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27話 可愛い婚約者、ですの

ティファニーは頭に血を登らせ、ダンスに誘おうとする令息に気付かず無視して足を進ませる。

目的地へと一直線で進むと話しをしていたダーリックも気付いたようで話しを中断し、ティファニーへと向き直るがその手に持つ紫の色をした液体が入ったグラスに目を止めた。

すぐにワインだと気づき取り上げるとティファニーも奪い返すように手を伸ばすので届かないように更に腕を上げる。


「それはわたくしのです、返してくださいませっ。」


「酒は飲まないようにと言ってあっただろう。」


「あ〜〜〜っ」


尚も酒を取り返そうと背伸びをするティファニーを押し留めワインを一気に煽る。

ゴクリと鳴る喉仏はセクシーで思わずときめくが、無くなってしまったワインにがっくりと肩を落とす。


「わたくしのでしたのに酷いですの。」


正確には怯えていただけで全く使っていない色目を使う泥棒猫を撃退する用のワインだったのに、無くなってしまった。

どさくさに紛れ相手も居なくなっていたので撃退には成功しているが、せめてもと腕を絡め頭を預けると撫でられ機嫌は少し治る。


「迎えに行くのが遅くなってしまったな。」


「色々お話も出来て楽しい時間でした、ご用は終わりましたの?」


「そうだな、もう良いだろう。」


「ではそろそろ……」


「やあやあ久しぶりじゃないか、我が友ダーリックよ!」


大きな声と共に現れたのは横に大きな身体。

ピンクの髪にぶるんぶるんと揺れる顔やら腹部は揺れるにも重力に負けない様に丸い形状に戻り大きな揺れを繰り返す。

はちきれんばかりに肉付きの良い顔には瞼も睫毛も埋もれる程の肉が付き、チラチラと肉の奥のアクアマリンの瞳が時折見える。

ぞわりと鳥肌が立つ様なその見た目にティファニーは遥か昔感じた事のある嫌悪感が走るのを感じた。


「あぁ、久しぶりだな。」


「素っ気ない態度を受けるのも久しぶりだ。隣の美しいお嬢さんは誰なんだい?是非紹介してくれたまえ。」


そう言うとまずは自己紹介からと自分はこの国の第3王子でもうすぐ継承権を放棄して領地を受ける事やら、好きな言葉は愛と勇気やら、スリーサイズやら話し始める。

そして時折上がる歓声に手を振り、分厚いぶるんぶるんな唇でちゅばちゅば投げキッスをして歓喜の声を上げて倒れた令嬢が運ばれる。

あまりにも濃過ぎる空間に名前を言われたと思うのだけれど、ティファニーの耳を右から左へと抜けて行った。


いったいいつ終わるのだろうかと、飽きて早く踊りたいティファニーはダーリックの手のひらを揉み始める。

令嬢達が第3王子に見惚れるようにダーリックも大人しく視線を外さずに聞いているのだ、おもしろくない。

指先は硬いが親指の付け根は柔らかくフニフニしており揉むと気持ちが良い、少し乾燥気味なので帰ったらクリームを塗ろうと計画を立てる。

すると揉まれている事に気付いたように視線を向けるので、やっと気付いてくれた嬉しさにとびきりの笑顔を見せると帰ってくる安心したような微笑み。

口元しか見えないけれどきっと仮面の奥の大きな瞳も柔らかく微笑んでいるのだろう、見たくなり仮面に手を伸ばすがその手を掴まれたので不満気に頬を膨らませる。

そんな2人にやっと話が終わったのか第3王子は咳払いをすると両腕を広げ口を開く。


「すっかり自分の話しをし過ぎてしまった!改めて紹介をしてくれたまえ!!」


たっぷり話したからか先程よりも更に声の通りが良くなり辺りに響く。

話が終わってしまった事に令嬢達は残念がるも未だたっぷりとした肉に包容力を漂わせながら佇む姿に、夢見心地のようなうっとりとした表情を浮かべる。

