34話 最終話 ティファニー・バルベルですの
うららかな昼下がり、一台の馬車がバルベル家へと向かう。
昨日のうちに帰ろうとした予定はネックレスが完成した時刻が思ったよりも遅くなり、安全の為に宿に泊まり次の日に帰る事になった。
帰ったらもうティファニー・メイラではなくティファニー・バルベルになった事を自慢しよう。
そう考えると自然とティファニーの顔は緩みつい笑い声が漏れる。
「何を考えているのだ?」
自らの膝の上に頭を乗せるティファニーの髪を手櫛で解かしながら、仮面を外し穏やかに見詰められる眼差しは暖かい。
「わたくしはもうダーリック様の物だって考えてましたの。」
そう言いむくりと起き上がると、ダーリックから距離を取り膝の上をポンポンと叩く。
「今度はダーリック様が寝てくださいませ。昨日もあまり良く眠れてなさそうでしたの。」
3日前はクッキーを作ってくれて、2日前は腕枕のせいで眠れなく、昨日も一緒に寝て、腕枕はまた眠れなくなるかもしれないからとくっつくだけにしたのだけれどあまり眠れなかったようだ。
大切な愛する旦那様を不眠症にさせるだなんて、とても良妻とは言えない。
戸惑い、迷う様な雰囲気を出すのはダーリックが実はシャイなところがあるからだと知っている。
強引に頭を膝の上に乗せ撫でるとサラサラとした髪の感触が気持ち良く癖になりそうだ。
「着いたら起こしますから、ゆっくりと休んでくださいませ。」
段々と耳が赤くなっていくのを見ると嫌がっている様には見えずにただひたすらに指通りの良い髪を撫でる。
少し撫でていると寝てしまった様で、規則正しく揺れる肩に寝ている邪魔をしないよう撫でる手を止め刺激にならないように毛先を触る。
ティファニーの大好きな綺麗な寝顔を見るために顔を上に向けて寝て貰えば良かったと今更ながら後悔した。
もうそろそろ着くだろうか、見慣れた景色が窓から流れ膝の重みとも名残惜しいけれどお別れしなければいけない。
つんつんと頬を突くと柔らかい感触が気持ち良いので、今度正式に堪能させて貰おうと計画する。
「起きてくださいませ。」
軽く肩を揺すると小さな呻きと共に起きた様で、身体を起こし何とも気まずいそうに口を開く。
「寝るつもりは無かったのだが……」
「わたくしは寝て欲しくて膝枕をしたので、寝ていただくのが正解ですの。膝枕はどうでしたか?」
「柔らかかった。……いや、気持ちが良くて直ぐに寝てしまった。」
「お気に召していただき光栄ですの。」
そんなやりとりをしているうちに馬車は泊まり先に仮面を付けダーリックが降りると両の手を広げ待つ。
喜んでティファニーが抱き付くと身体が宙に浮き抱き上げられる感覚。
本当は昨日靴を買う時間もあったのだけど、「皆にダーリック様はわたくしのだって自慢したいので、このままが良いですの。」と靴を買う事を拒否したら直ぐに抱き上げられたので靴を買うのは辞めた。
代わりにスイーツショップを何店か行き美味しそうなケーキをその場で食べ日持ちしそうな物は2人のティータイムに、屋敷の人へのお土産も買ってしまった。
予定より遅い帰りを心配していたのか屋敷の前には勢揃いと言えるほどの人が集まっていた。
皆見知った顔、いつもティファニーに良くしてくれる人々。
小さく手を振ると無事に帰った事に安心し嬉しそうに手を振りかえす人もちらほら。
言うなら今しかないと大きく息を吸い込む。
「みなさま、わたくしはティファニー・バルベルになりましたの。これからもよろしくお願い致しますっ」
湧き上がる歓声。抱き合うメイド達。老執事は号泣していて見ていてこちらが心配になりそうだ。
中でもアニーは1番喜んでくれているようで、側にいた料理人の男性に抱き付き飛び跳ねている。
喜んでくれる人々に歓迎されていると嬉しく思い、ダーリックの首元に抱き付き思いっきりキスをした。
再度歓声は湧き上がり、今日は奥様を迎えた記念だと誰かが叫び祝いの用意だと皆慌しく働きに戻る。
実はこの喜ぶ姿はティファニーが正式にバルベル家の一員になった事の他に、一晩余分に泊まり歩けずに抱き上げられて帰った事。
つまりお子が迎えられるような事があったのではないか、旦那様は恐ろしい見た目をしているからきっと物凄い肉食系に違いない。
