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お仕事をしますの

コンコンとドアが鳴り「ダーリック様、起きてらっしゃいますか?」と呼ぶ声。

朝食前の時間、朝はいつも1人で用意している為に部屋へと訪れる者はないが、今日は聞き慣れた可愛らしい愛しい声。

「どうした。」と声をかければ開かれた扉からは、この屋敷で働く者が着ている丈の長い仕事着いわゆるメイド服を着て髪を後ろでざっくりと三つ編みにしたティファニーが背筋をピント張り得意げな顔で部屋へ足を踏み入れる。

ざっくりと三つ編みにした髪からぴょんぴょんとはみ出ている髪がとても可愛らしい。


「おかしいな、先日まで私の可愛い婚約者で、最近可愛い花嫁さんになったはずなのに、今日は可愛いメイドに見えるのだが……」


驚いたダーリックに満足そうにティファニーは笑う。

ドッキリ作戦成功である。

そう、ティファニーはこの屋敷で役に立っていない事を嘆き何とか出来ないかと考えていたのだ。

そして考えついたのがメイドとして働く、勿論本職のメイド達は皆「そんな事しなくていい。」「ティファニー様は居てくださるだけで希望の存在。」「お身体に何かあったらどうするのですか。」と良い顔をしなかったけれどもあまりにも本人のやる気がある事と、志望したのがダーリックの世話をしたいと言う事だったのでそれなら普段と変わる事は無いだろうと了承を得られたのだ。


「ふふっ、バルベル家の可愛い花嫁になったからには今までのお返しにと、これからはわたくしも働く事にしました、ダーリック様付きのメイドはいないと言う事でしたので立候補しましたの。」


「それは立派な心がけだが、もしティフが嫌でなければこの家の……花嫁が代々する仕事をするか?妻を迎えられるとは思っていなかったから出来る事は全て私がしようと思っていたのだが、簡単な計算ばかりだからメイドよりは負担が少ないと思うのだが。」


「ぜひしたいですっ、でもわたくし計算はよくわかりませんの。」


本は読むのが好きだけれど、計算をする学はない。

しかしこの家に嫁いで来た花嫁がする仕事だという売り文句はとても魅力的であり、ティファニーは悩むように小首を傾げた。


「なら教えよう、直ぐに覚えられるはずだ。だからメイド服は脱いで、いや可愛いからしばらく着ていても良いのだが。」


どうやらダーリックはメイド服を気に入ってくれたようである。

これで一緒に居られる時間が更に増える、しかもお世話と称して触れ合う事が出来るのだとティファニーは内心ほくそ笑んだ。

しかしふと疑問に思う、そもそもダーリック付きのメイドって何をすれば良いのだろう。


「ダーリック様付きのメイドって何をすれば良いのでしょう?」


「私付きのメイドはいた覚えがないからな、着替えるから待っていてくれないか。」


そう言い向き合うティファニーの肩を掴み後ろを向かせるが、今こそ手伝う時だと身体を向き直し着替えようとするダーリックのところへ行く。


「着替えのお手伝いをさせてくださいませ。」


その為に来たのだから後ろを向いている訳にはいかない、何なら下着を変える手伝いだってするのだ。

そんな思いで手伝いを言い出せばダーリックもこれは言っても聞かないやつだと観念しティファニーの好きにさせる事にした。

もちろん下着は変えないが。

そして今ティファニーは初めてシャツの『ボタン』という物に格闘をしている。


「この穴にこのボタンは本当に入りますの?」


「入る、ほら入った。」


ティファニーがボタンを細い指先で摘み穴に入れようとするも上手く入ってはくれない、しかしダーリックが慣れた手付きでボタンを潜らすと間違いなく穴にボタンは入っていてあまりの早業に驚き目を見張る。

そんな表情が面白くダーリックは残りのボタンも全て穴に潜らす。


「見てくださいませ、わたくし外すのは出来ますの。」


全て付け終え作業の終わってしまったシャツのボタンを弄るとボタンが外れた、自分でも出来ることがあったと得意げに外していくので先程つけられたボタンは全て外されてしまった。


「外すのは上手いな。付けるもの後で練習をしよう。」


外されたボタンをはめ直しながら言うとティファニーは元気に返事をする。

元は器用で裁縫の腕もいい彼女だからボタンをはめるくらい直ぐに出来るだろう。


「ループタイも出来ますの。今日はリボンに結びませんか?とても可愛いと思いますの。」


上機嫌にティファニーはループタイの細い紐を結んでは解き気にいる形に出来たら左右の長さを揃える、細く白い指先が首元で動くのは酷くこそばゆい気分になる。

手持ち無沙汰のダーリックは両の腕をティファニーの腰に回す、引き寄せるでもなくただ回しただけの腕は慣れた細い腰回りに落ち着く。


「そういえば計算を教わる時にダーリック様が通っていらしたという学校の制服を着たいので、もしメイド達でまだ持っている子が居たら借りて着ても良いでしょうか?」


その問いに少し考えるような仕草をダーリックはするが、すぐに結論を出す。


「着るのは良いが借りるのではなく、ティフのサイズを取り寄せよう。」


かつて通っていた学園の制服を着たティファニーを想像すると、とても見たい。

彼女は何を着ても似合う、普段のドレスも可愛らしければ今日着たメイド服もこの服はこんなに魅力ある服だったのかと思い、彼女が着ているからこうも素晴らしいのだと気付く。

そうと決まれば今日中に依頼をしなければいけないとダーリックは決意した。


「ダーリック様も着て教えてくださいませ。」


1人考え頷くダーリックだが、ティファニーの提案を聞いた途端に思わず固まる。


「取っておいてはあるがもうサイズが合わないからな……」


「取り寄せ等は……」


「今更制服が欲しいと頼むのは流石にな……、羽織るくらいなら出来るからそれでは駄目か?」


「駄目じゃありませんの!」


制服を羽織るダーリックが見れる、それだけでティファニーは心弾ませる。

本当はちゃんと着ているのが見たかったけれど、肩に羽織るのも格好良いのではないか、いやなんなら着れなくても自分が制服を着ていればダーリックは『先生』になる。

ただのスーツでも物凄い付加価値がついてしまうではないか。

そう考えティファニーは満足そうに1人頷いた。


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