4-04 崩壊
何が起きたか、わからなかった。
ただ、彼女達は固まって、その飛び散っていく残骸を目の当たりにする。
少女は衝撃に背中を押されて、勢いよく地面に身体を打つ。
屋内には、まだ、マクス達が居た筈だった。
二階は跡形もなく消え、一階も崩れ落ちている。
「危、な」
リュックが、咄嗟に、転んでいた少女とエリアを回収して、安全圏へと引き離す。
その直後に、辺りには聞き覚えのある咆哮が響き渡った。
「何なの、ねえ、意味が分からないよ」
余りに脈絡の無い事態に、リュックは頭を抱える。
冥界の獣。
怒り狂った巨大な三つ首の犬、ケルベロスの影が、そこで牙を剥き出しにして。
彼女達ではない、どこか別の何かを睨みつけていた。
『あは、あはははは、あはぁ!』
そんな笑い声と共に、『何か』が三つ首の犬を吹き飛ばして、その勢いで、また背後の家屋を倒壊させる。
と思えば、その『何か』はまたケルベロスに弾き飛ばされて、反対側の家屋を突き破って吹き飛んでいく。
そんな規格外の攻防で、街は一瞬にして破壊されていく。
「やめて、ねえ、やめてよ」
吹き飛ばされた『何か』が遠くで立ち上がって、ようやくその正体が視認できるようになって。
彼女は、見覚えのあるその姿に、沸き上がる怒りで角を赤黒く光らせた。
「―――ニヴァリスゥッ!!!」
それは、ニヴァリス本人ではなく。
彼が連れていた、殆ど廃人状態だった少女、シリルの姿だった。
ケルベロスがいる方向から、今度は膨大な数の、影のカラスが弾丸のように飛んでいく。
シリルを殺すために飛んでいた筈のカラス達は、彼女に襲い掛かる間際でその軌道を変え、攻撃を取りやめてその周囲で旋回を始める。
声が、聞こえる。
―――やめて、返して!
驚いたように、リュックは振り返る。
「―――ディア?」
ケルベロスの隣には、人の形を成した、影の獣の姿がある。
何故か、リュックにはそれが、エフタの娘、ディアスシアの姿だと直感的に理解できていた。
『頂戴、ぜんぶ欲しいの!』
影のカラスは、何故だかシリルに制御を奪われて、一瞬にして身を翻してケルベロスを取り囲む。
高速で跳び回るそれらに攪乱され、ケルベロスはその場から動けなくなる。
『頂戴、頂戴!欲しいものは奪うの、そう教えてもらったの!』
人の喉から出るとは思えない、異常な響き方をするシリルの声。
見れば、彼女は獣の耳だけに留まらず、腕も、眼球も含め、身体の至る所が魔獣のように変形していた。
それは、まごうこと無き化け物の姿。
あろうことか、冥界の主であるディアスシアが、彼女の世界から引きずり出されて、持ちうる力全てを奪われようとしている。
咄嗟に踏み出したリュックは、近くにあった金属の棒を拾いながらシリルに接近した。
「空間連結、爆裂魔―――うぐぁ!?」
結界のように広げられた影の盾で、リュックは弾き返される。
なんとか立て直すが、気付けば彼女は元居た位置にまで押し戻されていた。
手に負えない、そう思いながら周囲を見回す。
怯える人々。
壊れた家に向かって叫ぶ女性の姿。
駄目だ、駄目だ。
先に、あの中に居る人たちを助けないと。
昨晩泊まっていた家を見ると、その前で、マクスが必死になって瓦礫を掻き分けている。
硬直していたエリアが、咄嗟に駆け出す。
マクスの目の前で、瓦礫が宙に浮き始める。
何が起きているか分からなかった彼だが、とにかく、自分の妹を、妻を、友人を助けようと、手から血を出しながら瓦礫を掻き分け続ける。
リュックは、それを妨げるように暴れ回る影の獣を、人の形をした化け物を、街から遠ざけようと走り回る。
―――助けて、お父様!!
