30話 久しぶりですの
遅い時間に開かれる舞踏会はそのまま帰る人もいれば、泊まり明日帰る人もいる。
いつもならダーリックはその日のうちに帰るが今回はティファニーがいた為に、疲れた身体に無理はさせないように泊まる事にした。
「わたくしダーリック様と同じ部屋が良いですの。」
「まだ籍を入れた訳ではないからな、今日は別々の部屋にしよう。場所は離れているがティフの部屋は令嬢達が泊まる部屋ばかりだから安全だ。」
個別で泊まる場合は間違いがあってはならないように性別でフロアが分けており、異性が歩いて居るだけで周りの印象に残り悪さが出来ないようになっている。
それでも忍び込む者はいるが、分ける前よりは相当減っているのだ。
もしも異性の部屋へちゃんとした用事がある場合は使用人に付き添いを頼み一緒に行くと言うのが暗黙の了解になっいてた。
「でも……」
まだ甘い余韻に浸っておりここで別れるのは寂しい、まだ一緒に居たい。
それに一緒の部屋だと湯上がりで水の滴るセクシーな姿が見られかもしれない、そんな自己的な欲求を満たせない事にも不満を抱く。
「案内係が待っている、これ以上待たせては可哀想だ。」
ちらりと後ろを伺うとかなり離れた所に1人のメイドが待機していた。
どこかソワソワと落ち着かない様子の彼女は確かに何処か不安気で怯えがあるように見え、他にも仕事があるのに待っていてくれているのかもしれないと思うとこれ以上待たせるのは確かに悪い。
「では、わたくしお部屋に行きますの。」
一度硬い身体に抱きつくと名残り惜しげに離れメイドに付いて部屋まで案内してもらう。
後ろを振り返るとまだ見守ってくれているようで、嬉しくなり手を振ると小さく振り返してくれた。
今日泊まる部屋だと案内され、何かあれば呼ぶようにと言うとメイドは頭を下げると仕事へと戻って行く。
1人ポツンと取り残された部屋。
実家ではいつも1人だったのに、今はなんだかとても寂しい。
窓を開けると歌声が聞こえてきてまだ王子が歌っているのかと発声元を探すと今度は違う人が歌っていた。
舞踏会というのは任意で歌いたい人が歌う物らしい、初めて知った。
ぼんやりと景色を眺めるとちょうど先程までいた庭園が見え、プロポーズで渡された指輪にキスを落とし唇で食む。
やっぱり1人部屋は寂しい。
寝るのもソファーで良い、なんならクローゼットの中でずっと大人しくして居ないものとしているから一緒の部屋が良いとお願いしに行こう。
そうと決まれば扉を開けて部屋を飛び出す。
何かあれば呼ぶようにと言ったメイドはどう呼べば良いのだろうか、ガランとして誰もいない通路を元来た道を考えながら戻る。
女性の声がする方に向かえば誰か居てダーリックの部屋を聞けるだろう。
男性は駄目だ、なんとなく、本当に何となくだが嫌な気がする。見た目とか。
町に行った時は確かにふっくらした男性は居たけれど細い方もいて、色々な姿の人が居て特に何も思わなかったけれどこの城の男性はとにかく肥えている。
廊下ですれ違う度に熱気を感じ手を取り踊る姿は直ぐに息が切れダラダラと汗を垂らす。
臭い物には蓋をと言う事でなるべく見ないようにしてダーリックだけを視界に入れていたが1人っきりの今は近寄るのも話しかけるのも怖い。
女の子、女の子、と出来れば可愛い子が良いと高望みをしていると綺麗に着飾っている可愛らしい令嬢が2人仲良さそうに話す姿を見つける。
「ちょっとお聞きしたい事がありますの。」と声をかけると2人とも振り返りハッとした表情の後に淑女の礼をされる。
キラキラとした瞳で何事かと聞かれるので、ダーリックの名前を出すと途端に表情が曇り初め何処か怯えた様な雰囲気を醸し出す。
