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1話 嫁ぎ先が決まりましたの

初投稿失礼します。

美醜逆転物が好きで書き初めてしまいました!

お気に召していただけると幸いです。

時折りゴトゴトと鳴らせながら走る馬車はいかにも貴族の所有物という外見に似合わずに、少しだけ急いだように街道を走る。

追われているわけもなく急ぐように少し走らせるのは、乗り手にはさぞ乗り心地が悪いだろう。

ただ、外出自体が初めてでは馬車の乗り心地は比較のしようがなかった。


そんな馬車の窓からちらりと外を覗くのは1人の少女。

厚手のレースで出来た白いヴェールは外界からからの視線を拒み、彼女の素顔を除く事が出来ない。

ほろりと漏れ出る緩く巻かれた薄い金糸のような束にかろうじて彼女の髪色がわかる。

初めて屋敷の外へ出た、そこにはどんな光景が広がっているのだろう、と心弾むが早い馬車から見える景色はゆっくり鑑賞するには向かない。

むむっと眉根を寄せて凝視してみるが見える景色は変わらなかった。


それにしてもいきなり嫁ぐ事になるなんて、恐ろしい姿とはどんな方なのかしら。そう考えこれからの生活に憂鬱な気分になる。

ほぅ、吐息を漏らしながら少女、ティファニーはこれからへの漠然とした不安と共に今日の事を振り返る。


……


愛のない政略結婚ののちに生まれたティファニー、母は愛してくれたが父親は仕事であまり家に帰らず、帰っていてもほとんど会う事はなかった。

それはティファニーが父親の姿が苦手で避けていたのもある。

重く腫れたような瞼に大きな横幅の広い鼻、厚く異物感の強い唇にでっぷりと肥えた体躯。

ティファニーにはその顔と大きく肥えた身体に不快感を覚え物心ついた時から苦手だった。

それなので会う時はいつも母にべったりとくっつき、母もたまにしか合わない父親に対する人見知りかと、なるべく自分の近くにティファニーを置いた。

しかしそんな母は嫁ぐ前から身体が弱くティファニーが5才の時に亡くなってしまう。

母親が亡くなると以前からの愛人が後妻に収まり、すぐさまティファニーは母との思い出残る屋敷から別館へと移されてしまった。


はじめは常にいたメイド達も今では日に何度か食事や湯浴みの用意にしか訪れない。

自然と自分の事は自分で出来る様になったが不便はない。

寂しさは感じるが誰に怒られるわけでもなく、今日も起きるには少し遅い時間に目覚め用意された朝食をとる。


今日は何をしようか。部屋に篭りきりのティファニーには選択肢は多くはなく、読書か刺繍かちょっとした掃除でもしようか。


刺繍は無心で針を動かすと段々と模様が出来上がるのがとても楽しい。

それに出来た物を置いて置くといつの間にか無くなっており、誰かの目に留まっているのかと思うと嬉しくもあった。


読書は一年ほど通ってくれていたが、やけに帰るのを躊躇した後からぱったりと来なくなった厳しい家庭教師の先生が最後の日に「持ち帰るのが重いから」と大量に残してくれた勉強やマナーや淑女のための本がある。

