3-01 神様と鈴の音
遥か、昔。
空の彼方には、人間になりたいと願った神様が居た。
「わざわざ冥界にまで来て何を言い出すと思えば」
冥界の神、レテはつまらなそうに玉座の上で頬杖をついて呟いた。
「何よ、つまらなそうに」
「そら、こんな反応にでもなるだろう。神が人間に格を落とすなど、何のメリットがあってそんなことをする」
レテの視線の先に居たのは、プラチナブロンドの長い髪を持つ一人の女神の姿だった。
その姿は、現代に生きる、とある魔女と瓜二つ。
彼女は、その名をアゼリアといい、自由を求める『人』の神、あるいは『愛』の神としてその神格を預かっていた。
「レテはつまらなくないの?肉体も持たず、ただ世界の外側から彼らを眺め続けるだけの役割だなんて」
「つまる、つまらないなどという話もなかろう。我々はただ己の役割を果たすのみ、魂の循環を司ってこの世界をより確固たる存在にするのが努めだ」
「そうやって他の世界と競い合って、その果てに手に入るものは何?」
「行きついた時に分かる。我々はその『何か』のために生まれたのだろう」
「よくわからないわ」
アゼリアは、期待外れの答えに「ふん」と小さく息を吐いた。
「龍の神様なんて、私が人間になりたいなんて言ったらすっごい怒るんだよ。この世界は殆ど人間の営みで成り立ってるんだから、そこまでダメダメ言わなくたっていいのに」
頬を膨らませてそう話すアゼリアに、レテは呆れ返って声を大きくする。
「龍神にも話したのか!?そりゃあそんな反応も受けるだろう馬鹿者が…」
「なんでよ、龍神様は面白い事ならなんでも許してくれるでしょ。つい最近だって、人間が神様になりたいっていうのは笑って許したって聞いたよ」
「ああ、その話か…。それは、かなり特殊な人間が相手だったから、という話だろう。基本的に、奴は人間をこの世界の歯車だとしか思っておらん。唯一無二の管理者である我々が、管理される立場に降りることは奴の誇りに反する」
アゼリアは、そう聞いて猶の事、膨らました頬を大きくした。
「人間って、ただ管理されるだけの生き物じゃないんだよ。自分で考えて、誰かを愛して、それを守るために全霊を尽くして。そこに生まれる感情こそが、この世界に色を付けるの。それを忘れた世界がただ大きくなったって、出来上がるのはただのエネルギーの塊でしかないよ」
「…」
レテは否定することも無く、ただそう話すアゼリアの顔を見つめた。
アゼリアは、何も言わない彼女に回答を求めるように目を合わせてくる。
彼女はただ、アゼリアのその人間らしい感性に憧れのようなものを抱き続けていた。
冥界神と言う立場を持ち、人の死や別れに対して悲観的な感情を持つことを非合理として排した彼女にとって、アゼリアの感情豊かさは奇特なものにさえ見えた。
「色、か。確かに、言われてみれば、余は人間の生み出す芸術というようなものにも関心が無かったな」
「勿体ない。あれこそ、人の魂の在り方を示すものだよ。ああいうものが、世界に個性と存在意義を生み出すのに」
「アゼリアは、そういうものを作り出したいのか」
そうレテが聞くと、アゼリアは目を細めて嬉しそうに笑った。
「惜しい」
「…何だ、その顔は」
「ふふん」
アゼリアは少しレテから離れて、覗き込むような視線で彼女を見る。
「私はね、そういうものを生み出せるほどに誰かを愛してみたいの、人として。それで、自分が生きた証として何かを残すの。私はこんなことをやり遂げたんだ、って。そして、満足して全てを終わりにする。それが、私のやりたいこと」
「…成程な。確かに、お前は『人の神』であり『愛の神』だ」
「そうでしょう?」
アゼリアの笑顔につられて思わず表情を変えたレテは、慌てて自分の頬を抑えて平静を保った。
「…余も、随分と人間に影響されているらしい」
「一緒に地上に行ってみる?」
