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10話 ドレスを仕立てていただくのって大変ですの

「本日はティファニー様の新しいドレスを作りにデザイナーの方がいらっしゃいます。とても忙しい方なのでくる時間は相手の都合により、食事の時間がずれ込む事もあるそうです。」


心持ちワクワクしているのようなアニーから本日の予定を知らされる。

この屋敷に来ての初めての予定だ。


「デザイナーの方に来ていただけるなんて初めでとっても楽しみですの。」


いつもドレスは成長と共に新しい物が届いていたので、自分のために新しく作ってくれるのは初めてなのだ。


「あっ、でもわたくしお支払い出来る物が何もありませんの、どうしたらいいのでしょう。」


「そちらでしたら旦那様からの贈り物という事ですので、ご安心ください。」


「まぁ、旦那様から?嬉しいっ、どんなドレスが出来るのかしら。」


「なんと来ていただけるのは今若手大注目のあのサメリア・ノーヌさんなんですっ、きっと素晴らしいドレスを作っていただけますよっ」


ニコニコと元気に話す姿は本当に楽しみにしているようで、ティファニーも会えるのが楽しみになってくる。

聞いた事がない名前だがきっと流行りのデザイナーなのだろうと呑気に考えていた。

その時ノックもなしに勢いよく扉が開かれ、驚きに思わず2人の身体は固まる。


「失礼します。本日急遽呼ばれましたサメリア・ノーヌです。どなたの服をご希望でしょうか?」


現れたのは1人の女性、濃紺の瞳と同じ色の髪を一つに纏めた彼女は不機嫌さを隠そうともせずにズカズカと部屋へ入ってくる。

話中の本人サメリア・ノーヌであった。



「ええと、わたくしのドレスを仕立てていただきたいのですの。」


「わかりました、こちらも多忙の身ですのででは服を脱いで、いえ、そのままで結構です。」


足早に近づいてくるとティファニーの姿勢を正させ、メジャーを取り出す。

失礼な態度とあまりの勢いの良さにアニーも止めた方が良いと手を出そうとするが、サメリアは手を止めはせず1分1秒も惜しいというように採寸を進めていく。


「布が邪魔ですね、私も時間が無いので取らせていただいても宜しいでしょうか。」


「えぇと……」


屋敷の中ではまだ顔を晒してはいないのだ、ダーリックに対して見せられないと決めた手前、他の人に対して見せるのはどうなのか。

見られても特に問題が浮かぶ訳では無いために言葉を濁す。


「ご安心ください、職業柄人の美醜には耐性があります。この屋敷の主人レベルであれば別ですが。では失礼します。」


「きゃっ」


濁した言葉は否定ではない、では同意だろう。

そう捉えたようにいきなり過ぎて抑える暇もなくヴェールは短い悲鳴と共に剥ぎ取られる。


「ティファニー様っ!………へっ?」


ヴェールと共に手前へと引き摺られた薄い金色の髪から覗く顔に瞬間空気が固まる。

素顔を隠すといえばこの屋敷の主人の様に醜い姿を隠すため、そう思われていたがこの姿はどうだろう。

驚きぱちくりと大きく開かれたピンクダイヤモンドの瞳に陶磁器のような白く艶やかな肌、小さく可愛らしい鼻も薄く桃色に色付く唇も、今まで見たこともないような美しい少女の出現にアニーは呆気に取られ、サメリアは目の色が変わる。


「服を脱いで」


「えっ?」


いきなりヴェールを取られた事に呆然としているティファニーは言われた事に思考回路が追いつかない。


「今すぐ服を脱ぎなさい!そこの貴女もモタッとしてないで手伝う!」


「しっ失礼しますっ」


どんな素顔なのか気にはなるが知って怯える日々は送りたくないと、気にしないようにしていたアニーも突然現れた美しい少女の出現が信じられなく停止していたがサメリアの指示により動き出す。

