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記憶にないイベントは想定外です

 放課後、モーガン先生に呼ばれていた私は第3教諭室を目指していた。気乗りのしない気持ちを持ちながら。


 増える一方の貴族。そのの子供たちをまとめてこの学園で見ているため、それに比例し教師の数も多い。と言うことはいわゆる職員室の数も多い。

 第3教諭室は私たち1年を主に担当している教師が使っている部屋である。


 当たり前のように重厚な作りの扉を前に私は小さく深呼吸をする。

 呼ばれる心当たりなど無いし、やはり職員室に赴くと言うのは些か緊張する。


「失礼いたします」


 コンコン。と獅子を模したドアノッカーを2度ほど鳴らし扉を開ける。

 教諭室と言う名から、日本の職員室みたいにデスクが並び空きの教師が居て、整然としつつ何処か騒がしい場所を想像していたが、やはりここも貴族向け学園だった。


 なんで部屋の中に部屋があるのか。


 ドアプレートには各教師の名前があり、その横にはまたもドアノッカー。入り口のドアノッカーは撤去した方が良いのではないだろうか。


「モーガン先生。クロエ・アッカーソンです」


 控えめにドアノッカーを鳴らし名を名乗ると、中から「どうぞ」と言う声がした。

 失礼します。と声を掛け扉を開けると、目の前にはデスク。デスクの手前に小さいながらテーブルとソファがあり、日本で言うところの校長室のような作りだった。


「どうぞこちらへ」

「はい。えっと、失礼いたします」


 やはりやけに沈むソファに腰をおろすとモーガン先生は私の前に紅茶を置くと向かい側に腰をかけた。


「突然呼び出して申し訳ありません」

「いえ。何かありましたか?」

「アッカーソン家は代々、ルーリルの街を治めているのは間違いは無いでしょうか」

「……はい。確かに当家は代々ルーリルを治めていますが、それが」


 モーガン先生の問いの意図がいまいち理解出来ない。が、確かにアッカーソン家が治めている街はルーリルで間違いないのでそれは肯定しておく。

 するとどうしてか、途端にモーガン先生の目が輝きテーブルに両手をつきズイっとこちらに体を寄せてきた。


「ルーリルにはヌエッタ炭鉱があったかと思います。ぜひ、その炭鉱を調査させては頂けないでしょうか!」

「…………え?」


 モーガン先生の話はこうだった。


 ルーリルの街外れにあるヌエッタ炭鉱は、非常に珍しい鉱石が見付かったことがあり、採掘者は喉から手が出るほどに調査したい炭鉱なのだ。しかしヌエッタ炭鉱はルーリルの資源である。そのため、アッカーソン家は採掘者たちの立ち入りを厳しく制限している。

 また、地質の歴史から見てもヌエッタ炭鉱は非常に興味深いらしい。しかし、地質調査もアッカーソン家のお抱えの学者しか出来ない。


「私にお父様に口添えして欲しいと言うことでしょうか」

「こんな願いを生徒にするなんて恥ずかしいうえに、準貴族でしかない私が烏滸がましいのですが、せめて少しで良いのです。あの炭鉱の地質を見てみたい」


 つり目気味の深紅の瞳に懇願の色が見える。

 まさかモーガン先生が地質マニアだったとは、ゲームでは無かった設定に若干引きつつも、私はどうすべきか暫し考える。

 


 ここで断るのは簡単だ。

 そしてここで断ったくらいで好感度の減少はたかが知れている。


 しかし


(モーガン先生も攻略対象の中では結構好きだったんだよねー)


 準貴族と言う立場を気にしてか常に敬語で話すモーガン先生は、しかし好感度が上がるにつれ少しずつ砕けた口調になる。

 名前もクロエ・アッカーソン嬢からクロエ様になり、クロエ嬢、クロエさん、そしてクロエと変化するにつれ、照れ臭そうに頬を掻くモーガン先生は正直言って可愛い。とても。


「許しが出るかは分かりませんが、お父様に聞いてみますね」


 だからこのお願いを断れなかった私は、たぶん悪くない。

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