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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

夢の中のあなた

作者: どんC

「この間夢を見ました」


「夢?」


 金髪で青い瞳の彼は、微笑んで飲み干したカップを皿に戻す。

 彼はグレゴロス国の第二王子で、名をラオス・D・グレゴロスと言う。

 私達は王城のテラスでお茶を飲んでいるのだ。

 側にはメイドと護衛騎士達が控えていて。

 テラスからは池のハスがよく見える。


「子供の頃の夢です」


「子供の頃の夢? 夢の中の僕たちは何歳ぐらいだい?」


「私が4歳ぐらいでしょうか。ラオス様は6歳ですね。大きな図書館で絵本を見ているんです。その図書館は薔薇のステンドグラスから差す光がとても幻想的で。私は本も読まずにその薔薇のステンドグラスばかり見ていました」


 声をかけられて振り返ると。

 男の子が本を持ってやって来ました。

 男の子の顔は逆光でハッキリ見えなかったが。

 彼は側に来て本を差し出した。


『僕の可愛い婚約者殿。今日はこの本を読んであげるよ』


 と言っていたからラオス様だと思ったのだが……

 尤も彼から可愛い、何て言われたことが無い。


「どんな絵本を読んでいるんだい?」


「色鮮やかな絵本で、森に住むウサギが町のウサギを訪ねる物語です」


 尤もその本はパピルスで出来ていた。


「悪い。そんな記憶は無いし、そんな絵本を見た記憶もない。それに薔薇のステンドグラスがある図書館も無いし。私と君は一緒に図書館に行った事は無いだろう」


「……そうですね。やっぱりただの夢ですよね。でも……何故かその図書館がとても懐かしくて。薔薇のステンドグラスが素晴らしくて……そうですよね。この国には薔薇のステンドグラスのある図書館は無かったですよね……」


「夢は夢だよ」


「……」





 ~~~*~~~~*~~~~


「また夢を見ました」


「エルザはよく見た夢を覚えて居るんだね。私は夢は覚えていないよ。で……今度はどんな夢なんだい?」


 教科書から顔も上げずにラオス様は尋ねる。


「あ……私も忘れてしまいました……」


 曖昧に笑ってエルザは教科書をめくる。

 学期末のテストが近いのだ。

 二人は城の応接室で勉強していた。

 ラオスは顔を上げて、エルザを見ていたが、諦めてノートにペンを走らせる。

 まあ。夢なんて起きた途端に忘れてしまうものだ。


 エルザは噓を吐いた。

 本当は覚えていた。


 夢の中のエルザは、城の窓から外を眺めていた。

 城壁から外は砂漠が広がっている。

 エルザは豪華な異国の花嫁衣装を身に着けていた。

 夢の中、エルザは父と腕を組んで祭壇に向かって歩く。

 祭壇には神官と彼がいて。

 私はクッションの上に跪いて首を垂れる。

 彼は私の頭にティアラを載せる。

 私があの国の王妃になる夢だ。


「彼は貴方じゃない……」


 エルザの呟きをラオスは聞き逃した。





 あの国はこの国ではない。


 夢の国は砂漠の国だ。


 彼はラオス王子ではない。


 祭壇で待っていた彼は黒髪で鳶色の瞳だった。





