20話 今日からはちゃんと朝起きますの
昨日はダーリックが急におかしくなった。
真っ青になり強張る表情。
その後すぐに医者が来たのだが初めてバルベル家に来たというその女医は主人の事も診て欲しいという願いは叶えてくれなかった。
ベッドに入るも寝付けなく、気付けば日は登る。
朝になればお腹は減ると身体が覚えているようで、まだこの家に来てから数度しか出ていない朝食へと向かう。
途中すれ違う者たちが驚いたように見てくるが、今まで顔を隠していた婚約者の顔が突然出ている事に驚いたのだろう。
知らない人が潜り込んでいると勘違いされないように、挨拶をして声で自分はティファニーだと判断をしてもらう事にした。
まだ朝食には少し早い時間だけど、もしかしたらダーリックが来ているかもしれない。
昨日の気まずい別れの後はどんな顔をしてあえば良いのかわからないけれど、会わなければ何も始まらない。
扉を開けひょっこりと顔だけを出すと食事の支度をしているメイドが驚きに固まるが、目が合うと直ぐにホッとした表情になる。
「ちょっと、やだもうびっくりした〜っ!貴女どこの持ち場?旦那様がこんな早く来たのかって驚いちゃったじゃないの!」
「えぇと、」
本当に急いでいるのか、扉から入ってきた相手が恐れている人物ではないと分かるとすぐさま配膳の続きを初める。
その様子にティファニーは席に挨拶も着くのも邪魔になるのではと話しかけるタイミングを伺う。
「ちょっと手伝ってもらえない?今日は出来上がるのがギリギリで時間がないの。来るかわからない方の分まで用意はしなくちゃいけないから大変よ!」
「ごめんなさい……」
慣れた手付きで皿を置く姿は何度もこなしているのがわかる。
そんな相手からの苦情を聞く事になるとは思わなかった。
メイドは相手の反応がおかしいとようやく気付き、恐る恐るティファニーを見るとすれ違う者達と同じく驚きに目を見開き言ってしまった事の重大さに気付き勢いよく頭を下げる。
「あ……………ティファニー…様?〜〜っ申し訳ありませんっ!」
「いいえ、良いの本当の事ですもの。」
彼女は毎日一生懸命仕事をして、自分はただ朝は眠たいから用意された朝食を無駄にして惰眠を貪っている。
圧倒的に責められる理由しかないではないかとティファニーは気付く。
せめてもの罪滅ぼしにと食器を並べる手伝いをすると、頭を上げたメイドが並びがバラバラな食器を見て慌てるが並べた相手が相手なので何も言えずにいる。
バラバラな食器はよりによってこの屋敷の主人の物なのだ。
不満を当人に溢してしまったうえに食器を直すように進言するか、迫る時間に急ぎ退出かを天秤にかけるとメイドは急ぎ部屋から退出した。
自分のせいとはいえ悪い事が続く時は続く。
はぁ、とため息をつくとお腹の音が賛同するように小さく鳴くので軽く撫でる。
時計の針を見るともう直ぐ食事の時間だ、早く来ないかと扉の外を見ようと近づくが、昨日ぶつけた額を思い出し一歩下がる。
目の前で風を切る感覚。
開いた扉の直ぐ先に、いない日の方が多いティファニーがいるとは思わずに驚くダーリックが居た。
そんな様子を見て今度はぶつからなかったと満足気に笑う。
「今回は大丈夫ですの。」
「良かった。何故ティフは毎回扉の前で待っているんだ。」
「だって、ダーリック様が来るのが遅いんですもの。それよりお身体の具合はどうです?何処か悪くはありませんの?」
「大丈夫だ、何も心配する事はない。ティフは大丈夫か?」
昨日のぶつけた額を心配気に見つめそっと触れるか触れないかの位置で手を止める。
ティファニーはその手を自らの額に持っていきそっと押し付けると少し痛みが走るので、軽く触らせる程度に落ち着ける。
安心させるように「大丈夫」だと告げるとダーリックの口元も緩む。
「そういえば昨日はヴェールを預かったままだったな。」
「そうですの。昨日から侵入者だと思われないかヒヤヒヤしてましたの。」
「周りの反応はどうだ?」
反応を思い出そうと小首を傾げると、ふわふわとした色の薄い金色の髪が揺れ数本顔に落ちる。
邪魔そうに落ちた髪を上げようとするが細い髪はなかなか捕まらずに、見かねたダーリックが髪を捕まえ耳元へかける。
「みんな驚いてましたわ。でも昨日今日なのでほとんど出会ってはいませんの。」
「そうか、もし嫌ではなければこのまま顔を出しているのはどうだろうか?」
「そうしますの。ダーリック様も是非仮面を外しては如何でしょうか?」
「私は……やめておこう。」
「では、わたくしと2人の時だけでも駄目ですの?」
「それは………」
ティファニーが顔を出すならとダーリックも顔をすんなりと出して貰えると思ったが、断られてしまった事に慌てる。
いや、しかし他の人に惚れられてはいけない。
最近自分でも自覚したが独占欲はかなり強い。
他人に顔は見せなくてもいい、でも自分にだけは見せて欲しい。
「お顔でしたら昨日ちゃんと見ましたわ、是非見せてくださいな。」
「2人きりの時だけなら。」
せっかくの理想の容姿を持つ殿方なのだ、出来るだけ見ていたい。
中身も重要、でも見た目だって重要だ。
なんならちょっと中身が良いだけでも見た目のお陰で評価が上がるなら1番大事なのは見た目とも言えるのではないか、少なくともティファニーの中では見た目重視。
もしこの屋敷の主人がまん丸ブヨブヨ潰れ顔ならここまで関わらずに実家と同じく日がな部屋で誰とも関わらずに過ごす選択をしていただろう。
要求が通った事に上機嫌で手を伸ばし仮面を外すと出てくるのはティファニーが望んだ美貌。
くっきりとした幅の広い二重に恥ずかし気に視線を彷徨わせるダークブラウンの瞳は同じ色のまつ毛に縁取られている。
向かい合わせの席へ座ると待ち望んだ美貌を鑑賞しながら舌鼓を打つ。
ダーリックが席に着くといつもとは皿の位置が違う事に気付き動きを止めるので、自慢気にティファニーは今日は自分が並べたと報告をする。
それを聞くと位置を直そうと伸ばした手を止め、そのまま食事を初めた。
「今日はずっと一緒にいては駄目でしょうか?」
「かまわないが、何かあったのか?」
「顔を晒したまま歩くのは初めてなので、知らない人が迷い込んだと思われてしまうかもしれませんもの。ダーリック様と一緒でしたらすぐにわたくしだと分かると思いましたの。」
と、いうのも本心だけどただ一緒に居たいだけだ。
顔を隠す必要がなくなったなら長い時間一緒にいても何の心配もない。
大人しくソファーで刺繍をしていると約束をすると今日の予定も決まった。
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