という見当違いな事に対しても喜びがあったのだが2人は知らない。
ティファニーは部屋まで運ばれるとベッドへゆっくりと降ろされる。
離れてしまった熱に2人とも寂しさを覚え、ダーリックもベッドに腰を下ろすとティファニーはその胸に寄りかかり口を開く。
「みなさまが受け入れてくださってホッとしましたの。」
「皆今か今かと待ち望んでいた、誰よりも私が1番にこうなって欲しいとずっと待ち望んでいたのだがな。」
「わたくし今までずっと1人で、ここに嫁ぐ様に言われた時も怖い方だって聞いてビクビクしてましたの。でもダーリックに会ってみたら全然怖くなくて、素敵で、あっ!でもやっぱり1番初めに会った時に追い返されそうになったのはちょっと怖かったですの。」
「それはすまなかった。あの時に帰らずに泊まってくれて、強引に距離を詰めてくれたから今こうして夫婦になれた。全てティフのお陰だ。」
「それだけダーリック様が魅力的だったからです。これからはずっと一緒ですの。」
お互いに顔を晒し額を合わせると、初めて顔を見た時よりも近いその距離に恥ずかしいけれど今では自然と唇を求める。
きっと顔を晒していても晒していなくても好きになっていたのだろう。
孤独な人生でも満足していたけれど、いつの間にか埋まっていた温もりを手放す事はもう出来ない。
その後結婚式はいつが良いか、お金を使う事に難色を示し挙げなくても良いのではないかと言うティファニーに、なるべく人前に出たくないダーリックは一度保留にするもその事が周りに知れると大ブーイングを受ける。
要約するとダーリックはどうでも良いからティファニーの美しいウェディングドレスを見せろ、作らせろ、というクレームだ。
今まで嫌厭はされど真っ直ぐに文句を言われた事のほとんどないダーリックは衝撃を受けかなりメンタルを削られ、確かにティファニーのウェディング姿はかなり見たいと吹っ切れた。
また、舞踏会でのプロポーズはしばらく噂になりティファニー自身がその日に令嬢達に日々を赤裸々に語ったのもあり2人の知らぬ間に『恐ろしい見た目の男と美しい見た目の女性の恋物語』として出版、舞台化された。
後日ティファニーが知り、ダーリックに書籍を見せると本人にとっては恥ずかしい隠してしまいたい事まで赤裸々に書かれ気が遠くなった。
「この物語は実話を元にしたフィクションです。」と書くなら本人に内容の相談をして欲しいと心から思うダーリックである。
しかしそのお陰でバルベル家の領地、特に一度2人で視察に訪れた町は『恐ろしい見た目の男と美しい見た目の女性の恋物語』の手軽に訪れられる聖地として盛り上がる事になる。
そんな定期的に想定外の事は起こるのも楽しく、笑みの絶えない日々、ティファニーとダーリックはいつまでも仲睦まじく幸せに暮らしましたとさ。
めでたしめでたし。
初投稿から約ひと月ちょっと『〈美醜逆転〉突然告げられた婚約者は恐ろしい顔だと言われたのですがそんな事はありませんの、見せてくださいませ。でもわたくしの顔を見せる事は出来ませんの。』にお付き合いいただきありがとうございました。
ヴェールが脱げる場面、舞踏会でのリフトの場面と絶対に入れたい場面を書け、キリが良いところなのでここで完結とさせていただきます。
これからは本編は完結しましたが、日常の短編をちょこちょこ投稿させていただこうと思います。
ダーリックとティファニーがただイチャイチャしてる話や、外に出る話、何本か書き終わっているので同じように明日から投稿をしていきます。
初めての投稿でしたので至らない点等も多かっと思いますが、閲覧数、ブックマーク、感想、誤字報告等の反応が嬉しく感謝してもしきれません!
本当にありがとうございました。
もし良ければ感想やレビュー等お願い致します。
ここに書くには長くなってしまいそうなので、後ほど活動報告にでもこの話についての思いとか書きたいな〜なんて思ってます。
明日はムーンライトに突発的に書いたダーリックとティファニーの初夜を単発で投稿します。
特にストーリーも何もなく初めからイチャついているだけの話です。
良ければもう少しお付き合いください!
次回作は短編書いていたら全然進まなかったのでゆっくりですが、また美醜逆転を書きます。




