ノースリーブ少女と長袖の少年
少女はノースリーブの白いワンピースを着ている。
だって7月だから。
まぁ、当然のことではある。
少年は反対に黒い長袖のカーディガンを着ている。
7月だが、だって寒いからだ。
黒いマフラー、黒いカーディガン、黒い長ズボン、黒縁メガネ、黒いボサボサ頭。
それが少年の夏休みのスタイルであった。
少年は夏でも寒かった。
少年は夏休み初日に家出した家出少年。
少年は大きな橋の下の川に飛び降りようとした。
それを助けたのは、少女…ではなく、橋の下にいたホームレスだったけれど、それを見ていた少女と少年は結果的に友達になった。
少女は、親が仕事で帰ってこない淋しさを抱えていたのと、少年への同情により、居候をこっそり認めた。
かくして家出少年は、ノースリーブの少女の立派なお家にこっそり居候することになった。家出する間だけ。
少年は、寒かった。
まだ7月だけど、いつもとても寒かった。
母親はもういない。酒癖の悪い父親と二人暮らしして約二年半。
中2のころから、もうずっと寒い。
マフラーが手離せない。
中2のときに母親が突然出ていってから、もうずっと寒い。
少年の左手首にはいくつもの裂傷。
少年のマフラーには少年のフケが。
少年の目の下にはいつもクマがのっかっている。
少女は、それらにすべて気づいている。
少女の肩にはサラサラのミディアムロングヘアー。
少女の腕は傷一つない白い腕。
少女の瞳にはキラキラとした輝きと、少しの淋しさ。
少年と少女は、まるで真逆。
だけど、出会った。
少年は、まだ少女の顔をまともに見れないけれど、少女はハッキリと少年を見ている。
少女の心は白いワンピース。
少年の心は黒いマフラー。
少年は、学校にも家にもいたくないのに、
知り合ったばかりの他人の少女の一軒家にいるときが一番落ち着く。
夏の日、夏の空。
少年は、少しずつ あつくなっていく。