15話 お庭デートですの
視察から帰ったのはつい1週間ほど前。
ダーリックは屋敷へ戻るも寝ているティファニーを起こすのは心苦しく、そっと抱き上げると部屋まで運びベッドへ下ろした。
起きる気配は全くないので、ついヴェールの下を覗きたいという欲が出るがなんとか押し止め布団をかけて部屋を出る。
そんな日から1週間。
求婚するなら負の部分は後出しにならないようになるべく見せて納得してからの方が良い。
そう考えいつ顔を見せようかと考えるが、いざ自分からだと言いにくい。
しかし黙って時間が過ぎ、彼女が嫌気を差し出ていってしまう可能性を考えるとなるべく早く切り出した方が良いだろう。
言って終わる関係なら心に積もる想いも、取り返しがつかなくなるくらい重くなる前が良い。
こんなに友好的に……むしろ好意的に接してくれる人は今まで居なかったのだ。
昼食の後に庭へ散歩に誘おう。
そこで顔を見せ、嫌悪されなければ求婚をするのだ。
そうダーリックは1人決意をした。
「この後予定がなければ、一緒に庭を見ないか?」
昼食の時間、最近は毎日一緒に取っているがその後も一緒に過ごすなんて事はなかった。
ティファニーとしてはもっとお近付きになりたいが、自分は暇でもダーリックは忙しいだろう。
そう思い遠慮していた相手からの突然の誘い。
口へ運ぼうとしていたスプーンの手は止まり、乗っていた人参は零れ落ちる。
「見たいですっ、あ、でもお着替えをして、ちょっとだけ準備の時間が欲しいですの!」
「わかった、書斎にいるから用意が出来たら知らせてくれるか?」
「はいっ、とっても楽しみにしてますの。」
実は前回視察に行ってからずっとダーリックに言いたい事があったのだ、部屋へ運んでくれたお礼とご褒美の件と、顔を見せて貰っていない事。
何度か言おうとしたが最近どうやらダーリックのティファニーへの態度が以前とは違い、やけに優しくなった代わりによそよそしくなった。
何かやってしまったかといえば、心当たりは沢山ある。
焦げたクッキー……もはやただの焦げを食べさせた事だろうか、それとも視察の時に運んでもらったのが重かったり涎を付けてしまったのかもしれない、椅子を運ばせたのが不快だったのか、ドレスが高かったのか。
何が原因かはわからないが一緒に散歩をする時に聞いてみる事にする。
食事が終わると浮き足立つ気持ちを抑えきれずにすぐさま部屋へと戻りアニーを呼ぶ。
今回着るのは以前リクエストしたダーリック好みのドレス、もとい好みがわからないから『男ウケ』するドレスである。
普段来ているドレスよりも胸元が空いており押し上げられた胸は膨らみを強調し、薄いピンク地でスカートと裾にブラウンの刺繍が施している。
以前視察に行く時に言われたように寒くならないようにブラウンのショールを羽織る。
「ティファニー様……本当にどんなお召し物でも素敵です……」
うっとりとした様子のアニーは渋々と言った様子でティファニーにヴェールを被せる。
せっかくの美貌が隠れてしまい台無しだが完成だ。
「ありがとう。書斎へ知らせるように言われたのだけれど、わたくしが行ってもいいかしら?」
「ティファニー様なら大丈夫だと思います。書斎までご案内しますね。」
書斎へ案内されると、この後はダーリックにエスコートしてもらう予定なのでアニーは返す事にした。
せっかくのデートなのだ、2人っきりの時間は多い方が良い。
「旦那様、ティファニーです。支度が出来たのでお迎えに参りましたの。」
コンコンとノックをし、反応を待つと直ぐに扉が開く。
前回額をぶつけた事を気にしているのか、ゆっくりと扉を開けると出てきたダーリックも先程とは着替えていた。
「お待たせ致しました。旦那様も着替えられたのですね、とっても素敵ですの。」
「あぁ、ありがとう。」
どこかぎこちない、ここ最近感じる違和感が今日は特に大きい。
ダーリックにエスコートされながら庭へと足を向けると、綺麗に整備された花畑に出迎えられる。
ピンクと花と青い花が咲き混じり、可愛らしい空間がティファニーは大好きだった。
とは言っても基本引きこもりな為に訪れた事はほとんどない。
少し進んだ奥にあるガゼボは白を基調に作られており、庭に咲いているピンクと青の花々が巻き付けられている。
テーブルの上にはまだ湯気の立つ紅茶と、カットされ瑞々しい桃が皿に用意されていた。
気まずさを誤魔化すように、お互いに椅子に座り紅茶を一口。
「ええと、この前に町へ行った時なんですけれど、帰りに寝てしまったのを運んでいただいた事にお礼を言いたいと思ってましたの。ありがとうございます。」
「〜っ、いや、いい、勝手に触ってしまいすまなかった。」
あの時のティファニーの行動を思い出し明らかに挙動不審になるダーリック。
ティファニー本人はほぼ寝ていたので覚えてはいないが女性とあんなに近付いたのは初めてだった。
しかも好意を持っている女性だ、あの時の事は日に何度も思い浮かんでは消せずにいる。
「あの、旦那様が最近いつもと様子が違う気がしまして、わたくしが何かしてしまったからですの?」
「何か?いや、特に何もしていないと思うが。」
実際は馬車の中でしてしまっているが、説明はする方も恥ずかしい。
心配気に尋ねるティファニーだかその答えに安堵したようにほっと胸を撫で下ろす。
「ではわたくしが粗相をしてしまい怒ってる訳ではありませんの?」
「私がティフに怒る訳ないだろう。そうか、勘違いさせてしまったな。」
どこか伺うような雰囲気は何処へやら、いつもの明るい雰囲気に戻るティファニー。
心当たりが多過ぎた為にハラハラしていたがキッパリと自分が原因ではないと言われ、安堵していた。
「ホッとしました。もし怒ってたらこの前のご褒美は許してもらう事に使おうと思ってましたから、違う事に使えますの。」
「何か決まったのか?」
「えぇ、わたくしダンスを習いたくて、舞踏会で一度素敵な人と踊るのが夢でしたの。」
素敵な人という言葉に拒絶を感じ胸が痛むが、褒美を取らせると言ったのはダーリック自身だ。
ティファニーから見ての素敵は人はダーリック以外には誰一人いないのだが、そんな事は知る由もなかった。
「ダンスか、近くに教えられる人はいないから人を呼ぶのに時間がかかるがいいか?」
「旦那様は踊れませんの?」
「一応は踊れるが、ほとんど踊った事はないな。」
学校で習う程度、それも人と踊るなんてほとんどなかった。
人に教えるなんて以ての外だ。
「では時間がある時だけで、一回だけでも良いので旦那様にお願いしたいですの。」
「本当に私で良いのか?」
「旦那様が良いですの。」
ティファニーが踊りたいのはダーリックだけだ、違う先生に教わってまで踊りたいという訳ではない。
それに最近は食事を一緒にするくらいの接触しかないので、僅かな教わる時間でも一緒にいれると嬉しい。
「その、もしティフが嫌ではなかったらなのだが、ダーリックと呼んでくれないか?」
「!!良いのですか?嬉しいっふふっダーリック様。」
「どうした?」
「呼んでみただけですの。」
「もし良ければなんですけど……わたくしの事をティフと呼んでくださってますので、ダーリック様の事はダーリンとお呼びしても良いでしょうか?」
ダーリン?
聞き間違いかと思いダーリックは固まらざるを得なかった。
誤字、脱字報告また、評価ありがとうございます。