他にも誰の趣味なのか別館にいくつかあった物語。

どの本も何度も読み内容は覚えているが、今日は読書にする事に決めた。

そうと決まれば本を取りに行こうと腰を上げると控えめなノックの音が鳴る。


「ティファニー様、奥方様がお呼びです。」


「わかりましたわ、直ぐに参りますの。」


嫌厭される事はあっても呼ばれる事など珍しい。

すぐに身なりを確認すると、人と会う時は必ずつけるように言われた厚手のヴェールを被る。

このヴェールは特注品らしく、外からは見えないが内側からは少しぼやけてはいるが生活に問題ないくらいには見えるのだ。

お義母様とその娘達は私の顔が目に入れたくないほどお嫌いらしい。

お義母様のいる部屋の前までメイドに案内されるとコロコロと楽しげな笑い声が聞こえる。


「ティファニーです、失礼いたします。」


部屋に入るとお義母様と2人の娘の視線が集まった。


「まぁまぁ久しぶりね、待っていたわ。すっかり成長して貴女もお年頃ですものねぇ、そろそろ縁談をと思って話しを付けてきたのよ。」


義母は艶のある濃い金髪をアップでまとめ、少しキツめな目鼻立ちは娘が2人いるとは思えない程に艶やかな美しさを保つ。

待っていたとの言葉通り扉を開けるとそそくさと中に招き入れるさまは今までティファニーに対して向けられた笑みの中でも1番の輝きであった。


「良かったわねぇ、私達と違って貴女には何の縁談の申し込みも来ないんだもの。」


「お母様とお姉様と、とてもとても心配してましたのよ!」


母に似た美しい姉妹の大袈裟な芝居がかった喜びの表現はまるで道化のようで、もはやニコニコというよりニヤニヤと笑む様子は美貌と相まって恐ろしくもある。


そんな様子にティファニーがヴェール越しにゴクリと息を呑み気圧されていると感じると、義母はまとわりつくような魅惑的な声音で語りはじめた。


「まず一つ目の縁談は70代の貴族の後妻ね、彼には子供が居ないから子供を産める若い娘を所望しているの。ただ今までそんな若い娘を虐めるのが趣味って噂もあって何人もの妻が亡くなってるって噂を聞いてるわ。断りきれなくてごめんなさいねぇ。」


その言葉に恐ろしいというように眉根を寄せ扇で口元を隠し身体を震わせると娘達も同じように怯える仕草を初める。


「2つ目の縁談は貴女にはもったいない素晴らしさよ!

あの有名なバルベル伯爵よ。数年前に若くして爵位を継いで今でも立派に領地を治めてるらしいわ。まだ未婚で絶対に外に女性作らない誠実な方で、妻としての最愛を受ける事間違いなしよ。もちろん人を虐める趣味も聞かないわ。」


なぜ浮気はしないと言い切れるのだろうか、そんな疑問も義母の美しく取り繕っていた微笑みから変わる隠ししきれない下卑さのある笑みに消える。


「ただちょっと欠点があるとすれば恐ろしい見た目をしている事かしら。でもこちらを受ければ一件目はお断り出来る様になるの。」


恐ろしい、と聞いた瞬間義妹がヒッと思い出したかのように息を呑み自らを抱く様に両腕を身体に回す。

その様子を義姉は可哀想にと義妹を抱き締めるが、ティファニーはその男に嫁がされそうになっているのである。


「貴女の今後の人生なんですもの、自分の意思で決めませんとね。どちらにしましょうか?」


どちらを選んでも自分の責任。

後から後悔したとしても自己責任な言われ方だが心は決まっていた、そもそも選びようがない、初めから決まっておりティファニーに選択肢等無かったのだ。


「では2つ目の縁談に決める事にしますの。素敵な縁談をありがとうございます。」


満足そうに目を細めると義母は笑み深め言い放つ。


「まぁ、そちらを選ぶのね。貴女の選択をちゃんと優先してあげるわ。では馬車がお待ちですよ、早く向かいなさい。」

「今からですか?荷物は…」

「荷造りなら貴女が部屋から出た後にさせています。なにも心配ありません、きっとこれからは向こうで良くしてくださるわ。」


追い出されるように部屋を出る時部屋からは嘲笑うようにクスクスと義母娘の笑い声が聞こえてくる。



急遽知らされた自分の嫁ぎ先、きっと選択肢などなかったのだ。

こんなにすぐに追い出されるなんて思ってはいなかったが、そもそも今日嫁ぎに行くというのは既に決まっていた事なのだろう。

恐ろしい旦那様とはどんな方なんだろうか、不安に思いながら馬車へと足を運んだ。

お読みいただきありがとうございます。

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