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9話 ティファニーの素性について

日も沈みかけ夕焼けの日に染まる書斎。

この屋敷の主人のダーリックと老執事が向かい会い神妙な面持ちで書類を交わしていた。


「ティファニー様についてお調べした結果メイラ家の今の奥方様の子ではなく、前の奥方様の子である事が判明しました。こちらがまとめた書類です。」


老執事から書類を受け取るとダーリックは目を通す。


先妻の娘。存在は屋敷の中では確認されているが顔を見たものはいない。

日々成長する姿は確認されており待遇も変わらないために入れ替えられた可能性は低い。

屋敷から出たという情報もなければ誰かと会い、人となり等の情報もない。

存在は確認出来るがまるで情報がない存在。

送られてきた理由を推測出来るとしたらただの厄介払い、今までの待遇を考えると帰っても彼女の居場所はない可能性が高い。

そしておそらく私の元へ娘を送る事で嫁に困る私は手放さず体良く厄介払いが出来ると言う事だろうか。

もしそうであればなんて幼稚な考えだろう、そんな考えに乗ってやるかという気持ちと手放し送り返す事に躊躇う気持ちが相反する。


不思議な娘だと思い調査させたがこの結果はどうしたものか。

人の家の闇について関わり咎めるには自分の社交力は期待できない事はわかっている。


「ティファニー様自体には問題がないようですし、向こうの家から送られて来たのです。このままで宜しいのではないでしょうか?」


「このままで……か」


「今のところ本人も楽しそうですし。」


確かに来た当日はともかくとして、それ以外では楽しそうにしていた記憶しかない。

自分に向けられた楽しそうな声音。

思い返すと焦げたクッキーの味に触れられた指先の感触、食事の時に堂々と自分をこき使おうと真っ直ぐに頼んでくる姿が浮かび、何とも言えないもどかしい気分になる。


「わかった、この件は保留で良いだろう。」


「かしこまりました。ところでメイド長からティファニー様付きのメイドがドレスに問題があると言う報告があったようです。」


「ドレスに?」


「どうやら元からお持ちのドレスは型が古く、家から持たされたドレスは異様に派手過ぎて人前に出すにはあやしいデザインもあると。」


そうだったか、ヴェールに気を取られてドレスまでは気が回らなかったが思い返すとあまり見ない型な気もする。

しかし人との関わりを最低限しか持たないために、特に女性の流行は全くわからない。


「なかなかにスッケスケなドレスがあったそうです。」


「スッ!?そこまでの情報はいらない、では新しい物を作るように伝えろ。」


「かしこまりました。ちょうど街に以前旦那様もお世話になった腕利きのデザイナーが居るとの情報が来ていますので、その方に頼んでみましょう。」


「あぁ、彼か……違う者はいないのか?」


以前自分も世話になったから覚えがある。

ふくよかな身体にチラリも見えた小さな瞳が可愛らしい、接客トークも上手く見栄えも良い、商人としても充分やっていけそうな雰囲気を持つ青年だった。

確かに彼なら人に勧められる人材として申し分ない。

しかしどこか引っかかる。


「彼の腕に不満がありましたか?」


「そうではないが……彼女は顔を見られたくはないようだからな、せめて同じ女性の方が良いのではないかと思うのだが。」


彼女が他の男性と話しているのを想像すると何故か嫌な気持ちになった。

自分程酷い容姿の男にも気軽に話しかけるのだ、相手が顔も良くトークも上手い男性なら更に会話も弾み楽しい時間を過ごすのだろう。

まだ出会って間もない相手に惚れてしまったなんて今までの人と距離を置いて生きて来た自分では考えられなくて認めたくはない、しかし嫉妬という感情が頭を過ぎる。


「そうでしたか、女性の方は1人だけいるにはいるのですが多忙な方ですので必ず受けていただけるかはわからないですね。」


「なんとか頼めないだろうか。」


「交渉してみます。」


「頼む。」


本当に多忙で頼むのが難しい相手なのだろう、老執事は悩むがしぶしぶといった様子で受け応える。


「費用なのですがティファニー様はほぼ身一つで来ておりますので、どこからお出ししましょうか?」


「そうだったな、私が出そう。」


いきなり婚約者にと送られてきて、もしこれがただ怯えるだけで費用も使わされたならどれだけ馬鹿にされた物だと憤慨しただろう。

しかしティファニーは誰もが嫌がる嫁ぎ先へとやって来ながら楽しそうにしている、そしてその姿にダーリックが心動かされているのは事実だ。


「かしこまりました。では旦那様からの贈り物だとお伝え致します。」


「いや、そう言う訳では……」


ダーリックが支払うのだから形式的には贈り物と言われてもおかしくは無い。

しかしいざ贈り物と言われると何やら恥ずかしくなる。

何しろ成り行き上仕方がないとはいえ初めて女性への贈り物となるのだ。


「まだやる事が残っておりますので失礼致します。」


そんな気持ちを知ってか知らずか老執事は指示を飛ばすために部屋から出て行く。


残されたダーリックは1人どこか気恥ずかし気にしているが考えていても仕方がない。

貯めていても使わない金を誰でも1度はある女性に贈り物、という風に使うのも人生経験だと割り切り恥ずかしい気持ちを誤魔化した。

それにしてもドレスを送るのなら自らの好みを反映しても良いのだろうか、好みのドレス、彼女はどんなのが似合うだろうか。

きっと薄い色も可憐さを引き立たせ、濃い色も白い肌を際立たせ魅力的に見えるだろう。

考えるも結局は何を着ても似合い、そもそもドレスをよく知らず、デザイナーに会う気もないと行き着くと考えるのを辞めた。

お読みいただきありがとうございました。

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