己のウ○チを賭けて勝負した話
脳内偏差値を下げて読むんだぞ。私との約束だ!
ウ○チ。誰もが一度は聞いたことがある言葉にして、世の中の人間の半分くらいは必ず一度は口に出したことがある言葉と言っても過言ではないだろう。中には口に出すだけでは飽き足らず、自身から物理的に出したこともある人間だっているはずだ。
ところで、もし今これを読んでいる君たちが小学生以上の年齢だったら、自分が小学生だった時の事を一度思い出してみてほしい。誰かが『○ンチ』という言葉を発しているのを聞いただけで、自然と笑顔になれたことはなかっただろうか? はたまた、『○ンチ』という言葉を口にするだけで、ただ楽しかった時代があったのではないだろうか?
かくいうオレにも、当然そういった時分はあった。いや、今も続いていると言ってもいい。齢30を射程範囲に捉えるようになった今でも、だ。某有名企業(組織のカラーは当然ブラック)に正社員(社畜)として雇われ、日々メンタルポイントを削り、仕事用機械の前で発狂(奇声を出しながら仕事するのは意外と楽しかった)しながら働くようになった今でも、それは変わらなかった。むしろ、その言葉に救われている節すらあった。どんなにツライ状況に追い込まれても、心の中で『○ンチ』と繰り返し唱えるだけで心は満たされたし、笑顔を浮かべることさえできた。上司に理不尽に怒られ、常人なら『会社を爆破してやろうか』と暗い怒りに飲み込まれそうになるところでも、笑顔を浮かべていられるオレを見て同僚がドン引きしたりしていることもあったが、そんなことはオレの知ったことではない。『○ンチ』ひとつでここまで快楽を得られるオレの精神は、もしかしたら小学生で止まっているのかもしれない。
ここまで読んでもらった読者諸君から心なしか距離を取られたような気もするが、ともかくわかってもらいたいことは、【『ウン○』はオレにとっての心の支えである】ということだ。『ウン○』のない人生なんてオレには考えられないのだ。もし世の中から『ウン○』というものが存在しなかったら、オレと言う自我は数日と持たずに崩壊しているだろう。
だからこそ、同僚からのこの一言はオレにとっては『死ね』と言われていることに等しかった。
「なぁ、仕事中に奇声を出すのは構わんけど、『○ンチ』て業務中に連呼するのはさすがにやめようぜ? お互いさすがにいい大人なんだしよ。」
正論である。
「ふむ。お前はオレに『死ね』と言うんだな。」
オレから『○ンチ』を取り上げるってことは、そういうことなんだからな。
「なんでそうなるんだよ。前からお前は頭がフルスロットルだとは思ってたけど、最低限の論理的思考能力は残していると思っていたのに・・・。」
ひでぇ言われようだ。
「おいおい冗談はよしてくれよマイブラザー。お互い発狂しながらもここまで社畜生存競争を生き残ってきた仲じゃぁないか。」
「俺はお前とブラザーになった覚えはねぇ。」
ノリ悪いなコイツ。
「まぁ聞けよブラザー。オレは○ンチに生かされているし、ここまで○ンチ一つで生きてきたんだ。それはこれからも変えるつもりはないし、誰かに変えさせもしない。こればかりは、何を言われようとゆるがないぜ。」
オレのこの宣言に、同僚はしばし押し黙る。頭の中でなんとかしてオレから『○ンチ』を取り上げる論理を構築しようとしているんだろうが・・・それは無駄な徒労だ。オレにはその意思がないし、なにより『○ンチ』を守る事を最優先としている以上、何を言われたところでそれはひっくりかえることは・・・。
「じゃぁ賭けをしないか?」
「何?」
いきなり何を言い出すんだこいつ。
「俺が負けたら、お前が『ウ○チ』と口に出すことに関してはもう何も言わない。だが、俺が勝ったら、お前はこの先職場で『ウ○チ』と口にすることは2度と出来ない。どうする?」
何を言うかと思えば、そんなことか。
「話にならんな。そんな賭け、受ける理由がない。」
この一言に尽きる。これでコイツの口を封じることが出来ると思ったが・・・甘かった。
「なるほど。つまり怖気づいたってわけだ。」
などと抜かしてきたからだ。
「どォ言うことかなァ?同僚くゥん?」
長髪の、違う、挑発のつもりか?
「教えてやるよ。お前は『ウン○』を失うのが怖いから、俺との勝負を受けないんだ。それはつまり、俺からすら、お前は自身にとって最も大切な『ウン○』を守れないってことじゃないのか? 俺のような人間から『ウン○』を守れる自信すら持てていない時点で、お前の『ウン○』への思いも底が知れるな。って話だよ。」
・・・・・・。
「クククククク・・・」
なんだろうねこの笑いは。きっと意地でもオレを賭けに乗せてやろうって思惑が丸出しだから、面白くて笑いがでてくるのだろうね。まったく、カワイイ同僚君だよ。
「オレに賭けに乗ってほしいからって、挑発があからさますぎるんじゃないか? そんなのに乗ってやるバカはよほどの阿呆かもうひとつのパターンしかない。覚えておくんだな。」
「なんだよ、もうひとつのパターンて?」
「そいつが『ソレ』について絶対的な誇りを持っているパターンだ。お前は超えてはならない一線を越えた。
いいぜ、賭けに乗ってやるよ。成敗してやる。」
かくして、年齢を四捨五入したら30になる男性2名による、『ウン○』使用権を賭けた戦いが幕を開けた。
そして、オレは賭けに負けた。
彼は負けた。
負けたんだよ。