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『どうやら、誰かにつけられているみたいです』


 酒場を出て少し歩いたところで、エインからこんな報告があった。

 私は歩調を変えないように気を付けながら、声を出さずにエインに問いかける。


『酒場の誰かが付いてきたってことね? 一度宿に戻ろうと思っていたのだけれど、やめたほうが良さそうかしら?』

『はい、酒場からです。善意でこっそり見守りに来たって可能性もありますが、それでも宿に戻るのは避けたほうが良いですね』

『こちらから接触してもいいけれど、しらを切られたら困るわよね』

『だとしたら、ギルドに行きますか。どのみち行かないといけませんし、追跡者が何かしらアクションを起こしそうな事態には遭遇するはずですしね』


 少なくとも、私達は何も悪いことはしていないのだけれど、どうしてこう厄介事に巻き込まれるのだろうか。釈然としないが、今はともかく動くしかない。

 幸か不幸か、ギルドと酒場は、何かあった時すぐに連絡が取れるように、そこまで離れていない。

 途中で寄り道もしていないので、10分もしないうちにやってきたギルドは、王都だけあってとても大きかった。


 入り口は2つあって、1つが依頼者用のもの、もう1つがハンター用のもの。

 曰く、依頼者用の扉には、国王の使いもやってくるのだとか。ギルドは、国をまたいで存在する中立組織だから、国王であってもおもねる必要はないという表れなのだろう。

 国と協力することはあっても、国の下につくことがないのがハンター組合だ。


 ハンター組合の本部は、大陸中央にある非干渉地帯と定められたところに建っている。

 ここに行くためには、最低でもB級ハンターになる必要がある。逆に言えば、B級以上であれば、簡単に国を出ることができる。

 なんでも、かつてB級以上のハンターが、戦争で使われたらしく、国外に逃げようとしたハンターを厳しく罰した国があったために、作られた決まりなのだとか。

 詳しい話はよく知らないけれど、B級以上を国内にとどめたいなら、それ相応の待遇をしろということらしい。ハンターギルドがなくなれば困るのは国なので、この条件をのまざるを得なかったのだろう。


 そういうわけで、王都のギルドに入ってみたのだけれど、雰囲気は他のところとあまり変わらない。

 確かに広いけれど、カウンターがあって、掲示板に依頼が張り出されていて、何グループかのハンターが屯していて、女子供である私はとても浮いてしまう。


『これからどうしようかしら』

『受付に行くか、どんな依頼があるかを眺めるかでしょうか。

 何なら、今からいけそうな依頼を見つけてもいいかもしれませんね』

『そうなると、依頼よね。どういったものがあるか、興味があるもの。

 ところでエイン。追跡者は、入ってきたかしら』

『入ってきていますね。やはり、ギルド関係者でしたか』


 壁一面に、ランク分けされて、依頼が張り出されている。

 G級から始まって、B級の依頼までが壁に貼られていて。A級以上は、受付で斡旋するらしい。

 数が多いのは、E級やD級だろうか。ほかの町で見るよりも、C級やB級も多い。集まればC級にもなるフォレストウルフが出たとはいえ、このレベルの魔物は珍しいはずだけれど、どうしてCやB級の依頼も多いのだろうか。

 内容を確認しようとC級の依頼が張り出された掲示板に近づこうとしたら、「おい嬢ちゃん」と声をかけられたので、感情を出さずに返事をする。


「何かしら?」

「ここは子供の遊びばじゃねえんだ。帰んな」

「これでもハンターなのよ。放っておいてくれる?」

「だとしたら、嬢ちゃんが行くのはあっちだろ。

 そんなこともわからないのか? だったら、俺様が手取り足取り腰取り教えてやらんでもないがなあ」


 私よりも一回りも二回りも大きい男は、碌に手入れもしていないのか、服装はボロボロだし、髪もぼさぼさ。元が不細工なのか、馬鹿にするような卑下た顔をしていて、いやらしい目を向けているので、嫌悪感が高まっていく。