あれよあれよと言う間にドレスは剥がれ下着姿へ。


「こんなの下着と呼べないわ、そこから作らなきゃ、付け方のレクチャーも必要ね。」


自分で着替えを行なっていたため人前での突然の露出に羞恥を感じ身体を隠そうとするがサメリアは許さない。


「全部計り直しよっ!凄い、こんな綺麗な子見た事ない、スタイルまで私の理想にピッタリじゃないの!」


いきなりの入室に、強引にヴェールを外した行為、その後の手のひらを返した様に積極的に行われる採寸。

目まぐるしく変わる変化についていけなくなり涙目になるティファニー。


「あぁ泣かないで可愛らしい顔が台無し……いや、涙に濡れるからこそ引き立つデザインはありかもしれない。忘れないうちにメモしないと。」


この人は怖い。

もはやドレス作りなんて良いから逃げ出したい気持ちを込めて助けを求め視線を送る。


「アニー……」


しかし突然現れた美しい少女に見つめられ顔を赤くするばかりで動き出す事はなかった、この場は逃げられない。

そもそも忙しい中来ていただいて強引な行為も頼んだ仕事のうちなのだ、一刻も早く終わらせるには採寸を終わらせるしかない。


「実際にドレスを着ている姿も見たいわね、今持ってるドレスを見せてちょうだい。」


採寸が終わったら全ての行程が終わりだと思えば次の要求。

ずらりと手持ちのドレスを見せると上機嫌なサメリアの機嫌が一気に下がる。

1枚1枚をさっさと見つめる度に深くなる鬼の形相。


「なによこの時代遅れのボロ布達っ、こんなの着せてたなんてこの屋敷の主人は何考えてんの?」


「違います!わたくしは来たばっかりで、これらの服は実家から持ってきた物達ですの!」


今まで着てきたドレスをボロ布と呼ばれた事もショックだが自分のせいでダーリックが悪く言われるのは我慢ならない。

鬼の形相に負けるかと噛み付く。


「それならちょうど良い。住む場所が変わるならドレスも変えなきゃね、全部入れ替えだよ。それとピアスも開けなきゃね、今開けるか後で開けるかどっちが良い?」


何でもないように持ってきたメジャーを後片付けしながら、小さな小箱を取り出すサメリア。

ピシリとティファニーが固まる。


「ピアスって痛いやつですよね……?」


「そうね、耳に穴開けて固定するの。大丈夫皆開いてるから。」


「いっ、嫌です!絶対に嫌ですの!!」


自らの耳を掴むと頭をフルフルと振り反対の意思を示す。

何故痛いとわかっていながら怪我をしなきゃいけないのか、痛い事は絶対にしたくない。

いくらサメリアの圧が強かろうとそこは譲れないティファニーだ。


「はぁ?そこのメイドだって開いてるよ、一瞬だし痛くないから。」


「さっき痛いとおっしゃったではないですかっ、ピアスは絶対に開けませんのっ」


「わかった、今日のところはピアスはなし。」


まだ諦め切れないといった様子のサメリアを威嚇する様に睨むティファニー。

本人は絶対に譲らないと睨んでいるつもりだが大きな潤んだ瞳で睨まれても可愛らしさは感じても恐怖は感じない。

ぽんぽんと頭を軽く撫でると嫌がる様に頭を振り抵抗した。




「いや〜有意義な時間だった。じゃあ私は帰って早速デザインを起こさなきゃね。良いデザインも浮んだしお礼って事で明日中に既製品を何着か送るから。その後は出来次第送るようにするよ。」


「ありがとう、ございます。」


なんとか採寸やら試着やらを終わらせるともはやティファニーはぐったりとしていた、誰もいなければ床であろうと寝転がりたい。


「そういえば着たいドレスのリクエストはある?」


ふと思いついた様にサメリアに聞かれると、とりあえず早く終わらせたいという思考に支配される中で一つだけ思い浮かぶ。


「ええっと、旦那様が気にいるようなドレスですの。」


「は?旦那様ってこの屋敷の?」


要求を伝えた瞬間サメリアは理解できないような顔をした。

世間一般から見たこの屋敷の主人は自他共に認める恐ろしい風貌なのだ、伊達に仮面で顔を隠して生活が成り立ってる訳ではない。

そんな相手に嫌われて逃げたいならわかるが好かれようだなんて理解が出来ない、しかもこんなに美しい少女がだ。


「えぇ、旦那様を虜に出来るようなのが欲しいですの。」


「あ、あぁわかった男ウケの良いやつって事で良い?」


「そう、ですわね。」


よく考えると好みのドレスは着たいが、肝心のダーリックの好みは知らない事に気付く。

可愛い系が良いのか、セクシー系が良いのか、そもそも自分が着こなせるか不安はあるが『男ウケ』という言葉に惹かれる。


「あと刺繍をしたいの、針と糸もお願いしても宜しいでしょうか?」


「うちで揃えても良いけど、屋敷にあるんじゃないか?まぁ良いや、既製品のドレスを送る時に一緒に送るよう伝えておくよ。」


「ありがとうございます。」


確かに刺繍道具くらいなら頼めば借りられたかもしれないとも思うが、せっかく新しい服ドレスを作ったなら新しい裁縫道具も良い。

刺繍は好きだ、暇があればやっていた。

というか暇を潰す作業が刺繍しかする事がない期間が長くて腕には自信がある。

ダーリックに婚約者と認めて貰うためには少しでも有用性をアピールしたい。


荷物を纏めるとサメリアは上機嫌で帰って行った。

ティファニーも見送ろうとするものの疲れた身体は動かず、フラフラと歩く姿に失笑され見送りは部屋までで良いと言われてしまったのだ。


嵐のような1日だった。

高く登っていた日は沈み、長い時間をかけ取り組んでいたことを思い知る。

今日は一度もダーリックの顔を見ていなく恋しいが、疲れた身体は動く事を拒否する。


「今日はもう疲れたからこのまま寝たいですの。」


「このままはいけませんよ、ちゃんと湯浴みを済ませて寝巻きに着替えましょう。」


寝るには早い時間だけど瞼を閉じるとすぐにでも寝られそうだ。

柔らかな布団に包まれながら寝られるならば最高に気持ちがいいだろう。


「もうむり。あっ、でもお腹は空きましたの。」


「すぐ食べれる軽食もお待ちしますので少しでもお腹に入れてください。」


「やっぱり眠りたいですの。」


「私が全部やりますからティファニー様はもうちょっとだけ意識を保ってください。」


今すぐにでも眠りにつこうとするティファニーを何とか起こすアニー。

ヴェールを被る主人のお世話係りを任された時は不安で不安でしょうがなくて、上手くやっていける自信がなかった。

しかし実際に過ごしてみると気さくで、変わり者で、真っ直ぐで、素直に甘えてきて………とても顔が可愛らしい。

緊張してしまうとミスを連発してしまうために押しつけられるように任された任だが他の者に譲りたくはない、信頼を勝ち取りずっと側でお世話をしていきたい。

メイド生活を初めてから数年。

アニーは今までで1番燃えていた。


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