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ゲームには居ないキャラクターです

 小屋の中に招き入れられると、そこは至るところに布や糸が散乱していた。男はちょっと待っててと言うと、テーブルの上の布を無造作に抱えると部屋のすみに山にした。


「俺はカイル。ファミリーネームは無い」

「……私はクロエ。クロエ・アッカーソン」


 年の頃はブラッドフォードと同じくらい。

 身長はブラッドフォードより高いから高身長の部類に入るだろう。褐色の髪は居るが、燃えるような真っ赤な髪はこの国ではあまり見掛けない。そして白に近い灰色の瞳も。

 ヨレヨレのシャツとだらっとしたズボン。ぼさぼさの髪。

 町で見掛けたら確実にスラムの人だ。


「クロエか。よろしくな」

「えっと、」

「馬鹿だが悪い奴じゃない安心しろ」


 チラリと横に座るブラッドフォードを見ると、ぶっきらぼうにそう言った。王族であるブラッドフォードがそう言うなら少なくとも無駄に警戒する必要は無いのだろう。

 私はゆっくりと差し出された手を握った。


「よし、じゃあクロエ。とりあえずドレス脱ごうか」


 ………………前言撤回。やっぱり警戒必要だわ。


「……ん? ああ! ごめん。そう言う意味じゃない。ドレスの汚れ、目立たなくするから着替えて欲しいんだ」

「あ、と、」

「こいつは手先が器用でな。ドレスの手直しなんてすぐだし腕も俺が保証する。安心して任せろ」

「うんうん。はい、とりあえずこれに着替えといて。着替えるのは隣の部屋ね!」


 押し付けられた洋服は無地のロングワンピースだった。

 それを手にしたまま居ると、ブラッドフォードに冷ややかな視線を向けられる。無言だが目は口ほどに物を言う。あれは早くしろと言っている確実に。


「お借りします」

「うん」


* * *


 着替えて汚れたドレスをカイルに渡す。

 自分ではちゃんと見えなかったが、背中の広範囲が黒く汚れていた。


 よくもまああの短時間にこんなに汚せたな。


「ぶつかってこの範囲よごせるとかプロだね!」


 なんて呑気に呟くカイルに思わず心の中で同意する。


「犯人に心当たりがあるならさっさとどうにかした方が良いぞ。面倒なことになる」

「そうですね。少し考えます」

「じゃあ今はドレスをどうにかしよう。きれいな紫なのにこんなになっちゃって可哀想に。背中切っちゃうねー」


 カイルはそう言うとこちらの意見を聞くこと無く、背中の汚れている部分をがっつりと切り出した。

 元々デコルテラインがしっかりと見えていたドレスだったので背中ががっつりと切られた今、胸元がペラペラだ。


 これからどうするのだろうかと思っていると、カイルは部屋のすみに置いてある布の山から同じような紫の布と、濃い紫のレースを出してきた。


「本当はとも布が良いんだけど、汚れてるの使えないから我慢してね」


 カイルは適当な紐で私の首回りを測るとその長さだけ布に書き込みハサミを入れる。


 ものの数分で出来上がったのは付け襟だった。


 次にドレスの胸元から背中の無事だった箇所までをはかり肩紐を作りドレスに縫い付ける。


「ちょっとこれ着て」


 そう言われてドレスに着替えるとカイルは肩紐を調節して背中側を縫い付けた。


 あとは慣れた手付きでレースを胸側に縫い付けると付け襟をつけレースを背中側に回しスカート部分に少し掛かる長さで切った。

 付け襟の後ろにはいつの間にかちゃんとボタンがついていた。


「よし、微調整するからまた着替えて着てねー」


 そう送り出された私は隣の部屋でカイルが手を加えたドレスを着ると鏡の前に向かい、息を呑んだ。


 背中側ががっつりと切られ肌の露出が多いにも関わらず、全く下品さがなく、濃いレースのおかげか適度に肌色が隠れて逆に上品に落ち着いている。


* * *


 微調整を終えてお礼はどうすれば良いかと聞くと、特に要らないと言われてしまった。


「ああ、でもまた来て欲しいな。クロエは俺の理想だから」

「理想?」

「うん。だからまた来て」

「良く分からないけど、良いのかしら。私が来ても」


 とブラッドフォードの方を向くと、ブラッドフォードは「別に良いんじゃないか。カイルが許しているのだから」と言う。

 なら良いのか。あんな隠し通路みたいな場所を通ってきたから特別な人間しか駄目なのかと思った。


「ふふ。待ってるね!」

「ええ、本当に有難うカイル」


 学園の中庭の奥、ひっそりと隠れた通路の左右にはバラが咲き誇る。その先には小さな小屋があり、そこに住むのはカイルと言う青年。


 どうしてこんなところに居るのか。そもそもあの小屋は学園の敷地なのか、何も分からない。


 そもそもカイルと言う青年は私の知るゲームには出て来なかった。


 彼は何者なのだろう。


 中庭に戻りながら私は前世の記憶を必死に手繰るのだった。

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