「馬鹿言え、余が席を外せばこの世界が終わるぞ」
「誰かが代わりをやってくれるよ」
「じゃあ、その『代わり』が見つかったらだな。来ないと思うが」
「もう」
結局のところ一緒に行くつもりを見せないレテに、アゼリアはまた頬を膨らました。
それから、もう少し先。
本当に人となって地上へ降りた彼女は、神になりたいと願う一人の男と出会うことになる。
性格も信条も異なる彼らが、双方を掛け替えのない存在として見做すまでには、気の遠くなるほどの時間を要した。
そうして、アゼリアが人としての幸せを人並み以上に享受し、しばらくの時が経った頃。
彼女は、この世界から忘れられ、姿を失って影の世界で幼子を支える存在となる。
人としての肉体は地上に置き去られ、その記憶も失われ。
それでも、彼女は愛を謳う存在であり続けた。
『彼』が帰ってくる、その時まで。
そして、彼を迎え入れるその時まで、彼女はその信条を貫き続けたのである。
そんな彼女の在り方に振り回された冥界の神は、今度は自身が人として地上に降り立つことになる。
可笑しな偶然もあるものだ、とやけ気味に笑いながら。
ああ、あいつはこれが欲しかったのか、と、人として芽生えた感情の一つ一つに過去を重ねながら、ただ名前の付けられない感情を残して、彼女はアゼリアの面影を探し続けた。
そして、今。
彼女はその面影によく似た少女を見つけて、ある邸宅の前で聞き耳を立てていた。
その気配はもう一人の魔女に気取られ、突如現れた蔦に宙づりにされ。
なんとも神らしくないみっともない姿で、彼女はその面影との再会を果たしたのだった。
ああ、その笑顔を探していた―――
―――そう、心の中で安堵の表情を浮かべながら。
◇ ◆ ◇
ユアンやクロと海へ行ってきた帰り、リュックとエリア、レリアの三人は真っ直ぐにマリーの家まで帰り着いていた。
「ただいま!」
そう言ってエリアは元気よく玄関の扉を開ける。
マリーは、いつものようににこにこと笑って彼女達を出迎えた。
「おかえりぃ。楽しかった?」
「楽しかった~~!」
そう言って跳ねるような足取りで、エリアはマリーの元へ駆け寄る。
「あのね、色んなことがあったんだよ。海の近くに、凄い魔術師さんと魔女の子がいて―――」
そんな風に、海に言って起こった出来事を矢継ぎ早に話し出そうとするエリアのもとに、何か白い物体が駆け寄ってそのまま通り過ぎていくのが見えた。
「ただいま。マリー、私、疲れた。早くお風呂に入って寝たいわ。―――わきゃぁ!?」
後から玄関を通って現れたレリア。
彼女は、その白い物体に瞬く間に押し倒されて、悲鳴も空しくこれでもかと舐めまわされていた。
「あぶ、あぅ!やめて、やめて!一号、二号も!なんでいるの!」
レリアは、急に現れた二匹の毛むくじゃらな大型犬にのしかかられて、好き放題に顔を舐められている。
「久々の一号二号だよ~」
マリーはそう言って、ソファに腰掛けたままにこにことその様子を眺めた。
「ただいま~…おわ。おっきい犬だ」
更に後から帰って来たリュックが、その様子を見て驚きながら通り抜ける。
「助けなさいよ!」
ただ月並みの感想を述べて通り過ぎていったリュックに、レリアは素っ頓狂な声を上げて怒った。
「レリアちゃん、久しぶり。二人は、初めましてだね」
奥のマリーの部屋から聞こえてきた、聞きなれない男性の声。
急に聞こえたそれに、エリアとリュックは驚いてすぐに視線を向けた。
「マリーの兄の、クリスです。君たちのことは、妹から聞いてるよ」
そこに立っていたのは、マリーと同じような優しい目で、マリーと同じような綺麗な白い髪を持った青年だった。
「お、おわ。先生の、お兄さん?」
「マリーのこと、先生って呼んでるんだね。君は、例のエリアさんかな」
エドとはまた違う、穏やかでゆっくりな喋りにエリアは「ほぇ、はい」と間抜けな返事をする。