 ~~~*~~~~*~~~~






「もう夢を見ないのかい?」


「……はい。夢は見るんですけど……ごちゃごちゃと統一性のない夢で……」


 私は苦笑する。


「訳が分からないのが夢だよ」


「そうですね……」


 夢の中、彼(王)は毒殺され。

 エルザはその罪を着せられて薄暗い牢獄に入れられた。

 拷問され町の広場で柱に縛られ、民衆に石を投げつけられ殺される。

 王弟の横で女が一人笑っていた。

 【水の聖女】と呼ばれた女だ。

 愛する人を殺し、私に罪を被せた。

 あの国は300年前に滅びた。

 砂漠の中のオアシスの国、グアハラーザ。

 神の怒りを受け水没した国。



 ~~~*~~~~*~~~~



「転校生が来るそうだ」


「こんな時期にですか?」


 一学期が終わり冬休みが来ようとしているこの時期に?


「王太子(兄上)から私にその転校生の面倒を見る様に仰せつかったよ」


「もしかして……その転校生ってピンクの髪に紫の瞳ではなくって?」


「おや? 彼女を知っているのかい?」


「いえ……誰かが噂話をしているのを聞いただけです。お会いしたことはありません」


「何でも孤児として修道院で暮らしていたらしい。最近ベレッセ男爵に引き取られたとか」


「……そうですか。その方のお世話で忙しくなりそうですね」


「ああ……でも君も1年間お婆様の国に行くんだろう?」


「はい。祖母の具合が悪くて……両親に頼み込んで1年ほど留学させていただきます。

 本当に勝手を言って申し訳ございません」


「君はおばあさん子だったからね。気を付けて行くんだよ」


「はい。ラオス様もお元気で……」


 まるで一生の別れのように聞こえたが、ラオス王子は大して気にもかけなかった。

 それよりも転校生の事が気にかかった。

 一年間婚約者はいない。

 転校生が可愛い子だと良いな。

 と彼は思った。




 ~~~*~~~~*~~~~




 リンゴーン リンゴーン


 弔いの鐘が鳴る。

 まるで泣いている様だ。

 エルザは嗚咽を漏らす。

 伯母が背中を撫でてくれる。


「76歳なら、大往生よ」


 伯母はポツリと言った。

 祖母は5人いる孫の内で、殊の外エルザを可愛がってくれた。

 もう優しい祖母はいない。

 祖母が眠る棺は霊廟に納められた。

 エルザは祖母の好きなピンクのバラを棺桶の上に捧げた。

 白い服を纏った神官様が焚いた香があたりに漂う。


 伯母とエルザは馬車の中で叔父様を待っていた。

 弔い客は皆帰ってしまった様だ。

 親族は古城の方で待っているのだろう。

 神官と話していた叔父様がこちらにやって来る。


「待たせてすまない」


 叔父様が馬車に乗り込んだ。

 みんなでお婆様の古城に帰り馬車から降りる。

 この城は王女だった曽お婆様が降嫁した時の持参金の一部として王家から譲り受けたものだ。

 こじんまりとしているが野バラが美しい城で。

 でも今は、主を亡くした古城は何処か悲しげだった。


「おかえりなさいませ」


 家令とメイド達が私達を出迎える。

 城に入ると誰かが階段から降りてきた。

 若い男だ。

 従兄弟たちの顔は知っているが。

 まだ会った事のない親戚だろうか?

 私より3・4歳年上みたいだ。

 喪服を着ているから、神官様ではないようだが。


 誰だろう?


