31話 やっと会えましたの
ティファニーはおそらくダーリックが泊まっているだろうと思われる部屋の前にいた。
ここまで長かった。
やっとの事でこの辺りに泊まっているのは聞いたものの詳しい部屋はさすがにわからない。
一部屋一部屋コンコンと扉を鳴らし、出てきて驚いた顔をされてはひたすらダーリックの居場所を聞いて居場所を特定して行く。
コンコン、とノックを鳴らす。
ドキドキしながら反応を待っていると「誰だ。」と聞き慣れた低い声。
間違いない、扉に手をかけ早く会いたい一心で一気に開くとゴンッと音がし何かがぶつかってる物音がした。
気にせずもう一度開けると愛おしい姿が目に入り抱き付くと驚いたように名前を呼ばれる。
「やっと会えましたっ!」
「何故ここにいるのだ?」
信じられないとでも言いたげな表情。
「1人は寂しくて皆にダーリック様の部屋を知らないか聞いて来てしまいました、それよりダーリック様おでこはどうされましたの?」
「これは……今誰がノックしたのかと覗き窓から見ようとしたら、空いた扉にぶつかったのだ。」
片手に仮面を持っていた。
きっと仮面を外し、覗き窓を覗こうとした時にちょうど扉を開けてしまったのだろう。
高い鼻に当たらなくて良かった……けれど代わりに赤くなってしまった額は痛々しい。
痛みを知っているからこそティファニーは罪悪感に苛まれ血の気が引く。
「…………。」
「大丈夫だ。痛くない訳ではないが今までティフにぶつけてしまったのが返ってきただけだ。」
真っ青になってしまったティファニーを安心させるように微笑み額に手を当て痛くないと言うように触る。
「そんな、わたくしは知っています。ぶつけるのは凄く痛くて泣きそうになりますの。どうしましょう、お医者様を呼ばなくては……」
「大丈夫だ、ティフの顔を見たら痛み等無くなってしまった。」
正直このくらいの痛みなら平気である、それよりも額が赤くなっている事の方が恥ずかしい。
「本当ですの?」
尚も心配そうに額を見つめる視線に耐えきれずに仮面を被ろうとすると、それは許さないとばかりにティファニーは仮面へと手を伸ばす。
本当に大丈夫だと宥め、頭を撫でると途端に気持ち良さそうに目を細めた。
「ダーリック様に痛い思いをさせてしまって申し訳ありませんが、わたくしも今日はここに泊まりたいですの。寝るのはソファーでも、邪魔になるならクローゼットでも良いので追い出さないでくださいませ。」
「ソファーにクローゼットって、そんな場所に寝かせる訳ないだろう。ティフはベッドに寝ると良い、私がソファーで寝よう。」
その提案にダーリックはソファーやクローゼットで寝るという選択肢に驚き、ティファニーはすんなりと止まる事が許され更に自分がソファーで寝ると言い出した事に驚いた。
「ソファーにダーリックさまの身体では小さ過ぎますの、だから……あら、このハンカチ、連れて来てくださったのですね。」
ソファーでは寝かせられないと、説き伏せようとした時にテーブルの上にあるハンカチに気付く。
綺麗に畳まれたそれはティファニーが自分を小さく模して刺繍したハンカチ。
「それは、まぁ、持っているといつでもティフと一緒にいるような気持ちになるからな。」
「ではダーリック様も一緒にいたかったのですね。」
離れていても肌身離さず持って、思ってくれていたことにティファニーは嬉しく思う。
一緒が良いならベッドも一緒でも良いのではないか、そう口を開こうとした途端に勢いよく扉が開かれた。
「大変だ!我が友よ!ティファニー嬢の部屋に侵入者が入り行方不明……」
相変わらず豊満な肉体を弾ませながら息を切らして扉を開くのはイロスコ王子。
勢いよく開けられた扉は激しい音を立てて壁にぶつかりかなりの音が響く、もし当たったのがあの扉だったらと考えると2人は共に視線を合わせ冷や汗をかく。
