る。身の自由が効かないのに、彼女の柔らかな手の感触、温もりがあまりにも現実味を帯びていて、少年は思わず自身の手を見つめた。
そして少年の両手を、大切な物に触れるように優しく包み込みながら握ると、祈るように目を閉じた。そしてそこから、眩い白い光が溢れ出し、世界を包んでいく――。