11話 新しいドレスをお披露目しましたの
「おはようございますティファニー様。今日も天気が良いですよ。」
人に起されるなんて何年振りだろうか、悠々自適な生活を送ってきたティファニーはもぞもぞと目を開ける。
「おはよう……」
目の前には満面の笑みを浮かべたアニー。
ふと彼女はこんな顔だったかしらと疑問に思うといつもより鮮明な視界で彼女を見ている事に気付く。
ヴェールを被っていない。
そういえば昨日剥ぎ取られてからずっと被るのを忘れていた。
あの時は剥ぎ取られた事に驚いて何とも思わなかったが今思うと普通に顔を晒し、話し、その日はずっとヴェールを被っていなかった。
疲れ果てて部屋から一歩も出ていないので、見られたのはメイドのアニーとデザイナーのサメリアだけなのは幸いだろう。
「ア、ア、ア、アニーっ」
「何でしょうか?」
「かっ顔を……見てしまいましたね?」
「今更ですね。昨日からずっと見ていますよ。」
「まだ旦那様にも見せてないのに……」
もぞもぞど布団の中に潜り込み少しだけ顔を出す様子はカタツムリとようで、アニーは笑いを堪える。
こんなに可愛らしいのになぜ顔を隠す必要があるのだろうか、しかし思惑は人それぞれ。
でも自分にだけは目の保養として見せて欲しい。
そう思いアニーはそっとベッドに近づくと屈み、ティファニーと目を合わせる。
「突然の事とはいえ見てしまい申し訳ありません。ですが、ティファニー様もずっと顔を隠しているのは息が詰まるのではないでしょうか?」
「そうね、本当は隠すつもりはなかったの。実家では隠していたけれど、違う家ならいいかしらと思ってまして。」
「ではどうして隠してるんですか?」
「だって……旦那様を見るとはしたない顔になってしますんですもの。」
落ち込んだように俯くティファニーと、訳が分からず首を傾けるアニー。
「は、はしたない……?」
ダーリックの事を考えている時の自分の顔を鏡で見てしまった時の衝撃、普段見る自分の顔は身だしなみを整える時の澄ました顔なのにあの時は自分でも見た事が無いような顔をしていた。
きっと表情に名前をつけるなら『はしたない』になるだろう。
とても人には、特にダーリックには見せられない。
「はしたないですの、こんな顔を見せたら嫌われてしまいますの。」
こんな美しく可愛らしい少女がどんな表情をしたら嫌われるような事になるのだろうか、しかもその相手は見るもおぞましいあのダーリック・バルベルである。
もし他の令嬢が言うなら来てやっただけありがたく思え、むしろどんなに好待遇でも修道院に逃げ込む者も出てくるだろう。
それなのに好かれたいからこそ顔を見せないなんて………!そこまで考えアニーはそもそもティファニーがこの屋敷に来て、ダーリックに好意を抱いているからこそお仕え出来る事を思い出す。
「……………ティファニー様が見せたくないならそのままで良いと思います。でもずっと隠してるのは息が詰まると思いますので2人の時は顔を見せてください。」
「そうね、ありがとう。」
出会った時のおどおどとした様子は消え、微笑むアニーの姿は安心感を持たせる。
「そういえば、昨日ティファニー様が就寝した後に新しいドレスが運ばれてきました。凄いです!全部サメリアさんの今年の新作で予約完売の物まであったんですよっ!」
「まぁそうなの。可愛らしいドレスばかりですの、わたくしに合うかしら?」
「似合わないはずがありません、本日はどれになさいますか?」
新しく届いたドレスはどれも上質な華やかさがあり、見比べると今まで着てきたドレスがいかに古い物だったのかよくわかるだろう。
しかし新しいドレスが届いた時点でアニーにより古い物は全て入れ替えられており、昔からあったのでおそらく本当の母の物だろうドレス以外といかがわしいドレスが既に消えていた。
