33話 お揃いの石ですの
窓から差し込む柔らかな光は部屋を明るく照らし出す。
ゆっくりと瞼を開けると大好きなダークブラウンの大きな瞳と目が合い優しく微笑まれる、まだ夢の途中のような幸せな感覚に意識は引きずられ瞼を閉じた。
しかし抱き込まれる感触は夢ではなく、先程よりも覚醒した頭でもう一度瞼を開けると相変わらずティファニーの大好きな整った甘い顔。
昨日沢山動いて身体は疲れと筋肉痛であまり良くないけれど、寝起きから大好きなダーリックと一緒だと思うと不調なんて飛んでいく。
「おはようございます。」
「おはよう。よく眠れたか?」
「えぇ、ダーリック様もよく眠れましたか?」
その問いに曖昧に返されあまり眠れなかったのだろう、ずっと腕を枕にしていたから寝づらかったのか枕が変わると寝れないのか。
けれど返される挨拶にこれは夢ではないと嬉しい現実に胸に幸せが込み上げ、胸に顔を寄せぐりぐりと押し付けると顔に当たる髪の毛がくすぐったいのか小さく笑う声が聞こえてくる。
もう少し寝ていたいけれど帰る時間もある、どちらともなく起き上がると支度を整えた。
コルセットは付けずに荷物にこっそりと入れる、メイド達は怒るかもしれないけれどもうあんな苦しいのは嫌なのだ。
仕上げと部屋用のスリッパからヒールの高い靴に履き替え、一歩歩くと力が上手く入らない。
「昨日の疲れと筋肉痛で足が動きませんの。」
「大丈夫か?」
「痛くて、ちょっともう、動けませんの。」
ゆっくりと足に響かないように歩みを進めるが高いヒールが原因なのであまり意味はなく倒れそうになるところをダーリックが膝裏に手を当て抱き上げる。
「これなら靴は履いていられるか?」
「歩かなければ平気ですけれど、出来れば脱いでしまいたいですの。」
「他の者にティフの足を見せたくはない。今日はこうして移動をするから靴は履いていてくれないか?」
「わかりました。」
高いヒールの靴は歩くのが大変だったけれどお陰で今日は抱き上げて運んでくれる、高いヒールの事がちょっと好きになった。
厚い胸元を堪能しながら馬車へとティファニーは運ばれて行く。
話しながら時折り抵抗出来ないのを良い事に仮面から出ている頬に、唇にキスをする、そんな行為に動じずに安定感のある抱き上げは脂肪が無いからこそ出来る所業であり、すれ違う人々はいつもの恐れとは違う感情でダーリックを見る。
好きな相手を信頼し全身を預けるその姿。
昨夜の舞踏会の見事なリフトからのキスは演目でも見ているかのようで、その後見事な王子の歌声を受け自らもと甘く熱い夜を過ごしたペアは多い。
そんな注目の2人が今度は幸せそうに抱き上げ運んでいるのだ、注目しない訳がない。
「ちょっと待ってくださいませ。」
「どうした?」
「昨日王子におすすめした子が居ましたので、一言言っておいた方が良いと思いましたの。」
目が合った。
彼女は目が合うと直ぐに逸らしてしまったけれど、あの金髪に涼やかな容姿は昨日イロスコ王子におすすめしてしまった令嬢に違いない。
彼女の元に向かいたいとダーリックに行くようにお願いすると難を出されるが渋々ながらも向かってくれる。
自分の方に向かっているのだと分かると令嬢は一歩下がり視線を彷徨わせ逃げ道を探すような仕草をするが、そんな事は全く気にしていないティファニーが手を振ると観念して捕食を待つ哀れな小動物のように小さくなり訪れを待つ。
「ご機嫌よう、ちょっと宜しいでしょうか?」
泣きそうな顔でびくりと震える令嬢を見てここに来て可笑しいと思うティファニー、普段凛としている彼女の泣きそうな顔は守り包みたくなるような庇護欲をそそる。
こんな綺麗な子の守りたくなるようなしおらしい一面見てダーリックが心動かされてはいけないと、早く離れる為に要件を手短に話す。
「…………と、言う事でおすすめしてしまいましたの。」
「〜〜〜〜っ!?」
話をするうちに段々と泣きそうな瞳は驚きに見開き、白い肌は赤く染まる。
まるで恋をしているように潤んだ瞳に赤く染まった頬は過去の自分を見ているようで、自分の時は「はしたない」と思えたのに他人だと酷く可愛らしい。
「やっぱりご迷惑」「そんな事ありませんっ!でも、そんな、お話する機会があるかもしれないなんて、どうしましょう」
ただでさえ美人なのにこんなに可愛い面を次々と見せられたらティファニーでさえクラっと来てしまう、ダーリックが見たらどう思うだろうかと恐る恐る顔を見ると仮面越しだけれどはっきりと目が合う。
令嬢の事なんてまるで興味が無いようにティファニーを見つめ、目が合うとやっと見てくれたとばかりに微笑まれ胸をぎゅぅと掴まれるような感覚に陥る。
