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23話 お菓子作りリベンジですの

普段なら必要最低限で回される調理場は、調理人の他にもこっそりと見物に来ている者達によりざわついていた。

ある日突然やって来たヴェールを被り素顔を隠した婚約者が顔を晒し何やら作っていると聞き見物に来たのだ。

その姿を見た者がこぞってあり得ないほどに美しい、可憐な妖精が人間界で遊び羽を落とし帰れなくなったのか、大輪の花達が背後に咲き誇る幻想が見える、動く絵画でも見ているかの様だ、卵を割ったら五つ子だった時の嬉しさが味わえる、と一様に捲し立てるので話題の的になっていた。

残念ながらその婚約者は調理場の隅の方で背中を向けており素顔は見えないが、いつかこちらを向くのではないかとその瞬間を今か今かと皆待ちわびていた。



そんな事は気にせず噂の婚約者、ティファニーはひたすら細い腕でボウルを泡立て、休み、泡立てようとしてる。

町で聞いたパウンドケーキの作り方を披露する時が来た。

自信満々で食べさせたクッキーがただの炭だと知った時のショックは相当な物だった。

それと同時に言葉を選んで「香ばしい」と評価してくれた事に優しさを感じ、どんどんと好感度は上昇するばかりだ。

今日は3時に一緒にお茶を飲む約束をしているのでそれまでには完成させたいと手を動かすと、ふと後ろが騒ついている事に気付く。

パウンドケーキを作り初める時に何度も「手を貸しましょうか?」、「オーブンを使う時は絶対に声をかけてください。」と口酸っぱく言われたのだ、料理人達が何も起きないか見てくれてるのかもしれない。

昨日紅茶を貰いに来た時だって皆あんぐりと口を開け動きが止まったので、改めて自己紹介したら色々と用意してくれたのだ。

皆優しくて良い人ばかり、そう思い大丈夫だと告げようと後ろを振り返ると顔、顔、顔、皆一様にこちらを見ていた。


『わぁ〜っ!』


「ひゃっ」


多くの瞳がこちらを向き一斉に声を上げた事に驚き恐怖し、小さく悲鳴をあげ作業台の奥に隠れる。

チラリと作業台から顔を出すとまた歓声が上がり、どうやら目当ては自分だと自覚をした。

先程顔を晒し紹介してもらいはしたが短い時間だった為にもっと良く見に来たのかもしれない。

意を決して立ち上がり、にこりと微笑むと湧き上がる感嘆のため息。

悲鳴を上げて隠れてしまった為に威厳も何も無いが、気にしないようにとパウンドケーキの工程を進める。

町で食べたのにはドライフルーツが入っており、甘さと食感が良かった。

同じ物を作って美味しいのは当たり前だけどそれではあの女性の味になってしまう、少しでもオリジナリティーを出す為にドライフルーツを少な目にし、くるみとアーモンドをざく切りにして入れる事にする。

後は焼くだけ、オーブンは前回立派な炭を作ってしまった為に禁止令が出ているので任せる事にする。

まだ騒つく後ろを振り返るのは少し怖いがこれからも仲良くやっていく為には受け入れられなければいけない。

パウンドケーキが出来上がるまでの時間、少しくらいお喋りするのも良いかもしれないと思いながらゆっくりと振り返る。


パウンドケーキが出来上がるまでのちょっとしたお喋りの時間。

じーっとこちらを眺めていたメイド達に声をかければあっと言う間にテーブルと椅子に紅茶まで用意されてしまった。

大人数での会話に慣れないティファニーは聞き役か、空気に徹してちょっとずつ慣れていこうと思い声をかけたのだがまるで主催者のように祭り上げられ、椅子をひかれ、さぁどうぞと1人だけ座るように促される。