 強そうな感じもしないし、E級かD級といったところだろうか。彼の仲間と思しき人たちも後ろにいるが、ニヤニヤと私達のやり取りを見ている。


 こういった輩は、私が何を言っても聞いてくれないので、早くあしらいたいのだけれど、今回はこうやって因縁付けられるのが目的だし、あしらうにも手順がある。

 ハンターの証であるカードを下品な男に見せつつ、先ほどと似たような言葉を繰り返す。


「これでもC級ハンターなのよ。放っておいてくれる?」

「嬢ちゃんが、C級だあ? その証も本物っぽいが、偽装カードは永久追放食らうから、やめておいたほうが良いぜ?」


 男が大きな声で言い、周りから笑いが生まれる。


「本物なのだけれど、まあ、信じてもらえないとは思っていたのよ」


 冷静に返す私が意外だったのか、何か感じるものがあったのか、男の瞳に少し知性が宿った。

 何やら、体目当てのようだった先ほどとは違い、何かを探るように私を見る。


「その歳でC級ってことは、相当優秀な職業をもらえたってことだろう? 言ってみな。

 そしたら、嘘じゃないって、信じてやるぜ」

「そうする必要はないと思うのだけれど。あなたに、認めてもらう利点はないもの」

「じゃあ、ここを通すわけにはいかないな」


 ニヤニヤと男が通せんぼを続けたことで、一応排除してもいい段階になったのだけれど、追跡者はどう動くのかしら。

 そう思っていたら、後ろから「歌姫さん」と声がかかった。

 声がした方を振り向けば、この場にはそぐわない、こぎれいな格好をした線の細い14~15歳ほどの男性が立っていた。

 優男といった感じの風貌は、いよいよ一般人にしか見えない。


 男に対する考察は置いておくとして、今の状況はあまり気持ちがいいものではない。

 私の職業が歌姫であると――というわけでもないのだけれど――バレるのは、ある意味で保険になるので問題ないが、こんな風に不特定多数がいる中で職業を暴露するというのは、ハンターによっては致命的になる。

 むしろ、普通"歌姫"だとバレたら、人として致命的だ。


 歌姫とは、歌を歌うことに関する職業の中で、最上位だといわれている。だけれど、戦いに役に立たず、生活必需品の生産にもかかわらない、娯楽をつかさどる職業は差別される傾向にあるのだ。

 その中でも、"姫"や"王"を冠する、本来その職の最上位とされるもののほうが、差別対象としては上になる。だから、こういった職を持つものを"不遇姫"や"外れ姫"などと、蔑称で呼ばれる。


 その中でも、歌姫は不遇姫の代名詞とも言われるほど、外聞が悪い。

 歌姫は上手に歌を歌えるだけではなく、支援魔術のように、周りの存在を強化することができる。

 その強化率は、支援職と呼ばれる後衛が使うよりも高く、歌い続けていれば魔力が減ることもないから、継続力もあるのだ。

 しかしその支援範囲は、声が聞こえるものすべてに及ぶ。


 つまり、敵味方関係なく強くしてしまうため、結局何も変わらない。

 微調整なども細かくできて、意外と便利なのだけれど、歌姫の能力を事細かに調べたことがあるのは、私達くらいだろう。

 調整はできても、声が聞こえる範囲というのは、変えられないというのも大きい。


「何の事かしら?」

「貴女の職業ですよお嬢さん」


 誤魔化してみたけれど、男はまるで意に介さず、私が歌姫であるという宣伝を続ける。

 この優男の言葉に、水を得た魚のようになったのは、さっきまで私に詰め寄っていたハンター。

 面白いおもちゃでも見つけたかのような顔をして、ギルド内にいるすべての人に聞こえるような、大声を上げた。


「聞いたか? 職業歌姫が、C級ハンターだとよ。

 C級どころか、G級も満足にこなせないんじゃないか?」


 ハンターの男に呼応するように、辺りから私を嘲笑する声が聞こえてくるけれど、ここにいるどれくらいが私より強いのかしら。

 そして、なんで暴露した優男は、顔を青ざめているのだろうか。まさか、こんな状況になるとは思っていなかったのだろうか。


「おい、嬢ちゃん。さっきは舐めたこと言ってくれたよな」

「事実しか言ってないのよ。本当に」

「お前、ふざけんじゃねえぞ!」


 何を怒ったのか、ハンターの男がつかみかかってくるので、ダンスでもする要領で、タンタンタンとステップを踏み、男の足を蹴飛ばして転ばせて、腰に下げたナイフを取り出し、その首に当てた。