影の獣と同じように真っ黒な姿のディアスシアが、そう呼び掛けながらリュックの背後に隠れようとする。
「ここから離れてよ、お願いだから!」
そう言っても、怯える冥界の魔女はそこから動こうとしない。
それどころか、彼女の周囲には、真っ黒な人影が何人も姿を現し始める。
―――殺して、あれを殺して!
その呼びかけに応じるように、黒く染まった影の魔女達は各々の魔法でシリルに攻撃を始める。
氷の槍、岩石の弾丸、閃光。
それらは、辺りに建つ家のことなどお構いなしに貫いて、ただ目の前の悍ましい化け物を殺すために飛び交い続ける。
それをいなし続けるシリルは、少しづつ被弾してその動きを鈍らせていく。
だが、幾ら鈍ろうとも、彼女は笑い、不気味に何度も襲い掛かろうと近づいてくる。
影の魔女を一人消し飛ばし、また暴れ出したケルベロスに吹き飛ばされ。
シリルは欠損した腕を影で補修して、また襲い掛かる。
その都度、衝撃は辺りの木々や建築物を揺らす。
そんな攻防が、また続く。
人智を超えた戦いに、リュックはただ翻弄され続ける。
徐々に死が近づくように見える彼女の近くに、また別の男が姿を見せた。
「退けと何度言わせるつもりだ、制御も聞かぬ愚物が。貴様を使おうとした我も愚かだった、従わぬのならここで殺す!」
シリルの周囲に、電磁波のようなフィールドが形成される。
辛うじて人体の構造を保っているシリルは感電して、一瞬だけ動けなくなるが、無理矢理にそこから離脱してまた暴れ始めた。
「―――クソ、一体何匹の化け物を同時に相手取らせるつもりだ」
明らかに苛ついた様子のニヴァリスが、シリルを引き留めようとあらゆる魔術を行使するが、それらを意に介さず戦いは続く。
『あはは、あはははは!全部、全部もらうの!』
「お願いだよ、もうやめてよ」
小さく弱く聞こえる、エリアの声。
そう呟いた彼女の耳に。
今度はディアスシアとはまた別の、女性の声が聞こえてきていた。
―――ごめんね。ちょっとだけ、力を借りさせて。
彼女の意識が、一瞬だけ薄れる。
僅かに残った感覚の中で、手のひらに力が集まるのを感じて。
その右手を、握り締める。
『あはは、あは!もっと、もっと―――こぷぁ』
今まで好き放題に暴れていたシリルは突然血を吐いて、勢いのままに強く転倒した。
『ごっ…か、は』
倒れたまま、シリルは痙攣して目を見開く。
エリアの意識が戻った時、その右手はシリルのほうを向いていて。
その手には、明確に。
心臓を握り潰した感触が残っていた。
倒れ込むシリルの目の前に、息切れを抑えるように肩を揺らすニヴァリスが立ちはだかる。
「…貴様は魔女でもなければ、神にもなれぬ。殺処分だ、失敗作が」
その目は、明らかに怒りに染まっている。
リュックが駆け寄るよりも、先に。
彼は、シリルと共に魔法陣の光に包まれ、その姿を消していた。
咄嗟に振返ると、へたり込んだディアスシアの影が、散るように消えていく。
「待ってよ、どうするんだよ、これ、さ」
そんな呼びかけも空しく、ケルベロスも影のカラスも影の魔女も、皆姿を消していく。
残されたのは、瓦礫の山。
泣き叫ぶ住人の姿。
絶望と呼ぶに相応しい状況が、目の前にただただ広がっていた。
◇ ◆ ◇
瓦礫を掻き分けた先、デボラもノエルも、少女の母親も、みな奇跡的に大きな怪我もないままに救出されていた。
マクスが、怯え切った妹を抱きしめて「よかった」と繰り返す。
リュックは必死の様相で、他の家屋でまだ生き埋めになっているであろう人々を助けに走り回る。
エリアは、マクス達の姿を目の前にして、その場にへたり込んでいた。
「何が、何があったの」
頭から血を流しながら、ノエルは周囲を見回す。