「エルザ」


 叔父に名を呼ばれ、私は前に進み出た。


「この子が私の姪のエルザです」


 叔父が若者にエルザを紹介すると。


「初めまして。私はグラッツ国の第五王子ミノスと言います」


 何と王子様だった。

 王太子様のお顔は存じ上げているが、他の王子は辺境の駐屯地にいるからお会いしたことはない。


「初めまして。私はミステリア国のウエントウス伯爵家の長女エルザ・ウエントウスと申します」


「取り敢えず、立ち話もなんですから青の間でお話を伺いましょう」


 伯母と叔父とミノス王子と私は三つある客室の一つに案内された。

 祖母の母は王家から降嫁していて王家と私達は親戚になる。

 王家の血が絶えたら私達の家から王を出すことになるだろうが。

 今の王家は子供が多く。

 それこそ疫病や戦争でもない限り、血が絶える事は無いだろう。



 ~~~*~~~~*~~~~




「実は君の婚約者の事についての悪い話だ」


 お茶とお菓子をテーブルに並べてメイドが出て行った後に、王子はそう言った。


「ラオス様ですか? この国から手紙を出してもお返事は一通も貰っていません。何があったのですか? 実家に聞いても答えてくださいませんでした。お婆様はこの一年間、一進一退を繰り返して。とてもお婆様を置いて帰れる状態ではありませんでしたし」


「私達もお母様の容態を手紙にしたためてこの子の様子を知らせていましたが、手紙には『グレゴロス国にエルザを返さないでくれ』としか書かれていなくて。あの国の事を心配しておりましたの」


 伯母が王子を見ながら尋ねた。


「エルザ嬢、君と入れ違いに学園に転入してきた男爵令嬢を知っているかい?」


「はい。ラオス様が面倒を見る事になって居ました。名前は確か……カタリナ・カペー男爵令嬢だったと思います」


「彼女は【水の聖女】と呼ばれる様になり。高位貴族の子弟を侍らせる様になって。君の婚約者も彼女の虜になっていった」


「【水の聖女】ですか‼」


 エルザの声が震えた。

【水の聖女】かってあの女もそう呼ばれていた。

 王を殺し、私に罪を着せ民衆に石を投げさせて……。


 私は殺された。


 あの時の痛みが、憎しみが、悲しみが、蘇る。

 ブルブルと震え、両手で己の体を抱きしめた。

 ミノス王子が私の手に触れ、大丈夫だよと囁いた。


「まあ。大丈夫? あなた顔が真っ青よ」


 伯母も叔父も私の様子に驚いている。


「大丈夫です。それでカタリナ嬢が何かしでかしたのですか?」


「【魅了】を使って王太子を虜にしようとしたらしいが、我が国が送った魔道具で抵抗レジストしたから大したことにはならなかったが。君の婚約者とその取り巻きが薬を盛られて。廃人となった」


「そんな……【祝福の儀】の時に【魅了】を持っている者は神殿が封印するはずですが……」


「カタリナは【祝福の儀】を受けていない。【外道】だ」


「【外道】?」


「この世界には稀に【祝福の儀】を受ける前にスキルや職を持っている者が居る。この国では【外道】と呼んでいる。詳しい事は分からないが。学者の仮説によれば前世で特別な【職】を与えられていると、生まれ変わってもその職を引き継ぐ事があるそうだよ」


「引き継ぎですか?」


 私が前世の記憶を思い出したように、彼女も前世の記憶を思い出したのだろうか?

 記憶を思い出すことによって前世の職やスキルを使えるようになるのは、私で実証済みだ。

 そう私は前世のスキルが使える。

 前世の私のスキルは【思考誘導】だ。

 私はこの力を使い周りのみんなを誘導してこの国には長期留学をしている。

 王太子妃ではないとはいえ、第二王子の婚約者が長期留学は出来ない。

 私は両親や伯母や叔父に【思考誘導】を使いこの国にとどまる事にした。

 尤も私の力は弱く、精々一年したら解ける。

 確か前世の私を殺した【水の聖女】の魅了も一年で解けるはずだわ。

 あの女は魔術で大量の水を出す事が出来た。

 そのからくりは、王家から盗んだ魔道具で水を出しているに過ぎなかったが。

 魔道具が盗まれて、オアシスが干上がり、そんな時あの女は【水の聖女】として現れたちまち干上がったオアシスを満たした。

 思えば魔道具を盗んだのは王弟だったのだろう。

 王弟は側室と護衛騎士との間に生まれた不義の子で。

 いつだって夫を妬んでいた。

 私の夫は魔道具を作る才能もあって。

 盗まれた魔道具も夫が作った物だった。

 そんな心の隙に入り込み王弟に魔道具を盗ませ【水の聖女】として王家に入り込んだあの女。

 そして……王を毒殺して私に罪を擦り付け王妃に収まった。

 その後何が起きたのかは分からないが。

 古い書物に載っている伝説では神の怒りを受け。

 国は水没したという。

 大方魔道具が暴走したのだろう。

 王家の血筋でなければあの魔道具は扱えないのだ。

 王弟ダマスカスに王族の血は入っていない。


 カタリナはあの偽聖女の生まれ変わりだったのだろうか?


「大丈夫だよ。あの女は処刑された」


 ミノス王子が私の耳元で囁く。