 騒いでいたはずの人たちは、いつの間にか静まり返っている。

 倒れている男は、何があったかわからないように呆けていたが、理解したのか忌々しそうに私をにらみつけた。この状態で凄まれても、滑稽なだけだと思うのだけれど。


「G級もこなせない歌姫に負けた貴方は、一般人以下ってことね」

「こんな弱弱しい力で、何を勝ち誇ってん……って、ぎゃああぁ」


 構えていたナイフで、利き手と思われる方を切りつけた。

 別に健を切ったわけでもなければ、切断したわけでもないし、治療魔術でもかければすぐに治る範囲だとは思うけれど、これくらいで大声をあげてハンターをやっていけるのかしら。

 ただ、血は流れているので、放置しておくのもよくないだろうけれど。


 それはこの男の仲間がやってくれるだろう、そう思っていたら、「おい、ヴァルバ」と仲間と思しき一人の男ががヴァルバと呼んだハンターの男に近づく。「このガキ」と私をにらんできたので、ヴァルバを切り裂いたナイフを投げつけた。

 仲間の男の顔の真横を飛んで行ったナイフは、髪を少し切ったらしく、はらりと宙を舞う。

 さてどうしたものかと、思ったところで『替わってください』とエインの声がした。

 素直に体の主導権を渡すと、エインは優男をにらむ。そして、何かを言おうと口を開いたところで、ギルドの奥から壮年の男が出てきた。髪は白髪が混じっていて、ハンターほど体は大きくないけれど、目に力がある。


「おい、ヴァルバ。お前ら、またトラブルを……って、どういうことだこりゃあ……」


 いまの状況を客観的に見るとすれば、成人にも達していない女の子を前に、男が1人血だらけでうめいていて、その隣に呆然とした男がいて、さらに優男が女の子ににらまれ声も出せなくなっている。

 あとは、それを遠目に見ているといった感じだろうか。

 奥から出てきたということは、このギルドでも上位の者、もしかするとギルド長だろうか。壮年の男は、困ったように頭を掻き、職員の1人に指示を飛ばす。


「誰か説明してくれ」

「俺がしますよ」

「おいシャッス。お前がいるなら、こうなる前に止めてくれよ……」


 壮年の男の声に応えたシャッスと呼ばれた男のほうをエインが見ると、酒場で相手をしてくれていた、パーティのリーダーが立っていた。

 エインが特に驚いていないところを見るに、最初から気が付いていたみたい。

 シャッスは、エインのほうを見ると「お嬢ちゃん、さっきぶり」と軽く手を挙げた。


「自分から出てきてくれて、ありがとうございます」

「やっぱり、俺がいたことに気づいていたか。本当、騙されたよ……」

「別に騙していないですよ。年齢も見た目通りだと思いますし」

「シャッス、この子は知り合いか?」


 エインとシャッスが話していると、しびれを切らしたように壮年の男が話に入ってくる。

 この騒動を終結させるためにここにいるのだろうから、当然といえば当然か。それよりも、シャッスはギルド側から、かなり信頼をしてもらっているらしい。ギルド長にいじめられたら――というのも、あながち嘘ではなさそうだ。

 そういった人と、既知になれていたというのは幸運だ。というよりも、エインの保険が生きてきている証拠だろう。


「今酒場で話題沸騰中の子ですよ。それよりも、ギルド長。覚悟しておいたほうが良いですよ。

 この子、かなり頭回りますからね。見た目通りで相手していたら、たぶん痛い目見ますよ」

「この子ではなく、シエルメールです。次に会ったときには、名前を教えるって言いましたよね。

 やっぱり、会えました」

「はっはっは、違いない。シエルメールお嬢ちゃんは、本当にすごいよ」


 そう言って、シャッスが優男をにらみつける。たぶん殺気とか放っているんだろう。

 既に青ざめていたけれど、優男は今度はがくがくと震えだした。

 ギルド長は何かを察したのか、優男を見ると「トルト……お前もやらかしたのか……」と遠い目をする。それから関係者を集めて、奥へと連れて行ったが、ヴァルバだけは医務室に行ったとかで一緒ではなかった。


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