マクスは、「魔女が、殺し合いをしていた」と、ただ一言呟いた。
「嵐を起こしていた奴らは去った」
そう続けるが、彼の眼はまだ警戒を解いていない。
デボラが、不安そうな顔で周囲を見回して、信じられない、と言った様子で頭を抱えていた。
―――皆が、怪我をしている。
助けないと。
そう思ったエリアが立ち上がった矢先。
近くにいた他の住人が、護身用に持っていた拳銃を、咄嗟に彼女へと向けた。
「やめろ!」
咄嗟にマクスが声を上げる。
一体何が起きたのか、エリアも、周囲に居た面々も、理解できずに硬直した。
「おねえちゃん…?それって、お耳?」
少女の言葉に、エリアは咄嗟に自身の頭を触る。
帽子が無い。
彼女は、魔女の象徴である獣の耳を、彼らの目の前で露わにしていた。
加えて、思い出す。
自分は、彼らの目の前で魔法を使った。
彼らの目の前で、あの化け物の心臓を潰して、手も触れずに殺して見せた。
「どういうこと?あの子が、悪いの?全部、彼女がやったの?」
他の住人が、そう呟く。
―――違う、そんな訳ない。
そう叫ぼうとしたエリアだったが、途中で詰まるように声が止まった。
彼らが自分に向ける、その怯えた目に、見覚えがありすぎたから。
アゼリアの街で助けた子供の、母親から向けられた視線。
帽子の中を見た途端に、拳銃を向けてきた誘拐犯の怯える目。
『魔女は、その魔法で人の心臓を止める事だってできると聞いた』
『私は、そんなこと出来ません』
正しかったのは誘拐犯の言葉のほうで。
自分のほうが、銃を向けられる理由を分かっていなかった。
今、自分は。
この惨劇の全ての黒幕なのではないかと、そんな疑惑の目を向けられている。
周囲を見回せば、昨日はあれだけ朗らかな笑顔を見せていた人々までもが、疑念と不安に満ちた面持ちで自分を見ている。
きっと弁明できない。
ああ、自分が魔女なのがいけないのだと、そんな諦めに近い感情が彼女を襲った。
マクスが、諭すように、銃を持つ男性に語り掛ける。
「ヤン。落ち着いてくれ。まず、その手に持った銃を降ろすんだ」
「何を、言ってるんだ、マクス。目の前に、魔女が居るんだぞ」
男性は、呼びかけに応じず、銃口をエリアに向け続けた。
リュックは、男性の手元だけを注視して、今にも彼を襲おうかというような殺気を放ち始める。
「君は彼女の患者だろう」
「…」
ただ呼吸を荒くして、怒っているのか、怯えているのか、あるいは迷っているのか。
男性は、銃を握る手に力を入れたまま、何もせずにただ構え続けた。
「―――助けて、助けて!夫が、下敷きになってるんです!」
背後からの叫び声を聞いて、リュックは動揺して視線を動かす。
「銃を捨てろ、ヤン!こんなことをしてる場合じゃない!」
同時にマクスも叫ぶ。
今の状況がリュックの行動を鈍らせていることに、彼は気が付いていた。
誰かが、銃を持つ男性に向かって走り出す。
「ノエル!?」
ノエルが、銃を奪おうと走っていた。
男性が抵抗しようと手に力を入れて、誤ってその引き金を引く。
放たれた弾丸は、誰も居ない壁に着弾した。
その拍子に地面に落ちた銃を、マクスが蹴り飛ばす。
男性は二人がかりで取り押さえられて、彼等よりも大柄な身体で藻掻き続けた。
「こっちは大丈夫だ、向こうを助けに行ってくれ!」
半ば泣きそうになっているリュックは、その言葉で慌てて背後の女性の元へと駆けて行った。
なんとか瓦礫の下から助け出された大柄な男性は、意識を失ったまま反応を見せなかった。
隣で、妻らしき人が必死で声を掛け続ける。
呼吸をしていなかった。
動揺したリュックが、一瞬だけ視線をエリアのほうへ向ける。