「わ、すっごいそっくり」と声を漏らしたのは、エリアの後ろでその様子をぼんやり眺めていたリュックだった。
レリアはまだ二匹の大型犬と戦っている。
「君が、リュックさん?」
「は、はい。そうです」
「いつもマリーが世話になってるね」
「いや、そんな。真逆です、いつも私達がお世話になってて」
そう言いながら、リュックはクリスから差し出された右手を受け取って軽い握手を交わした。
「活躍は聞いてるよ。なんでも誘拐犯を撃退したとか、街にやって来た影のカラスの群れを追い払ったとか」
「い、いやぁ。それが両方全く覚えてないんですよね」
実際、自分が力を行使した時は大体意識が曖昧になっていた彼女は、気まずそうに目を逸らす。
エリアが「ドラゴンも追い払ったでしょ?」と聞くと、リュックは「ああ、それは覚えてる」と首を縦に振った。
「あの二匹はクリスさんが連れてきたの?」
リュックからの問いかけに、彼は二匹の犬とレリアのいる方に視線を送る。
「うん、そう。いつもはパリの街で一緒に暮らしてるんだけど、置いてくるわけにもいかなかったからね」
彼がそう言うと、エリアが「パリ?」と興味深そうに首を傾げた。
マリーが、クリスと同じようにゆっくり口を開く。
「そうだよぉ。お兄ちゃんは、いつもはパリの街で医者の仕事をしてるからね」
「ほぇ」
エリアは尊敬するような眼差しでクリスの顔を見る。
「今日は、ちょっとマリーの顔を見るためにこっちに帰って来たんだ。この間は、影の獣の襲来で大変だったって聞いたからね」
クリスはそう言って、ごく自然にマリーの頭を撫でた。
「んにゃ、やめてってば」
マリーは恥ずかしそうにその手をどける。
エリアがもじもじと居づらそうに指を遊ばせていると、やっと二匹の白い生き物から解放されたレリアが会話に混ざってきた。
「ん、大丈夫よ。その人、私が魔女だって知ってるから。エリアのことも、きっともう知ってるんでしょ?」
彼女がそう言うと、クリスはそのままの顔で「ああ」と答える。
「エリアさんのことも、あともう一人この家に魔女が暮らしていることも、マリーから聞いたよ。特にそういう事は気にしないで、自然に振舞ってもらえると助かる」
エリアは、少し安心したような顔で「そっか」と肩の力を抜いた。
「君は、医者になりたいんだろう?」
「は、はい」
「だったら、今の状況はきっと都合がいい。学びたいことがあったら、気兼ねなく聞いてくれるといいよ」
クリスがそう言うと、エリアは嬉しそうに首を縦に振って返事をした。
「―――犬の散歩?私が?」
しばらくお互いのことを話して理解が深まった頃、マリーは急にリュックにそんな提案をした。
急な話を受けて、リュックは驚いたように自分を指差す。
「一号も二号もリュックちゃんに興味津々みたいだから。折角なら、一緒にどうかなって。もちろん、お兄ちゃんが一緒に行くよ?」
マリーがそう言うと、「相変わらず自由だねマリー?」とクリスが笑顔のまま突っ込みを入れる。
ただ、マリーの言う通り、二匹の犬は先程からリュックの近くで匂いを嗅ぎまわったり身体を近づけたりして、構ってほしそうにそわそわしている様子だった。
「え、私も。私も行きたい」
エリアは今にも立ち上がりそうな勢いで、ソファの上でぽんぽんと体を揺らした。
「もちろんいいよぉ。もこもこ仲間同士、仲良くなれそうだね」
エリアははっとした顔で犬たちと目を合わせる。
犬の一号が「わふ」と息の抜けるような鳴き声を上げると、エリアは小さな声で「めえ」と鳴き返した。
◇ ◆ ◇
時刻はもう夕暮れ。
今になって海まで出かけていた疲れが出てきたのか、若干の眠気に襲われながら、彼女達は一号と二号の二匹を連れ歩いていた。
道すがら、二人はクリスからパリの街のあれこれを興味ありげに色々と聞いている。