 《君と同じ処刑方法で殺されたよ》


 ミノス王子はグアハラーザ語を喋った。


 《ミノス王子‼ なぜ? グアハラーザ語を喋れるのですか‼ 貴方は……カタフェア王?》


 よく見るとどことなく前世の夫と面影が似ていた。


 《薔薇のステンドグラスがある図書館を覚えているかい?》


 《ええ。ええ。覚えているわ。テンペトゥーラ図書館で、貴方は『都会のウサギと田舎のウサギ』を読んでくれた》


 《会いたかったカリマー。私の愛しい人》


 《ごめんなさい。私はあなたを守れなかった》


 《いや。君のせいじゃないよ》


「エリザ? 王子?」


「ミノス王子? エリザあなたたちは……どこの言葉を喋っているの?」


 叔父と伯母は困惑して私達を見つめる。

 それはそうだ。

 いきなり王子と私が異国の言葉を喋り出して手をつないで見つめ合っているのだから。


 私達は叔父と伯母の顔を見て笑い合った。

 何処から話せばいいだろう。

 私達の前世の話を。





 ~ Fin ~



 ***************************

  2020/11/15 『小説家になろう』 どんC

 ***************************


    ~ 登場人物紹介 ~


 ★ エルザ・ウエントウス (17歳)

 主人公。ミステリア国伯爵令嬢。

【思考誘導】のスキルを持つ。そのスキルを使い隣の国に留学して祖母の看病をする。

 前世の夢を思い出し、嫌な予感がしたため、強引に隣の国に逃げた。

 前世はグアハラーザ国の王妃。王を毒殺したと無実の罪を着せられて殺される。


 ★ ラオス・ミステリア (18歳)

 エルザの婚約者。ミステリア国の第二王子。

 仲は悪くなかったが、浮気者。

 カタリナに媚薬を盛られて廃人になる。


 ★ カタリナ・カペー・ベレッセ (17歳)

 ピンクの髪に紫の瞳。前世と同じ姿をしている。

 【魅了】と媚薬を使いラオスとラオスの取り巻きを虜にする。

 前世の砂漠の国と違い水が豊富なため水の魔法はあまり役に立たない。

 その為媚薬を使う。媚薬の扱いを間違えて王子と取り巻きは廃人となる。

 ラオス王子を踏み台に王太子に近づくが魔道具が【魅了】を阻む。

 魔道具のメンテナンスの為に来ていたミノスがカタリナの正体に気付き、彼女の罪を暴き処刑する。

 前世は【水の聖女】魔道具の暴走により溺死した。


 ★ ミノス・グラッソ (20歳)

 グラッソ国の第五王子。魔道具を造る天才。

 第五王子なのでお気楽に趣味の魔道具を作っているうちに前世を思い出した。

 自分が毒殺された事を思い出し、王妃がどうなったのか【過去視】の魔道具を作り出して処刑されたことを知る。自分が転生したなら【水の聖女】と王妃と弟も生まれ変わっているかも知れないと探していた。ミステリア国に【水の聖女】を見つけて、罪を暴き王妃と同じ処刑方法を取る。

 前世はグアハラーザ国の王。大量の水が湧き出る魔道具を作り出し王族にしか使えない様に細工していた。


 ★ カタフエア王の王弟 

 側室が浮気して出来た子供。カタフエアを妬んでいた。

 王位欲しさにカタフエアを毒殺して罪を王妃カリマーに着せる。

 水が湧き出る魔道具を盗み、【水の聖女】に渡し偽の奇跡を演出して王位に収まろうとするが、魔道具が暴走して王都が水没して溺死する。人間には転生していない。


 ★ エルザの祖母

 王子の母を持つ王族。かなりな財産と城と領地を持つ。

 エルザには高額な装飾品が譲られる。


 ★ エルザの伯母と叔父

 この一族は仲が良い。


 ★ グアハラーザ国

 砂漠の国。グア砂漠のちょうど真ん中に位置する。

 東と南の中継点である為、栄えていたがオアシスの水が減り始めたので、カタフエア王が魔道具を作り出した。しかし王弟が魔道具を盗んだため、終末を迎える。


 ★ テンペトゥーラ図書館

 グアハラーザ国にあった図書館。薔薇のステンドグラスがあってとても美しい図書館。

 エルザの夢の中に出てきた。幼いエルザがカタフエア王子によく絵本を読んでもらった。







最後までお読みいただきありがとうございます。

感想・評価・ブックマーク・誤字報告よろしくお願いします。

ラオス王子は嫁が出産で実家に帰っていたら浮気するタイプ。

不実で痛い目に見ましたね。因みに彼は前世の王弟ではない。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ひょいひょい謎の「グレゴロス国」が出てきますねw
[気になる点] 『 そのからくりは、王家から盗んだ魔道具で水を出しているに過ぎなかったが。』 と書いてしまうと、 『 大方魔道具が暴走したのだろう。  王家の血筋でなければあの魔道具は扱えないのだ…
[一言] 不実も外道も、今世は片がついてスッキリ♪(〃∇〃) 良かった♪ヨカッタ♪ (^^)v
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