逃げられない空気におずおずと座るとキラキラとした瞳達に見つめられとても気まずい。


沈黙。


これは自分が発言しなければ他の人達も口を開かないのではないか、せめて見知ったアニーがいてくれたら。

こんなに女の子がいるのだ、適当に話題を振れば話しは弾むはずだと思いどうせなら自分の利益になる話題を思案する。


「皆様はここに長く勤めているのかしら?」


やっと発した言葉にメイド達は皆嬉しそうに経歴を紹介していく、当然だがティファニーよりも長く居る人しかいない。


「わたくしより長く居る皆様に是非お聞きしたい事がありますの。是非今までのダーリック様のお話を教えてくださいませ。」


きっとこれでこの会はまだティファニーが聞いたことのないダーリックの話題で持ちきりになるはず。

そう心の中でほくそ笑むが、キラキラと目を輝かせていたメイドの笑みは一瞬でひくつくような笑みに変わる。


「今までの旦那様……ですか、旦那様はあまり人前に出たがらないので私達も何とも……」

「そうですね、今日の集会で初めて目にしたというメイドも居たくらいなので……」


口々発するのは知らないという情報ばかり。

雇い主でこの屋敷の主人で同じ屋根の下にいるのだ、全く知らないなんて事は信じられない。


「何かありませんの?趣味や好きな物でしたり、こだわりやお気に入りの服や素敵なエピソードとか……」


メイド達はお互い顔を見合わせなんとか話題を出そうとしているが本当に浮かばないのか慌てていると1人のメイドが口を開く。


「そういえば学生時代に兄が同級生だったのですが、座学も実技も全て非常に優秀な成績を収めていたと聞いた事があります。」

「それなら私も聞いた事があります!とても優秀だけれど表彰や代表になる時は必ず選ばれないように調節するって……謙虚な方だったと………」

「まぁっ、さすがダーリック様ですわ。素晴らしい才能をお待ちでありながら謙虚さを忘れないなんて素敵です、是非一緒に学生時代を過ごしてみたいですの。」


待ち望んだ情報、こういうのが聞きたかったのだ。

座学も実技も何をするかはさっぱりわからないが優秀だったなんて流石である、見た目も性格も良いのに優秀さまで与えるなんて神はダーリックにどれだけを与えたのだろうかとティファニーは感心してしまう。

次の情報を期待してメイド達を見ると皆視線を逸らされてしまった。


「えぇと、この前洗濯を干す時に偶然通路を通るのを見たのですが、とても恐ろしかっ……何でもありませんっ。」

「恐ろしい……?そんな事ありませんわ、ダーリック様はとてもお優しいんですの。」


聞き捨てならない誤解された情報は正さないといけない。


「わたくしが重い椅子を運べない時は運んでくださいましたし、甘い物が食べたい時は直ぐに作らせてくださいました。モモの汁を垂らしてしまった時なんてハンカチを貸してくださったの。本当にお優しくて素敵な方……」


思い出しうっとりと頬を染めるとその姿に見惚れる者、理解が出来ないと首を傾げる者、様々な反応を見せる。

その中で勤めている歴が長いと紹介をされた生真面目そうなメイドが神妙な面持ちで口を開いた。


「それはティファニー様程の美貌があるからです、悪く言う気はありませんが普段の旦那様は滅多に人前に出ずに見かけても威圧感を放つばかりで私達にはとても近づけません。」


メイド達が同意するように頷き気まずそうに曖昧に笑みを浮かべ口々に「恐ろしい」「なるべく出会わないようにしたい」と否定的な言葉を募らせていく。


「あら先程のは全て顔を隠している時の話しですの。お願いすると叶えてくださいますし。人前に出ないのはきっと人見知りなのですわ、最近2人きりの時は仮面を外してくださるようになったのですけど赤くなった顔がとても可愛らしいの。」


ティファニーにとってダーリックは優しかった記憶しかない、1番初めは顔を見て動けなくなってしまったティファニーが悪く怒らせてしまったが、次に会った時は炭同然のクッキーを食べてエスコートまでしてくれたのだ。

それに仮面をつけていた時は表情が分からなかったが、外してみると穏やかでいつもティファニーを気遣ってくれる。

あまり笑わないけれど、心配そうにしたり、しょげてる姿はとても可愛いくていつも抱き締めたくなる感情が湧き上がる。


「ティファニー様は旦那様の姿が恐ろしくはないのですか?」

「恐ろしい?そうですね、恐ろしく素敵で一目見た瞬間から虜になってしまいましたの。」


あんなに素敵な方なのに恐れているなんてもったいない、この会う度に高揚する胸の高鳴りを皆にも分けてあげたいと思いふと気付く。

もしも皆がダーリックの虜になってしまったら、会う度にメイドを引き連れて来たら、ティファニーには耐えられない。


「あっ、駄目ですの!ダーリック様はわたくしの婚約者なので皆様は近付かないでくださいませっ」


素敵なダーリックを語りたいが皆に好きになられては困る、他の誰にも譲る気もなければ貸す気もない。

突然ティファニーが声を荒げたところでパウンドケーキの焼き上がりを知らされ、この集まりはお開きになる。

メイド達の間では「ティファニー様に旦那様に通じる話題を振るととても理解出来ない事をされる。」という教えが広まった。

お読みいただきありがとうございました。

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