「ええと、わたくしはおすすめしただけですのでいつ会えるのかも分かりませんので、頑張ってくださいませ。」
嫌がられるかもしれないと心構えはしていたけれど、杞憂に終わりむしろ喜ばれている気がする。
ならば要件は終わりと別れの挨拶をしてさっさと離れた。
このままずっと抱き上げていて欲しいけれど、流石に人1人抱き上げているのは大変だろうと寄り道せずに馬車へ向かう。
ふと乗り込む前に後ろを振り向くと先程まで話していた令嬢の背後から丸々とした大きな姿が近付くのが見える。
昨日の今日で行動が早い、ちょんちょんとダーリックを小突き指を刺すと「彼は目を付けると手が早いからな。」と呆れたように言った。
教会はさすがに抱き上げて運んで貰うには威厳があり過ぎて引け目があり、腕に抱き付くように体重を預けゆっくりと進む。
しんと静まり返り、足音だけが響くほどの人の居なさは教会の神秘性を引き立たせた。
窓口に座っている男性にダーリックが話しかけると男性はいきなりお祈りを初め、好きなだけ祈ったら「何をご所望でしょうか?」と震える声で言葉を発する。
その光景に笑ってはいけないと思いつつも、つい我慢出来なく声を出してティファニーが笑うと男性は驚いたようにティファニーを見た。
結婚の届けを出すというのは思っていたよりもあっさりと終わってしまった、ダーリックが書類を書き、ティファニーがニコニコと提出し、次の作業の指示を仰いだら終わりだという。
次はお揃いの石を選ぶのだと数種類もの石を広げられる、色とりどりの石達は全て加工されておりキラキラとした5ミリほどの小さな丸型になり白いクッションに鎮座する。
「色々と選べるのですね、迷ってしまいますの。」
「これはどうだ?ティフの瞳の色と同じだ。」
小さなピンク色の石、確かに鏡で見た目の色はこんな感じだった気がする。
確かに可愛らしいけれど、自分の色を身につけても嬉しくは無い。
ならばとちょっと色は薄いけれどブラウンの石を指さす。
「ん〜それならわたくしはダーリック様の瞳の色が良いですの。」
それにはダーリックが難色を示す。
2人揃って気にいる石というのはなかなか難しい、けれど一緒に選んでいる時間は楽しく感じる。
他にも石の種類はあるようで、稀少性が高いので値段が貼るという新しい頑丈そうなケースに入れられて並べられた石の中で1つ気になる石。
『これ』
2人の声が合わさった先にはピンクがかったブラウンの石。
ダークブラウンとピンクダイヤが合わさったような2人の色を溶かして混ぜた色は一眼見てしっくりくる、その気持ちは同じで目を合わせると決まった。
この石をそのままにするか加工してアクセサリーにするか、無くさないようにそのまま仕舞う人もアクセサリーにして身につける人も様々だ。
やはり1番人気はピアスだと言われるが、その選択肢は初めから無い。
「ネックレスにするのはどうだ?」
「わたくしもいつも付けていられるようにネックレスが良いと思ってましたの。」
加工方法も決まった。
提示された金額にティファニーは驚くがダーリックはなんて事ないように即決する。
「その、こんなに高くて大丈夫ですの?」
桁が初めに見せて貰った石よりも格段に多い。
買い物をした事がないティファニーだけれどこれが一般の人がなかなか買えない高額な事は直ぐにわかった。
「それは支払い能力が無いみたいで傷つくな、ティフは安心して出来上がるのを待っていれば良い。」
「しばらくダーリック様におねだりするのを我慢しようと思いますの。」
「そもそも今まで金が掛かるものを強請られた記憶が全くないのだが……」
確かにおねだりは物よりもアレをしたいコレをしたいと、行動に関する事が多くお金は使っていないかもしれない。
でも毎日のご飯だったり、専属のメイドだったり、それにドレス。
「ドレスを買っていただいたりとか、お部屋も借りてますし、わたくし何もお返し出来ていませんの。」
「ドレスは勝手に送った物だし、全て未来の可愛い花嫁へなら当然の事だ。」
「ダーリック様……」
キラキラと瞳を輝かせ見つめ合うと目の前で熱い言葉を交わす新婚夫婦に話しを進めたいと、もはや恐れなんてない男性は咳払いをする。
ネックレスの土台やチェーン、石の最終確認をすると小切手に金額を記入し出来上がるのを待つ。
教会に訪れる者達が2人を視野に入れてはあまりにも極端なカップルに驚くがそんな事は全く気付かずに2人の世界に浸っていた。
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