着替えたドレスは白地に薄いピンクの小花の模様が可愛らしく彩り、細めにデザインされたウエストは着る者を厳選するがスッキリと収まり、程よく丸みを帯びた胸を引きたたせる。
最後にヴェールを被り美貌を隠すといつもと同じヴェールを被る怪しい娘……というより顔を隠す事により洗練されたスタイルが際立ち、えも知れぬ色香を放つ。
「はぁ美しい……顔を隠してしまったのが勿体ないです。」
「ふふっ、ありがとう。アニー好みで良かったわ。あら、あの馬車はなんですの?」
ふと窓の外の景色に映る立派な馬車が見える。
お客様でも来たのだろうか、お出迎えの準備はした方が良いのだろうかと疑問に思いティファニーは小首を傾げる。
「本日は旦那様が町へ視察に出るので待機しているのです。」
「視察?わたくしも行きたいですの!あぁ旦那様が行ってしまうかもしれない、急がないと。」
まだダーリックは外へ出てはいないらしい、今から行っても間に合うはず。
静止するアニーの声にも止まらずに馬車へと向かうと、ちょうど馬車へと乗ろうとするところだった。
パタパタと駆け寄ると気付いたダーリックは足を止め振り返るのでティファニーも少し急いで向かう。
「旦那様ドレスをありがとうございます、早速昨日送っていただきましたの。どうでしょうか?」
ドレスの裾を掴みくるりと一回転するとスタイルの良さが際立つのと同時にドレスの裾とキラキラと輝く薄い金色の長い髪がふわふわと広がり目を楽しませる。
その光景にダーリックは今まで感じた事がないような胸の高鳴りを感じた。
ティファニー自体は全く変わっていないのに、以前よりも魅力的に見えるのはドレスのせいもあるが、確実に好意を抱いている自分の気持ちのせいもあるだろう。
しかしいざ自覚してみると気恥ずかしく感じ、直に見る事が出来ずに視線を逸らす。
「とても、良く似合っている。」
「本当ですか?嬉しいっ!これから視察に行かれると聞きましたの、わたくしも一緒に連れて行ってくださいませ。」
「遊びに行く訳ではないんだ。帰りも遅い時間になるかもしれないからティフは屋敷にいなさい。」
「で、でも昨日も旦那様に会えてませんし……」
昨日も会えていないし昨日行われた嵐の様な採寸によって付けられた内面的な疲れを癒したいのだ。
褒められた事に対し嬉しそうに声高に喜ぶ姿が、断られたとこにより一気に悲しげな声音になる。
その変わりようにダーリックは罪悪感を覚えたのと共に、まるで自分に会いたかったような理由にぐっと胸を締め付けられるような感覚になる。
「馬車は1台しかないのだが、良いのか」
「?、わたくしも一緒に乗ったら重いからですか?そこまで重くはありませんのっ」
「そうじゃない、私と一緒の馬車は嫌だろう?」
「そんな事ありません、一緒の馬車がいいのですの。大人しくしているので連れて行ってくださいませ。」
「気分が悪くなれば引き返すから、すぐに言うように。」
「ふふっ今日も朝から元気ですから大丈夫ですの。」
いきなり付いて行きたいという願望は初めは拒否をされたが、なんだかんだで許してくれる。
見た目だけではなくて性格も素敵な方だと、上機嫌に馬車に乗り込もうとするティファニー。
「待て、その格好は……肌寒くなるかもしれないから、何か羽織ってきなさい。」
早速乗り込もうと意気込むティファニーを静止し上から下まで見ると静止する。
今日のティファニーの格好はいつもよりも身体のラインが出ており、このまま一緒の馬車に乗り町で披露するにはまずい。
「すぐにショールを取って来ますの、ちょっとだけ待っていてくださいませ。」
パタパタと走り去るティファニーを見ながら段々と積もる思いにダーリックは胸を抑え待っていた。




