表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

もうひとつの昔話(パロディ)

のっぺらぼう(もうひとつの昔話 33)

作者: keikato

 吉兵衛という独り者の男がおりました。

 この夜。

 吉兵衛は堀川端にある一軒の蕎麦屋に向かっていました。その蕎麦屋の女将に惚れこみ、口説き落とすために通っていたのです。

 ですが、なかなかうんと言ってくれません。

――今夜こそは……。

 この女将。

 美人ではないが気立てがよく、吉兵衛はぜひ自分の女房にと考えていました。


 堀川に沿って淋しい夜道を急いでいますと、若い女が柳の木の下にしゃがみこんでいました。

 歳の頃は十七、八。裕福な家の娘なのか、文金島田の振袖姿です。

――おやっ?

 女は泣いていました。

 堀へ向かって手を合わせているところからして、これはどうみても身投げです。

「これ、早まるでない。どういうわけか話してごらんなさい」

 吉兵衛は背後から帯をつかみました。

「おじさん、こんな顔でも話を聞いてくれる?」

 女が振り向きます。

「ぎゃっ!」

 吉兵衛は帯をはなすと、その場でひっくり返ってしまいました。

 女には目も口も鼻もありません。顔がのっぺらぼうだったのです。

「ねえ、これも見て」

 女は尻もちをついている吉兵衛の前に立ち、着物の裾をつかんで前を大きく開いて見せました。

「わっ!」

 喜兵衛は提灯を放り投げ、一目散にその場から逃げ出したのでした。


 無我夢中で走っているうち、女将の蕎麦屋の灯りが見えたので、吉兵衛は急いでかけこみました。

 女将が笑顔で出迎えてくれます。

「あら、吉兵衛さん。そんなにあわてて、いったいどうされたんですか?」

「で、で、出たんだよ」

「おや、なにが出たんでしょう?」

「の、のっぺらぼうだよ」

「のっぺらぼう?」

「ああ、文金島田、振袖姿のな。で、そいつの顔には目も口も鼻もなかったんだ」

「まあ!」

「それも野郎だった」

「あらっ、振袖姿なら女では?」

「いや、あいつは男だった」

「でもね、のっぺらぼうだったら、その人が男か女かわからないんじゃ?」

「野郎、着物の裾をつかんで開いて見せたんだ。それもオレの目の前で」

「見せたって?」

「あ、あれだよ。だから、あれ、あれだよ」

 惚れた女将を前にして、吉兵衛の口調がしどろもどろになります。

「それって、もしかしてこんなものでした?」

 女将がいきなり着物の裾をつかみ、それから前を大きく開いて見せました。

「吉兵衛さん、こんなわたしでも女房にしてくれます?」

「ぎゃっ!」

 目の前にぶら下がったものを見た吉兵衛、その場でひっくり返って気を失ってしまいました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 「のっぺらぼう」の作者もやられた!と思うでしょうね。主人公にとって、顔がないというより、股間にないはずのものがあるということが、いちばんの怪談だったかもしれませんね。笑わせていただきました。…
[一言] 顔がないよりも、ぶらさがってる物におどろいたんですねw クスっと笑える、大人怪談ね
[良い点] まさかの怪談話がっ!! 流石でございます、参りました。 m(_ _)m♪♪
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