居場所を聞いてもわからないの一点張りで早く会話を終わらせたいと言うのがひしひしと伝わってくるのでお礼を言いティファニーは後にした。
その後も出会う令嬢、出会う令嬢皆に同じ様に聞くが同じ様な反応をされるのでティファニーは頭を捻り出した結論は嫉妬。
あんなゲテモノパラダイスの中にダーリックの様な見目麗しい男性が居たら誰しもが見惚れお近付きになりたい、と思うのは当然だろう。
それにあまり舞踏会には出ないと言っていた、そんな彼が久しぶりに舞踏会へ降臨したら隣には知らない女。
これは良い印象は持たれない。
しかしティファニーはもうダーリックにプロポーズされ受けたのだ、指に光る指輪を得意げに見つめフフンと鼻を鳴らすと上機嫌に歩き出す。
「ティファニー?」
高い女性の声に久しぶりに聞く懐かしさを感じる。
声の聞こえた方へ向くとキツめの美しい顔立ちにティファニーよりも濃い金髪をした義姉が佇んでいた。
シルバーの身体のラインがわかるドレスを着ており、ティファニーが持たされたやたらと露出度が多いセクシーなドレスは義姉の物だったのだろうかと考える。
「お義姉様……お久しぶりです。」
「直ぐに逃げ帰ってくるかと思えば伯爵夫人だなんて随分としたたかで図太い子だったのね。」
面白く無さそうにティファニーを上から下までジロリと見つめる。
いつもはヴェール越しに見られていた物が直接見られるのはなんだか居心地が悪く早く立ち去りたい。
「わたくし今愛されていてとても幸せですの。お義姉様に聞きたい事があるのですが……」
「そんな事より私宛に刺繍したハンカチを送りなさい。後でデザインも送るから。」
ダーリックの居場所を知っているかだけ聞いて去ろうと思ったのだが、頼まれごとをされてしまった。
しかし前のように時間を持て余してはもういない。
最近は今日の為にダンスの練習にドレスを仕立てにあれやこれやと忙しかったのだ。
これ程は忙しくならなくても可愛い花嫁さんになると決まった以上何があるかはわからない。
「刺繍は以前ほどしていませんし、時間も割けないので難しいと思いますの。」
「どうせ今でも穀潰しをしてるのでしょう?なら良いじゃない。」
穀潰し、確かに何もしていない。
その通りである、屋敷の人にしてみたらいきなり押し掛けて主人を誘惑してまんまと手中に収めた悪女と思われていても仕方がないではないか。
雷に撃たれたような衝撃が走る。
「とにかく、送りなさい。良いわね。」
早口で捲し立てると途端に柔和で媚びるような笑みを浮かべしなりを作り歩み出す。
歩いた先にはこれはまたご立派な腹部をされた男性。
「やぁ、そちらは話題のお嬢さんではないか、君の知り合いだったのか。」
「え、えぇ、そうなの。」
気まずそうに視線を彷徨わせる姿に、逃げるなら今だとティファニーの危機回避能力は働く。
「お義姉様やっぱり申し訳ありませんが刺繍は送れませんの。では急いでいるので失礼致します。」
「刺繍……?」
その言葉に訝しげに男性は義姉を見る。
「なっ、何でもありませんわ。」
「もしかしてこの前のハンカチって……」
「あ、聞きたい事がありますの。ダーリック・バルベル様の泊まる部屋はご存知でしょうか?」
何か押し問答が始まる気がする。
男性なら知っているのではないか、1人では話しかけたくはないから聞くなら今しかないと話しかけると希望通りのの答え。
ついに会えると足速にその場を後にした。
後ろから「君への愛は刺繍一つで変わる訳がないだろう」「私なんて美貌しか取り柄がないのに……」「その取り柄に僕は夢中さ……」「そんな、こんなところで駄目ですっ、あぁっ」とか聞こえて来るので2人のラブロマンスが始まったのだろう、さっさと逃げて正解だったとティファニーは足早にその場を後にした。




