新しい命ですの。お知らせ
ティファニーが診察を受けている間、ダーリックは1人部屋で落ち着かずにいた。
突然の嘔吐に思い付く原因は2つ、何かの病気か、自分の顔を見て耐えられなくなり嘔吐したか。
両方信じたくはないけれど、またマシなのは後者の自分の顔を見て気分が悪くなった。
まさかとは思うが突然彼女が正気に戻り一般的な美醜の感覚になりこの悍ましい顔を見て吐き気を感じたのだろうか、そうだと良いとは言えないけれど十分に幸せな時間を貰ったのだから彼女が病気になるよりはずっと良い。
病気ではない事を祈り本当は診察に同席したいけれど女医は自分の風貌を恐れるだろう、恐れながらの診察で誤診されてはいけない。
いつでも出れる様にと仮面は付けたままにしている。
診察はまだ終わらないのかと心配していると、部屋の外からパタパタとした足音が遠くから聞こえて来るのに気付く。
急いでいるという事はティファニーに何かあったのか、居ても立っても居られずに部屋から出るとぱぁっと華が咲くような笑顔のティファニーがパタパタと走り寄り、その後ろからメイド達が慌てて追っているのが見えた。
無事だった事へほっとしたのと、走るメイドの数が多くいつの間にこんなに増えたのかと驚く。
「ティファニー様を止めてくださ〜〜いっ!」
「止まれっ!」
一言ダーリックが言うとティファニーは走るのをやめ止まる、けれどいきなり止まった勢いを殺しきれずによたよたと危なっかしく歩きその光景にメイド達は悲鳴を上げた。
よたよたと歩くティファニーを受け止めるとメイド達は安心した様にホッと息を漏らす。
「どうした?やっぱり具合が悪いのか?」
見た目は元気そうにしか見えない、なんならティファニーが走るのは久し振りに見たくらいに元気そうである。
しかしメイド達の焦りようと、普段近寄らない部屋まで追いかけて来て本人を前にしてもティファニーしか目に入らない姿はどこかちぐはぐな感じがしてダーリックを不安にさせた。
「赤ちゃんが出来ましたの。」
受け止められた腕の中、サラッと告げられたた言葉はいずれは聞きたい言葉ではあったけれどいきなり告げられるとは思わずに反応が遅れる。
「赤ちゃん……?」
抱き締めた体を離しティファニーのお腹を見る、まだ全く膨らんではいないけれどこの中に新しい命が宿っているのだろうか。
もしも自分を見て吐き気がしたのではと沈んだ気分からの新しい命の知らせは振り幅が大きく理解はしているのだけれど感情が追いつかない。
お腹を見たので理解はしているのだろうけどいまいちピンと来ていない反応を見せるダーリックにティファニーは先程の自分と同じ反応だとおかしくなる。
メイド達に手を振りダーリックの部屋へと足を踏み入れベッドに座らせると、その膝の上にティファニーは腰を落ち着けた。
「ありがとう。」
「どうしましたの?」
「子を宿してくれて、とても、嬉しい。」
動揺して仮面を取る約束を忘れているようで、ティファニーがそっと仮面を外すと涙ぐむ瞳が表れる。
本当に喜んでくれているのが伝わり何だか自分の涙腺も緩んでしまう様な感覚をティファニーは感じた。
「ふふっ、どういたしまして。ダーリック様なら絶対に喜んでくださると思って居ても立っても居られずに急いで来ましたの。」
やっぱり喜んでくれたとティファニーは満足そうに笑うとダーリックの手を取り自らのお腹に持っていきゆっくりと撫でる。
初めは動かされるままに固い動きをしていたダーリックだが何度か撫でるうちに緊張はほぐれ自らの意志でゆっくりと触り慣れたティファニーのお腹をさする。
「ティフが無事で良かった。何かよくない事が起こったのではないかと心配したがこんなに嬉しい事だとは思わなかった。」
「わたくしもびっくりしましたの。なんだか眠くて、起きたら吐き気、えぇっと、つわりが襲って来て、あっ!ダーリック様の上着を1枚駄目にしてしまいましたのっ」
「上着なら気にしなくて良い。そうか、つわりか、てっきり私の顔を見て気分が悪くなったのかと思った。」
言った後にしまったと罰が悪そうな顔をする。
ティファニーはダーリックが自虐をすると少し機嫌が悪くなるのだ。
「だから直ぐ仮面を付けられたのですか?これからわたくしは小さいダーリック様そっくりの子を産むのですからそんな事は言わないでくださいませ。」
「小さい私……?まぁ、その可能性もなきにしもあらずだが、私はティファニーに似た方が嬉しいな。」
ティファニーが我が子を宿した事で浮かれていたけれど自分に似た子が産まれる可能性は十分にある。
もちろん自分に似ていてもダーリックは愛す自信がある、自分だけは愛さなければいけない思いと、愛するティファニーが産んだのだから可愛くない訳がないのだ。
しかし産まれた子のこれからを考えるとティファニーに似た方が周りから愛されるのは確実であるのは目に見えている為に、現実的にティファニー似である事を祈ってしまう。
「小さいダーリック様はとても可愛らしいので、わたくしずっと一緒に居たいですの。可愛すぎて連れ去られるかもしれないので敷地からも出したくはありませんわ、ずっと一緒ですの。」
楽しげに語り出すティファニーにダーリックもそれなら産まれれてきた自分そっくりな子も幸せに過ごせるだろうと考える、とても後継としての能力は伸ばせなさそうで不安しかないが。
しかし……
「駄目だ、それではティフが私を構う時間がなくなってしまうではないか。」
その言葉に嬉しそうにティファニーは「やっぱりわたくしにはダーリック様だけですの。」と微笑んだ。
確かに小さなダーリックも見たいし、幸せにしたいけれど一緒に幸せになりたいのは今目の前のダーリックなのだ。
向けられたヤキモチに愛されている事が満たされる感じがしてティファニーの心は満たされる。
ニコニコと上機嫌なティファニーはダーリックが先程まで自分のお腹をゆっくりと愛おしそうに温かな手のひらで撫でていた感触がない事に気付く。
何故か今はダーリック自身のお腹を撫でているのだ、赤ちゃんがいるのはティファニーのお腹なのに何故自分のお腹を撫でているのか、何故ティファニーのお腹を撫でてくれないのか、考えて出た結論は1つ。
「ダーリック様のお腹にも赤ちゃんがいますの?」
その言葉に驚いたように目を見開かれ、まさかそんなに驚かれると思っていなかったティファニーも釣られて大きく口と目を見開驚いた。
「違う。私にもっと腹部の脂肪があれば、いや、その、良ければ1つ頼みたい事があるのだが。」
「やりますの。」
「まだ要件を言ってない。妻が子を宿しお腹が大きくなるにつれて今の服では腹部が辛くなるだろう?だがら腹部が大きい夫の服を妻が部屋着にするというのを聞いた事があるのだが……」
その要件を聞いたティファニーの瞳がキラキラと輝き出す、ダーリックの服が着れて喜ばない訳がない。
こんな文化があるだなんてティファニーは初めて腹部が大きい男性に感謝をした。
「ぜひやりたいですのっ」
「本当か?良かった、ティフを見ているとどうしても欲が出てきてしまう。ちゃんと新品を渡すし一度だけでも良いからお願いしたい。」
「ダーリック様のならずっと着ていたいですの、今すぐに着たいので脱いでくださいませ。」
そう言うとティファニーはダーリックの膝から降り早く脱ぐ様にと急かす、上着だけではなくシャツまで取られてしまうとは自分から言い出した事ながらもダーリックは驚きを隠せなかった。
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