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急にルート突入なんてありえます?

「これは……?」


 「クロエ」も知らないタイトルだ。

 著者も、聞いたことがない。


「あまり知られていない著者の本ですが、とても分かりやすく書いてある私のオススメです」

「シリル様は美術品にもお詳しいのですか?」

「いや私はあまり。母と妹が好きで、その影響で少しだけ囓っただけです」


 ふむ。それは知らない情報だ。


 そもそも乙女ゲームで相手の父母が登場する事はほぼ無い。

 王子はまあ父は国王、母は皇后。出てくるなと言う方が難しい話だが、他のキャラクターで父母の話は無かったと思う。


「そうだったんですね。……有難うございます。シリル様のオススメ、探してまいります」

「一緒に探しましょうか」

「……え?」

「確か3階だったはず。クロエ嬢じゃ高い場所は届かないでしょ。お手伝します」


 シリルはそうして優しく笑うと、私の返事を聞かずに階段に向かって歩き出した。


 え、ちょっと待って。手伝う? え? 


「いやでも、シリル様のご迷惑では」

「問題ないよ」


 シリルが歩みを止める気配はない。

 私は慌ててその背中を追うことしか出来なかった。


* * *


「凄く分かりやすいですね。この本!」

「……役立ちそうでなりよりです」


 あの後2人で3階に向かい、目当ての本を探すべく本棚ひしめく阿呆みたいに広い室内を歩き回った。


 確かにあれを1人で探すのは無理があった。うん。素直にシリルに感謝である。


「本当に有難うございます。これで課題が進みます」

「……クロエ嬢は勉強熱心なんですね。何かあれば私の所においで。分かる範囲でお教えしますので」


 そう言って差し出された紙には「1-5C」の文字。


「これは」

「私の寮の部屋番号です」


 寮の部屋番号。


 これは各キャラクターのルートに入ると渡されるものだ。

 基本、生徒同士の寮部屋の行き来は許されているが、貴族学校ゆえに寮部屋に名前プレートなどは置いていない。

 男女の行き来で何かあっても大変なので、友人同士が部屋番号を教え合い、行き来するようになるのが通常だ。


 「クロエ」はルートに入るまで誰の部屋番号も知らない。

 図書室だったり教室だったり授業だったりで接点を持ち、お茶会や夜会に誘い合い仲良くなる。地道な努力の末、ルートに入ったキャラクターの部屋番号を知る事が出来る。

 まあ、芋づる式に他のキャラクターも知ることが出来たりするのだが。


「宜しいのですか?」

「……貴方なら。特に事前の連絡も不要なんですが、屋敷に帰ることも多いし、行き違いになるとクロエ嬢が不便ですよねえ」


 …………私はいつの間にシリルのルートに入ったのだろうか。


「うん。事前に連絡をくれれば貴方のご都合に合わせます。だから気兼ね無く連絡して来てください」


 いや、何が「だから」なのだ。私の都合に合わせるなんて。

 これがあれか、乙女ゲームなのか。いいのかそれで。


「有難うございます。しかしシリル様のご予定がある時はそちらを優先してください」

「……分かりました。しかし、遠慮はしないでくださいね」

「……はい。では甘えさせて頂きます」

「ええ」


 経営学の授業も始まっていない、創立記念パーティーもまだのこの状態で、私はどうやら色々すっ飛ばしてしまったらしい。

 と言うか、そんなに接点の無いこの時点で部屋番号まで知れてしまうのは良いのだろうか。

 乙女ゲームでももう少し段階を踏むのではないだろうか。


 そんな疑問を抱く私に、シリルはふと思い出したように


「そう言えば、手紙は届いてますか。創立記念パーティー、クロエ嬢も参加するでしょ?」


 爆弾を投下してきた。

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