第一話 友人
「すっげぇぇぇェエ!!」
威勢の良い声に、周囲のお客が振り返る。
「あ、ありがとう。けどここファミレスだから……」
シーと息を吐き、人差し指を立てた僕は静寂を促す。
「悪い悪い、俺まで興奮しちまってさァ」
声を潜めた彼は、高揚を隠し切れないまま続けた。
「だってさ、お前の漫画が本屋に並ぶんだよな! やべぇだろそれェ!」
「そう、投稿系の雑誌ね。短編の読み切りで、賞とか取れたら週刊誌デビューあるかも……ほら静かに」
先程のやり取りをすっかり忘れ、再び声のボリュームを上げる友人を、僕はなだめた。
周囲の目にビクつきながらも、目の前の彼に悪い気はしない。
少年の如く目を輝かせ、自分の事の様に喜んでくれているのだ。
「俺、甲斐ならやれると思ってたワ。お前の漫画やっぱ面白れぇもん!」
甲斐、と僕の名前を呼ぶ彼は古くからの友人。
見た目は正直、輩〈ヤカラ〉だ。
大人しめに生きてきた身からすると、身構えてしまうタイプである。
小学校からの付き合いでなければ、23歳になった今もつるんでいないだろう。
だが僕が大学を中退してフリーターになってからは、唯一の友人でもある。
「伊勢谷のネタ提供のお陰かな」
そう、こいつ、伊勢谷には、よくお世話になる。
スランプに陥りそうな時、知ってか知らずかネタ出しを手伝ってくれるのだ。
また興味をそそる設定を思い付くんだ。
「でよォ、その読み切りっていうのは勿論――」
一見チグハグなオタクとヤンキー。
大人になった今でも仲が良いのには、理由がある。
「うん。勿論“アレ”が題材だよ――」
お互いに、あるものが好き過ぎるのだ。
小学生の頃から妄想してはノートの端に描き殴り、ディスカッションを重ねてきた。
「「異世界転生!」」
僕らは異世界オタクである。