新しい命ですの。発覚
なんだか最近とても眠くなる。
今日も今日とてダーリックが仕事をする書斎へと足を運び、真剣に作業をする顔を眺めながらうとうととソファーで横になる。
今までは本を読んだり刺繍をしているうちに眠くなり寝てしまったのだけれど、今日はもうすでに眠い。
ここには寝に来たのだと固い意志で眠る事にする。
「体調が良くないなら部屋に戻っていた方が良いのではないか?」
「眠いだけなので大丈夫ですの。」
「せめて毛布を持って来させよう、身体を冷やしてはいけない。」
心配そうに手を止め人を呼ぶ為に仮面に手をかけるダーリックに「待ってください。」と声をかける。
「ではダーリック様の上着を貸してくださいませ。」
そう言うと直ぐに上着は脱がれティファニーの身体にかける、脱いだばかりの上着はまだ優しい温もりがありまるで抱き込まれている様な気分になる。
「ありがとうございます。」とお礼を言うと優しく頬を撫でられるので、その手に頬擦りをした。
「ふふっ、気持ちよく眠れそうですの。」
仕事をしている人の前で寝る宣言とは如何なものかと思うけれど、そこはもうお許しが出ている。
なんなら「仕事中なのに無防備に可愛らしく寝ているティフを見れるなんて贅沢だな。」と言われてしまった。
暖かい上着と頬に当てた手の感触に浸りながら瞼を閉じると、直ぐに意識は落ち深く眠りについてゆく。
ふと目を開けると見慣れた自分の部屋のベッドの上、ちょうど寝かされた時に目を覚ました様でまだ頭の下にはダーリックの掌が置かれていた。
ティファニーと2人っきりの時には仮面を外すという約束はちゃんと寝ていても守られているようで、仮面が外された顔から向けられるダークブラウンの瞳が起こしてしまった事を気まずそうにし揺れるのを見て、目覚めにクスリと笑う。
「おはよう、部屋でゆっくりと眠ると良い。」
「もう大丈夫ですの。もうお仕事が終わったのなら今日はわたくしのお部屋でお話ししませんか?」
ゆっくりと寝ていた身体を起こすと頭の後ろに置かれていた手も手伝ってくれ、手伝いが終わった手は自分の物だとティファニーは自らの手で包み込みながら提案をした。
「いいだろう。それと最近体調が良くなさそうだから医者を呼ぶ事にした、一度診てもらい何か気になる事があれば聞くと良い。」
ちょっと眠くて、ぐだっとしたい位で外傷はないし特に診てもらうところは浮かばないけれど与えられた好意は受け取ろう。
「わかりました、お医者様はいついらっしゃ……」
うっ、とティファニーは吐き気を感じて口を押さえる。
「っどうした?」
いきなり口を押さえるティファニーの肩を抱くと離れようと押し返される事に戸惑う。
ティファニーからの明らかな拒絶は信じたくなくて離れようとする事を拒むが、ただならぬ様子はそれどころではないとダーリックは正気を取り戻す。
真っ青な顔で口を押さえるティファニーは「はきそう」と消え入りそうな声で言うので上着を脱ぎ「ここに吐くように。」というと戸惑うような視線を向けられる。
しかし我慢が出来なくなりツンと来る臭いと共に吐き出してしまうのでダーリックはゆっくりと背中を撫でた。
「っ、も、もうしわけ、ありません」
「気にする事はない。それよりも今直ぐに医者を呼ぶから少しだけ待っていてくれ。」
そう言うとダーリックは足早に部屋から出て行き、彼にしては珍しい大きな声で医者を今すぐよこす様にと指示するのが聞こえて来た。
ちょっと前まで自分を温めてくれていた上着をこんな事に使ってしまってティファニーは途方にくれる。
さすがに吐いてしまった上着はもう使えないだろう、1枚駄目にしてしまった罪悪感と綺麗にするから貰えないだろうかという邪な気持ちが溢れる。
なんとか吐き気もおさまった頃にダーリックは戻って来てくれて、直ぐに医者が来てくれる事とその前にメイドが身綺麗にしてくれる事を伝えられたのだけれど直ぐに出て行ってしまった。
それと入れ替わりでどこかソワソワとしたメイド達が部屋へとわらわらと集まってティファニーの上着を取り、口を濯ぎ、ゆったりとしたドレスへと着替えさせた。
もちろん上着は捨てずに綺麗にしておいて欲しいと伝えてある。
ごめんなさいわたくしの吐瀉物を綺麗にする係に任命される方、と心の中で謝罪した。
「おめでとうございます、ご懐妊ですよ。」
何度か来てくれている馴染みのある女医は一通り診察を終えると笑顔で言い、ドアの外からはきゃあきゃあと大きな声が聞こえて来た。
今は女医とティファニーとぜひ一緒に居たいと申し出たメイドのアニーと3人である。
本当はダーリックも一緒にいて欲しいけれど他の女の人とは関わって欲しくはないから呼んではいない。
この行動は奇しくもダーリックの風貌を恐れる女医やメイド達と、恐れられる事がわかっているから距離を置きたいダーリックと、嫉妬の鬼のティファニーが上手く結びついたトライアングルなのだがティファニーは知らない。
「ごかいにん」いまいちピンと来なくアニーを見るとプルプルと震え目に涙を浮かべている。
「おめでどうございまずっ」
おめでとうございます、悪い事ではない。
ごかいにん、ごかいにん、ご…かいにん、ご懐妊。
それは赤ちゃんが出来た事に対する言葉。
いまいち意味を理解出来ずに首を傾げるけれど、理解が追いついた途端に「あっ!」と大きな声を上げる。
「わたくしの中にダーリック様の赤ちゃんが居る……と言う事ですの?」
「ぞうでずよ!お待ぢでおりまじだ!」
ずびずびと鼻を鳴らす姿は本当に喜んでくれているのがわかりティファニーは嬉しくなる。
「ふふっ、小さいダーリック様がいるかもしれないのですね、早く大きくなって欲しいですの。」
その言葉を聞いた途端にアニーと女医は固まる。
「ティファニー様に似てるかもしれませんよっ。」
一瞬にして涙も鼻水も止まったアニーである、もちろん産まれた子供が旦那様そっくりでも、小さな子供であればきっと微笑ましく成長を見守れるだろう。
しかし例えが恐ろしい見た目と威圧を放つ旦那様だから怖い物は怖い。
「わたくしは小さいダーリック様が良いですの。」
断固として譲らないティファニーに何故かこのままでは本当に旦那様そっくりの子を産む様な気がしてくるアニーである。
「きっとティファニー様そっくりのお子様だったら旦那様も大喜びだと思います!」
「そうでしょうか、ダーリック様に喜んで欲しいですの。わたくしダーリック様にお伝えしてきます!」
そう言うとティファニーは席を立ち部屋を出ようとする。
まだ話が終わっていないと女医は言うが、ティファニーはアニーに伝える様に言うと、パタパタとダーリックの部屋へと走り出した。
突然部屋から出て走り出したティファニーに待機していたメイド達は慌てて止まるように、せめて歩くようにと叫ぶ。
残されたアニーは先程まで微笑んでいた女医も青褪めているのを確認し、この後どうにか今後も診察を続ける為にこの屋敷へ来て欲しいとお願いしなければならないと心に決めた。