「おっきな塔かぁ。リュックのいた街にもあったんでしょう?」
「ああ、言ったっけ、そんなこと」
リュックがこの街に来て間もない頃、自分の過去の記憶を朧気に話した時にも、マリーがパリの街を引き合いに出していたことを思い出す。
「クリスはどうしてパリで医者を?」
「純粋に、人手不足でね。別に呼び出されたわけではなかったんだけど、医療崩壊を黙って見過ごすわけにもいかなくて」
「パリには医者が少ないの?」
リュックがそう問うと、クリスは気まずそうに視線を落とした。
「いや、いるんだけどね。沢山。―――ただ、彼らはなんていうか…思想が強めの人というか、患者を選ぶというか…とにかく、上手く回っていなかったんだよ、医療の世界が」
意味がわかるような、わからないような、と言った顔でリュックはクリスの顔をまじまじと見た。
エリアは、道草を食おうとする二匹の犬に引っ張られて右へ左へと翻弄されている。
「最初にパリの街へと向かったのが、五年くらい前だったかな。それから、この街と行ったり来たりを繰り返して…レリアちゃんが僕らの家に来た時は、ちょうど僕もバルベナに帰ってきてたんだ。だから、面識があった」
「移動は、どうしてたの?一人じゃ、危ないでしょう。影の獣もいるし」
「よく、騎士団や衛兵団に手助けして貰ってたよ。いくらか、知り合いがいたものだから」
「もしかして、エドとも?」
「…ああ」
何の気なく聞いたリュックだったが、エドの名前を聞いて心なしか表情を暗くしたクリスを見て、何かマズかったか、と深く聞くのをやめた。
話の最中、クリスは一軒の集合住宅の前で立ち止まって、二階の窓を仰ぎ見た。
「ちょっと、挨拶したい患者がいるんだ。ここで待ってて貰ってもいい?」
「ああ、うん。わかった」
クリスが中へ入ろうとすると、エリアが背後から声を掛ける。
「もしかして、ベルのところ?」
振り向いたクリスは、ああ、そうかと気が付いて返事をした。
「そうだよ。もしかして、エリアも会ったことある?」
「うん。前に、マリーと一緒に挨拶に来たから。私も行っていい?」
「構わないよ」
リュックが、じゃあ、と言って二匹の犬を預かる。
エリアとクリスの二人は、狭い階段を上って、二階にある小さな一室へと足を進めていった。
階段と同じく、屋内の薄暗い廊下もまた、すれ違うのも難しいほどの狭さ。
とある一室に辿り着くとその扉は既に開いていて、出入り口ではクリスの胸元ほどの背丈の少年が何か作業をしているようだった。
「久しぶり、アディ。元気だった?」
そこに居た少年は、クリスの姿に気が付くと物珍しそうに視線を上げて彼を迎えた。
「あれ、クリス先生。帰ってきてたんだ」
「うん、ここのところ色々あったからね。心配で様子を見に来てたんだ」
クリスがそう言うと、少年は「そっか」となんともなしに笑う。
クリスの後ろに立つエリアの姿に気が付くと、彼は「ん」と声を漏らした。
「あ。えっと…助手さん」
「エリアだよ」
一度しか会っておらず名前を忘れてしまったらしく、エリアが誤魔化すように自分の名前を告げながら手を振って挨拶をする。
「えっと…どうも」
年上の女性とはあまり接し慣れていないのか、少年は気恥ずかしそうに会釈をした。
少年は、特に何かを気にする事もなく二人を室内へと迎え入れた。
然程広くないワンルームの奥、部屋の広さに対して少し大きすぎるベッドの上には、エリアと同じようなブロンドの髪を持った女性が、枕に腰掛けるようにして座っている。
「…こんにちは。ごめんなさい、誰が来たのかしら?」
「クリス先生と、こないだの助手さん―――エリアさんだよ」
少年がそう伝えると、女性は「あら、クリス先生。お元気そうでよかったです」と穏やかに笑った。
女性は、その名前をベルティーユと言い、以前はクリスが訪問診療を行っていた患者の一人であった。