その視線に気が付いたエリアは、周囲が彼女の行動に注視しているのを承知の上で、その男性の元へと走り出した。
配偶者の女性が、「助けてください、そういう魔術とか、魔法とか、あるんでしょう、ねえ」と泣きながら懇願する。
エリアは、その女性を少し後ろに引くように促しながらしゃがみ込んだ。
彼女は、男性の脈を図りながら、目も合わせずに答える。
「ごめんなさい、こういう時の魔術を私は知りません。胸骨圧迫と、人工呼吸をします、退いてください」
「助かるんですか、助かるんですよね」
何度も問い詰めるように聞く女性を、リュックが「大丈夫です」と宥めて下がらせた。
エリアは、リュックも知っているような、一般的な心臓マッサージを始める。
その様子を、周囲の人々は黙って眺めている。
一定のリズムで、乱れないように。
決して筋力も体力も人並み以上ではない彼女が、必死に汗を流しながら。
何十回かそれを繰り返した後、エリアは胸骨圧迫を一時的にやめて、人工呼吸に移ろうと男性の顔に自身の口を近づけて。
その瞬間、横に居た配偶者の女性が、何を思ったか、エリアの身体を突き飛ばした。
「―――え」
意味が分からなくて、エリアは地面に尻餅をついたままで、女性の顔を凝視する。
女性も、自分が何故そんなことをしたのか分からないといったように頭を抱えて、「あ、その」と涙を溢し続けた。
女性が、慌てて、自分が人工呼吸をやろうと姿勢を落とす。
「…待って、ください。やりかたが、ちがう」
色々な感情を抑えながら、必死に絞り出したエリアの声は、彼女には届かなかった。
先程の男を縛り終えたマクスが、また駆けつけてきて声を上げる。
「エリア、心臓マッサージ続けて!!人工呼吸は僕がやる!」
そう言われて、エリアは半ば錯乱しかけながら胸骨圧迫を再開した。
何が正しいのか、わからなくなりながら。
―――男性は、息を吹き返さなかった。
その人が、ここで起きた厄災の、只一人の犠牲者。
彼を知る人がすすり泣く中で、エリアは放心状態でへたり込んでいた。
「―――何故、突き飛ばした」
たった今、息を引き取った男性の目の前で、マクスは信じられないものを見る目で、その女性に問いを投げる。
「…」
当人も、たった今自分が何をやっていたのか、思考が纏まらないままにマクスへ視線を返していた。
見開いた目から涙を流しながら、何もわからない、と言うように首を横に振る。
沈黙。
誰も喋らないが、彼女がエリアを突き飛ばした理由を、その場の誰もが理解していた。
その医者が、魔女だったから。
ただ、それだけの理由。
彼らにとっては、あまりに重すぎる理由。
「エリアが、君の夫を殺そうとしていたか?」
「…」
マクスの問いに、その女性は一切答えないまま、ただ視線だけを合わせ続ける。
「僕には、そう見えなかった。彼女は、ただ君の夫を救助しようとしているようにしか見えなかった」
誰も答えない。
マクスの言うことが正しいとわかっていたから。
同時に、その場の誰もが、その『正しい意見』に同調しようとしなかった。
エリアが、また周りに集まっていた人々へ意識を向ける。
誰もが、彼女の視線から逃げるように目を逸らした。
胸の内で、夫を亡くした女性のことを慮っている。
エリアのことを突き飛ばしたその女性のことを、信じられないものとは思わず。
そうなってしまうのも仕方がない、と言った表情で、とても責め立てようとは出来ずに黙り込んでいた。
彼女はまた、自分を突き飛ばした女性の顔を見る。
相変わらず誰とも目が合わない状況を見て、彼女は、ああ、やっぱりそうか、と自分の置かれた状況をあらためて理解した。
「ごめんなさい」
「何故謝る。やめろ、エリア」