会場の注目一身に受ける状態が第3王子のせいで出来てしまい、ダーリック、ティファニー共に緊張が走る。

「さぁどうぞ」と言うように指先まで優雅に肉が付いた手を差し出されるといよいよ次はこちらのターン。


「彼女は私の婚約者の」


緊張で喉が渇く思いをしながらもダーリックが言葉を紡ぐと、袖を引かれ首を振るティファニー。

今まで拒む事なんて無かったのに此処で拒むのかと瞬時に思いが浮かび悲観しそうになるも口を突いて出たのはあまりにも突拍子もない、けれどティファニーらしい、しかし結果的にはかなり恥ずかしい言葉。


「可愛い婚約者ですの。」


「ちょっと待ってくれ、可愛いは今必要ないだろう。」


「可愛くありませんの?」


「可愛いが……」


「では可愛い婚約者にしてくださいませ。」


静まり返る中初まる問答に第3王子が小刻みに振動し初める。


「………彼女は私の、か、可愛い婚約者のティファニー」


「可愛いティファニーですの。」


「………可愛いが2つあるのはおかしくないか?」


「それくらいダーリック様に可愛いと思われたいので、おかしくはありませんの。」


「………わかった、彼女は私の可愛い婚約者の、可愛いティファニー…」


「っくく、ぷっあ〜もう無理、はっはっはっ。そうか、そうか、そういう力関係なんだな。ふふっ、実に良いものを見せて貰ったよ。」


笑う度に贅肉バイブレーションを響かせる姿に夢見る令嬢達は頬を赤らめ憧れの眼差しで見つめ、肉欲持て余す令嬢達は涎を垂らさんばかりに凝視し恍惚に浸る。

ティファニーは笑うだけでこんなに肉が揺れるものなのかと人体の不思議として食い入るように見つめるが、段々と見るのが辛くなり愛しの婚約者の後ろに隠れた。


「恥ずかしそうに隠れてしまってなんと可愛らしい、我が友の婚約者でなければ本気を出してしまいそうだ、後で一曲踊ろうではないか。」


「良かったな。イロスコ様が踊ってくださるそうだ。」


名前はイロスコというらしい、今度こそティファニーは覚えた。

しかし踊る?あのぶるんぶるんした肉体を触る、手をとり……一気に冷や汗をかき鳥肌が立つのを感じる。


「今日はもう疲れてしまったのでダーリック様と以外は足を踏んでしまいそうで、ちょっと……」


「本当に良いのか?私とはまた踊れるが彼、素敵な方とは次にいつ踊れるかわからない。」


その発言にティファニーは衝撃を受ける。

あれが素敵?今までは見た目も中身も素敵な人だと思っていたダーリックの欠点を見つけてしまった。

男の趣味が悪い。しかもすこぶるだ。

別に男の趣味が悪くても普段何かある訳ではないが今は大問題である。


「わたくしが素敵な方だと思えたのはダーリック様だけですの。」


「いや、しかし。」


「信じてくださいませんの?」


目を見て本心を告げると信じられないと言うように狼狽える。

煮え切らない態度を取る事にやきもきし、ティファニーが口を開こうとするよりも早く発言するのはイロスコ王子。


「これは誘惑しようとも入る余地がないくらい愛されているじゃないか、我が友にもついに春が来たのだ。さぁ僕に自慢をしてくれたまえ!」


笑顔…だと思われる頬の肉が上に持ち上がった表情のまま近づいて来る肉塊を恐ろしく感じ、ティファニーはダーリックの手を取る。


「わたくし早く踊りに行きたいですの。」


「肉体言語か、良いではないか!はっはっはっ!!」


イロスコ王子の大きな声で送り出されるように向かう先は数名の男女が手を取り合い踊る憧れの場所。

また何か語り出したイロスコ王子に周りの者は夢中になる、今ならこの注目され過ぎたまま踊らなければいけない状況を回避出来るとティファニーはダーリックの大きな手を引き歩みだす。


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