表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/48

08 少女と人形 2


 瓦礫の陰から姿を現したエルマが、笑顔でオフェリエに走り寄る。

 

 「エルマちゃん、ここは、一体……」

 「ええとね、魔獣に襲われて焼けちゃったお邸なんだって。あ、あのね、本当は、危ないから近づいちゃ駄目だって言われてるんだけど……」

 

 説明するうちに罪悪感に襲われたらしく、エルマの声は尻すぼみになった。

 

 「そうね、今にも崩れてきそうな場所がいくつか見えるわ」

 

 階段は一部崩れ、奥の廊下は半ば塞がりかかっている。

 

 「……やっぱり、出て行かなきゃ駄目?」

 「その前に、教えてくれる? その人は誰?」

 

 エルマの質問への答えは保留して、オフェリエは青銅人形のことを尋ねた。エルマは気を取り直し、屈託なく説明を始める。

 

 「うん、この部屋の奥に倒れてたの。大きなお人形さんだなって思ったんだけど、触ったら動いたの」

 「いや、なんで人形が動くんだ?」

 「あれは魔術師が使役する人形よ。魔力で動くの」

 

 レヴァンのもっともな疑問には、オフェリエが答えた。

 

 「魔術師? この邸の主か?」

 「いえ……どうかしら。エルマちゃん、他の人に会ったことはある?」

 「ううん。このお邸には、あの人形のお兄さんだけだよ」

 「名前はあるのかしら?」

 「わからないんだって。だからピロスって呼んでるの」

 「そう……」

 

 それきり、オフェリエは黙り込んだ。エルマは小首を傾げてオフェリエを見上げ、青銅人形のピロスは微動だにせずに立っている。

 それならと、レヴァンが口を開く。

 

 「とりあえず、ざっと見て回ってくる。危なそうなところがないかどうか」

 

 秘密基地的な遊び場を取り上げるのは可哀想だというレヴァンに、オフェリエも頷いた。

 

 「……そうね、とりあえず様子を見てみましょう。エルマちゃんは……」

 「ここに残ってていい?」

 「ここに? でも……」

 「この辺りなら大丈夫なんじゃないか? 出口も近いし」

 「……そうね。崩れそうになったら、すぐに外に出てね?」

 「うん!」

 

 元気な返事をしたエルマをピロスと玄関ホールに残して、オフェリエは二階、レヴァンは一階の探索を開始した。

 

 

 

 二階担当のオフェリエは、寝室、娯楽室と回ったが、家具に埃が降り積もっているくらいで、危なそうなところはなかった。

 次に覗いたのは図書室で、何気なく本のタイトルを読んでみれば、その多くは魔術書であった。

 

 試しに一冊引き抜いて、ざっと目を通してみる。内容は、魔術の基礎から、オフェリエの知らない最新研究報告と、なかなかの充実ぶりだった。

 中でも興味を引かれたのは、人形を自律させる魔術だ。エルマが見つけたピロスは、この魔術によって作り出されたのだろう。

 

 「魔力を持った石、魔石を心臓部に設置し、動力源とする……」

 

 オフェリエが探しているのも、魔石だ。もし本当に青銅人形の動力にされているなら厄介だ。何しろ確認するには、その心臓部を切り開かなくてはならないのだから。

 

 「もし、彼に入っているとしたら……」

 

 呟いて、オフェリエは緩く頭を振った。

 エルマからピロスを取り上げるようなことはしたくなかったが、本当にそこに、オフェリエの求める魔石が埋まっているのだとしたら――一人の少女を悲しませたとしても、手に入れなくてはならない。それが、オフェリエの務めだ。

 

 「…………」

 

 オフェリエは本を棚に戻すと、玄関ホールへと引き返した。

 階段を下りながら二人を探せば、中央付近で、たどたどしいながらも楽しげに踊る姿が見えた。

 青銅人形は、シーツをマントのように羽織って。エルマは、昔の住人の物か、ふんわりしたドレスに着替え、頭にはちょこんとティアラも乗せている。

 

 オフェリエに気付いたエルマが満面の笑みで手を振ってきたので、微笑んで手を振り返し、通り過ぎる。

 レヴァンを探して歩いていると、がたごとと音が聞こえてきた。

 

 「レヴァン?」

 

 部屋に入って見回すが、レヴァンの姿はない。が、左手側の床に、大きな穴が開いているのに気がついた。

 穴の縁から覗き込めば、地下室に当たるだろうそこにレヴァンがいた。

 オフェリエに気付いたレヴァンが、見上げて笑う。

 

 「おう、オフェリエ。上はどうだった?」

 「上のほうは案外綺麗だったわ。それより、ねえ――この穴、あなたが開けたんじゃないわよね?」

 

 「まさか。崩れてた……っていうより、壊されてたんだよ」

 「どうやって降りたの?」

 

 オフェリエも降りようとしたが、階段も梯子もなかった。

 

 「そこらへんの瓦礫を足場にして」

 「…………」

 

 事も無げに言われ、オフェリエは押し黙った。

 確かに、床が落ちた破片が所々で積み重なっているが、見るからに不安定で、足を置いた途端に崩れてしまいそうだ。

 

 「……ねえレヴァン、そこには何があるの?」

 「色々あるぞ。本とか、実験器具っぽいのとか、石とか」

 「!」

 

 石、と聞いた瞬間、オフェリエは躊躇いを捨てた。

 穴の淵に手をかけ、見た感じ安定していそうな瓦礫の一つに足を乗せる。

 大丈夫そうだったので体重をかけたところで、ぐらついた。

 

 「っ」

 

 咄嗟に淵を掴む。がらがらと、近くの瓦礫が一山、崩れる音が響いた。

 

 「大丈夫かー?」

 「……多分」

 

 軽い感じの問いかけに、自信なく返しながら、次の足場を探す。

 崩れやすそうだが確実に足が届くほうか、少し遠いが安定していそうな足場にするか。

 迷った末に、遠いほうに決めた。

 出来るだけ身を乗り出したが、やはり足りないので、覚悟を決めてジャンプ。

 

 「っ!?」

 

 だが、ジャンプのための踏み切りが、足場をぐらつかせた。体勢が崩れたことで着地点もずれ、オフェリエの体は落下する。受身も取れない。

 

 「っ」

 

 衝撃を予想して、オフェリエはぎゅっと目を瞑った。

 

 「おっと、大丈夫か?」

 

 だがオフェリエを迎えたのは、レヴァンの力強い両腕だった。オフェリエの体を、難なく受け止めた。

 

 「あ……ありがとう」

 

 予想外のフォローに目を瞬かせながら、オフェリエは礼を言った。

 

 「どういたしまして」

 

 にっと笑って、レヴァンは丁重にオフェリエを下した。

 

 「…………」

 

 オフェリエは、そっと胸元に手をあて、高鳴る鼓動を静めようと、深く呼吸した。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