彼がパリの街へと出向いた後はその役をマリーが担い、先日はエリアも同行して挨拶をした相手。
そして、一緒に住んでいる少年は弟のアディで、彼女の生活を支えるパートナーの一人であった。
「久しぶり、ベル。調子はどう?」
クリスが声を掛けると、ベルは伏目がちに微笑んで応える。
「お陰様で、元気にやってるよ。この間は、ワルプルギスの翌夜祭も見に行ったの。先生は、あの空のお花は見た?」
「空の花?興味深いけど…その時は、まだこっちに着いてなかったから、見られてないな」
「そっか。来年は、翌夜祭の日に帰ってくると良いよ。素敵なんだよ、今までに見たことのないような、大きな火の花が咲くの。セブレムの科学者さんが造った、特別なものなんだって」
「そうなんだね。じゃあ、来年は頑張ってその日までに帰ってこよう」
そう話しながら、クリスはベルのベッド横にある小さな木製の丸椅子に腰かけた。
「マリーとは、どう?何か、伝えておくことはある?」
「いつも話したいことは話してるから、大丈夫だよ。女の子でしか話せないような内緒話もしてるから、先生にはむしろ言えないかも」
ベルが悪戯っぽく笑うと、クリスは困ったように「それはよかった、楽しそうで何より」と笑う。
「エリアさんとは、まだちゃんとお話出来てないよね。私、あなたのこともよく知りたいの。もしよければ、沢山お話聞かせてね」
「はっ、はい」
後ろで若干気まずそうにしていたエリアは、ベルからそう笑いかけられて驚いたように返事をした。
「ところで、この間のワルプルギスの夜は大丈夫だった?影の獣がかなりこの街に来たって話だったけど、怪我はしなかった?」
クリスは僅かに真面目な面持ちに変わって、ベルの顔を覗き込むように見る。
「なんとか、怪我はしないで済んだよ。アディが慌てて私をベッドから引き剥がして、窓の遠くまで連れて行ってくれたから。家の中には、影の獣は入って来なかったし」
「そっか、良かった。アディも、よく頑張ったね。ありがとう」
クリスが振り向いてそう伝えると、少年は恥ずかしそうに「うす」と小さく頷いた。
「最近は、アディに面倒見てもらってばっかりだからね。私も、もう少しお姉ちゃんらしく何かしてあげられたらいいんだけど」
ベルがまた俯きがちにそう言うと、アディが部屋の端から声を掛ける。
「いいんだよ、気にしなくて。俺は充分姉ちゃんに助けられてきてるんだしさ」
ベルは、ふふ、と小さく笑う。
「ほんと、よくできた弟。それでもう少し愛想がよければ友達もできるのにね」
「う、うるさいな」
また悪戯っぽく笑うベルの様子に、アディは怒っているような、笑っているような顔で悪態をついた。
クリスも、それに乗じるようにアディに声を掛ける。
「そうそう。アディは教会ではどうなの?上手くやれてる?」
「ん、勉強のほうはまずまず。まあ、それなりに上手くやってるよ」
「交友関係は…まあ、いつも通り?」
「…そうだよ。やめろ、変に含みを持たせるのは」
クリスが少し笑うのと一緒に、ベルもまた楽しそうに笑顔を見せた。
「でも、最近は仲良く話せる人が出来たもんね?」
ベルがそう話すと、エリアの背後の戸棚の中で、何かが急に物音を立てた。
エリアは驚いて飛び退き、アディに密着するように身体を寄せる。
アディも連鎖的に驚いて「違っ、おわぁ!?」と急に高い声を出した。
アディは、顔を赤くしながらエリアを押し返し、戸棚のほうを睨む。
「仲良くはねぇけど。何故かそこに隠れてる世話焼きとはまあ、悪口言い合うくらいにはやってるよ」
その視線を見て、エリアは恐る恐る、音の聞こえたほうへ歩み寄ってその戸棚を開いた。
「…」
「…」
「何してるの、レテ?」
戸棚の中に身を縮めて隠れていたのは、何とも気まずそうな顔をしたレテであった。