「わたくしならここに居ますの。」
呼ばれた気がすると返事をしてみれば信じられないようで何度も2人を交互に見ては首を横に傾げる。
相当焦って来てくれたのだろうか、まだ息が整わず流れた汗は首が埋もれるほどの肉の上を通り床へと落ちその光景にティファニーはゾワゾワとしか不快感を覚えた。
「おかしいな、メイドは確かに送り届けたと言っていたのだが。」
「はい、その後に寂しくなってダーリック様に会いに来ましたの。」
「もしかして1人で来たのか?使用人に連れて来てもらった訳ではないのか?」
なんて事ない事情説明だと解説すると驚いた声をあげたのはダーリック。
まさか1人で来ていたとは、てっきり使用人にでも案内されて来たのだと思っていた。
「えぇ、皆に聞いて、詳しいお部屋はわからなかったので一部屋一部屋聞いて周りましたの。」
「何かあったらどうするんだ。」
ここは男性しか泊まっていない場所である。
そんな中にティファニーの様な可愛らしく無防備な娘が来たらどうなるか、ほとんどは良心的な対応や放って置かれるだろうが無体を働かれるかもしれない。
そうなれば吹けば飛ぶような抵抗力しか持たないティファニーは逃げられはしない。
「とりあえず無事で良かった。犯人は会場で見たティファニー嬢に惚れて、我が友ダーリックから開放してあげようと窓から侵入したものの、着地に失敗して尾骶骨骨折して今は医務室にいる。この案件はこっちで処理しようと思のだが良いだろうか?」
「頼もう。」
硬い声でダーリックは答えると、イロスコはその答えに神妙に頷くと顎肉に顔は埋まる。
何だかよろしくない雰囲気にティファニーはダーリックをツンツンと突き、小さな声で問いかける。
「びていこつって何ですの?」
「お尻の間にある骨の事だ。」
お尻の間と聞いて自分のお尻を触り出すティファニーの手を掴み大人しくさせると、その光景を見てイロスコ王子は気が抜けた様に笑い出す。
「何もなくて良かった。1人で出て男性が泊まる場所へ行くのはいただけないけれど今回は素晴らしい回避であった。ティファニー嬢の荷物は全部こちらの部屋に送るように指示をしておくから最後の結婚前夜を満喫すると良い。」
「恩に着る、今日初めてイロスコ王子の友で良かったと思えた。」
「それは酷いな、僕はこんなにも想っているのに。跡取りでなければ是非引き入れたい人材であった。それにしても結婚か、そろそろ僕も1人の最愛の妻と世帯を持つのも良いかもしれないな。可愛らしい子供に囲まれて隣には最愛の妻。おすすめの女性が居たら是非紹介してくれたまえ。」
「私にそれを聞くのか?」
その言葉に戯けた様に笑い、両手を上げ悪意がない事を示す。
おすすめの令嬢、その言葉にティファニーは舞踏会で話した令嬢を思い出す。
話していて楽しかったし、何より綺麗な子だった。
「今日わたくしがお友達になった子で、とびきりの美人の子がおすすめですのっ。」
名前を教えると知っている娘だったのか、イロスコ王子は有り余る顎に手を当て考える仕草をする。
考える時間が掛かれば掛かるほど指は顎肉に深く沈む。
「あの大人しい令嬢か……ふむ、今まで寄ってくる子ばかりと交流を深めていたが、たまにはこちらから行くのも悪くない。」
「あっ、でも彼女は王子の事が好きになるかはわからないのでお手柔らかお願いしたいですの。」
はて、あの子は大人しいタイプだっただろうか、もしかすると苦手だから遠巻きに見ていたのかもしれない。
その可能性は充分あるとティファニーは彼女を売ってしまった事に罪悪感を覚えた。
「逃げる乙女の心を掴みたい愛の狩人、良いではないか!ハッハッハ!」
大きなイロスコ王子の声が辺りに響いた。




