22話 皆へ紹介されましたの
もう朝食は無駄に用意はさせない。
その思いで朝は必ず起こしてもらうようにメイドのアニーに頼んで眠り、気持ちの良い目覚め。
連続で朝食に出た事に驚くダーリックにこれからは毎日朝食に出る事と、使用人達に顔を出した事を紹介して欲しい事をお願いした。
紹介する事……というよりも何故かダーリックが人前に立つ事の方が渋られたのだが、なんとか了承を取ると食事を終える。
「今日は15時にお茶をご一緒しませんか?わたくしそれまではやりたい事がありますの。」
「構わないが、何をするのだ?」
「ふふっ、秘密ですの。楽しみにしててくださいませ。」
昨日の休憩をしれっと一緒にティータイムをする時間にすげ替える。
休憩だと一緒に何かしていないと取りづらいがただのティータイムを一緒にするなら、一緒に取る時間として恒例になっても良いはずだ。
昨日は膝枕をお願いしてかなり寝てしまい、何もしていない自分がたっぷり休憩をしてしまった事への罪悪感があるので今日は日頃のお返しを計画していた。
「皆への紹介はいつが良い、やりたい事があるなら後日にするか?」
「そうですね……直ぐに終わるなら早い方が良いですの。」
「では昼食前に人を集めよう、その時に手短に紹介をする。それで良いか?」
「完璧です。これで何不自由なく過ごせますの。」
顔を出す様になったからには屋敷の探険をしてみたい、それにダーリックに会うのだって毎回約束して会うだけではなく探しに行きたい。
皆に紹介してもらって、秘密の作戦を企むティータイムはとっても楽しみで今日の予定を考えると自然と頬が上がる。
昼には少し早い時間、誰1人無駄口を叩く事なくしんと鎮まり集まる使用人達。
突然この屋敷の主人から集まるようにと指示が出され、皆困惑していた。
主人はその風貌からあまり人前には出たがらない、舞踏会や社交会はもちろんの事で、この屋敷で働く使用人に対しても同じであった。
それなのに異例の集会が開かれた、主人自らが話しがあるのか、姿を見なければいけないのかとメイド達の怯えようはそれは酷く、皆気を使い怯える者はなるべく姿を見なくて良いように後ろの方へと立たせている。
はじまって欲しくないが早く終わって欲しい、そんな複雑な気持ちを抱えていると響く足音は主人の到着を知らせる。
一同主人の到着に背筋が伸び、現れた姿にメイド達は悲鳴を飲み込む。
「それぞれ日々の業務ご苦労であった。いきなり呼び出したのは先日から会っている者もいるとは思うが、改めて紹介をしよう、ティファニー。」
久しぶりにちゃんと名前で呼ばれてドキリと胸が鳴る、これから挨拶をしようとただでさえドキドキしているのにこんな不意打ちはズルい。
きっと顔が赤いに違いない、初めて見せる時は優雅に微笑み威厳たっぷりにダーリックの婚約者だと名乗ろうとしていたのに。
背後に隠れなかなか出て来ようとしないティファニーを心配し、もう一度低く小さく名前を呼ぶと今度こそビクリと反応はするが出ては来ない。
何かあったのではないかと一歩横にずれ、背後のティファニーの背を軽く押し前へ出すと度々目にする『はしたない顔』。
まさかそんな事になっているとは、ダーリックは驚いたが、使用人達は更に驚いた。
今までヴェールを被り歩いてた女人が美しい少女だったのだ。
ふわふわとした色の薄い金色の煌びやかな髪に真っ白い肌は恥じらっているのか桃色に染まっており、潤んだ大きな瞳はピンクダイヤに輝く。
その瞬間驚き見惚れて言葉を失う使用人、この瞬間だけは誰もダーリックの事を恐れている者は居なかった。
「ええと、ティファニー・メイラです。ダーリック様の婚約者です。顔を出しては初めてですね、宜しくお願いいたしますの。」
はにかみそっとドレスの裾を摘みカーテシーをすると、その可愛らしい外見に照れた様子も加わり皆が惚け見惚れる。
見惚れるという事はなんの反応もない、ただでさえ恥ずかしい姿を晒してしまったのだ、すぐさまダーリックの背後へと戻ろうとするが、阻止される。
「何故そんな顔をしているのだ。先程までは何ともなかっただろう。」
「それは……ダーリック様のせいです。」
「私の?」
「いつもはティフって呼ぶのにティファニーって呼ぶんですもの。」
「すまなかった、嫌だったか?」
「いいえ、ドキドキしました。また呼んで欲しいですの。」
恥じらうように両手をお尻で交差させもじもじと肩を揺らす、上目遣いでちらりと見上げられるとあまりの可愛いさに身体に酸素が行き渡らないよいような感覚がしダーリックは大きく深呼吸をする。
「駄目ですの?」
「駄目ではない。」
名前を呼ぶだけでこんなに可愛らしい姿が見られるなら何度でも囁こうと、つい少し熱が篭った声で答えるとその2人の親密な雰囲気に使用人達は戸惑った。
今自分達は何を見せられているのだ?
ある者は長年仕えていた主人の今までに見たこともないような一面に驚き。
またある者は滅多に見かける事はないが見かけるたびに恐ろしく、目に止まれば気分次第でどんな折檻が待っているかわからない冷酷非道な人物だと思っていた主人の暖かい一面を見てしまった事に驚く。
しかもその相手が今まで見た事もないような美しい少女なのだ、メイドの中には貴族の娘で行儀見習いの為に働いている者もいるがこのような美しい子は舞踏会へと着飾り磨き上げられた令嬢の中でもなかなか見る事がない。
呼んだ使用人を放っておき2人だけの世界から帰ってきたダーリックは一つ咳払いをすると話しは以上だと解散を告げた。
その後屋敷はこの2人の話題で持ちきりになり、急な呼び出しの為に出られなかった使用人達はその話しを聞いたが中々信じる事が出来なかった。
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