マクスが、悲しむような、憤るような顔で彼女を睨む。
「私が居たから、その人は助からなかった」
「違う、やめろ」
「私が殺し」
「やめろ!」
マクスが叫ぶのと同時に、リュックが彼女の腕を掴んで、無理矢理に立ち上がらせようとその手を引いた。
「エリアは殺してない」
きっと泣きそうになるのを抑えた結果生まれた、その鋭い眼差しで、彼女はエリアと目を合わせる。
「助けようとしてた。エリアは悪くない、ここに居る誰も悪くない」
引き起こされたエリアは、殆ど呼吸も止まって、何も言えずに立ち尽くす。
「違いますか」
取り囲む人々に、ただ一言、リュックはそう問いかける。
彼らは、やはり何も答えなかった。
マクスが、怒りに満ちた顔で彼らに呟く。
「…君達は、一体今までどれだけ彼女達に助けられてきた?」
静寂の中で、言葉を続ける。
「昨日今日、初めて会った訳じゃない。今日になって、彼女達が態度を変えた訳でもない。君達は、これまで築き上げてきた信頼や実績よりも、本やデータに書かれた伝承を信じて彼女達を嫌うのか?」
観衆の一人が、「無茶を言うなよ」と声を上げた。
「俺達が、一体どれだけ『魔女は悪だ』と刷り込まれてきたと思ってる?親から、ずっと言われてきた。娘にも、そう教えている。見たら迷わず殺せ、とまで。それが、目の前にいる。あの惨劇の直後に、魔女がまだここに居座っている状況が、どれだけ怖いか。同じ教育を受けてきたお前が、分からない筈がないだろう」
そう話す声は、震えている。
続けざまに、別の女性が声を上げる。
「伝承だけじゃ、ない。つい最近だって、魔女がどこかの集落に入り込んで、打ち解けた矢先に住人全てを廃人に変えた、なんて話も聞いたことがある」
次々と、「そうだ」「彼女がそうしない証明がお前に出来るのか」と指を指すものが現れる。
「ああ、だから。証明とか、そう言う話じゃなくて。君達は、データよりまず先に己の道徳性を尊重できないのか、目の前の人を信じられないのかという話を―――いいから、おい、口を挟むなよ!」
彼らの口調は次第に強くなって、それは口論に変わっていく。
その応酬はみるみるうちに激しくなって、収拾がつかなくなるほどの罵り合いにまで発展していた。
「マクスさん、あの。…ごめんなさい、もう、いいです」
彼の背後から、リュックが告げる。
「私達は、ここを離れます」
「いや、待ってくれ。すまない、こうなったのは君達のせいじゃない。だから立ち去る必要も…」
「そうじゃ、ないんです。この、やり取りを。これ以上、エリアに聞かせたくない」
未だに地面に寝かされたままの遺体を凝視し続けるエリアは、魂が抜けたようにリュックに身体を抱きかかえられて、辛うじて立ったままの姿勢を維持している。
その姿を見て、マクスは言葉を喉に詰まらせて黙った。
僅かに聞こえる、通信機からの声。
「もうじき、ここに他の衛兵団員が来るみたいです。多分、他に大きな怪我人はいないでしょう。後のことは、彼らを頼ってください。―――役に立てなくて、すみません」
「…」
誰も、引き留めようという声を出さない。
「行かなきゃいけない所があるんです。本当にごめんなさい」
もう元には戻らない亀裂を、どうにも出来ないままで二人を見送る。
つい昨日まで、楽しく彼女達と話していた人々が、今は恐ろしいものを見る目で立ち尽くしている。
「二度と帰って来るな」
誰かが呟いた声。
二人の背後で、激昂したマクスがその人物に掴みかかる音と怒号が聞こえる。
誰かが泣き崩れる声も聞こえた気がした。
それでも、二人は振り返らないままで。
街の外、建物も無く、ただ丘の起伏だけが広がる平原のほうへと歩き去って行った。




