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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

君のために俺が居る

作者: おおやん

「ちょっと、相談したい事があるんだ。いいかな?」

ある晴れた日曜日。俺は突然、同じ卓球部の結城俊ユウキ シュンに呼び出された。

特に断る理由もなく、切羽詰った様子の結城に、よほど重大な悩みがあるのだろうと思い近くの喫茶店に入った。

結城が他の誰でもでもなく、俺を選んでくれた事が単純に嬉しかった。

中に入るとクーラーが効いていて汗ばんだ肌に心地いい。

テーブルに着いて、適当に飲み物を注文する。

俯いている結城に視線を移すと今にも泣きそうな顔をしている。

「何かあったのか?」

そう尋ねると、バッと顔を上げて堰を切ったように話し始めた。

「実は……僕、杉浦君のこと好きになっちゃったみたいで。……前から気になってたんだけど」

注文したオレンジジュースに口をつけながら切々と杉浦に対する思いを語ってゆく。

「やっぱり、男同士だし……こんな気持ち迷惑だよね……」

結城がはぁ……っと、ため息を吐くたびに、俺の胸は締め付けられたように苦しくなる。

俺の気持ちには全く気がついていないんだろうな。

まぁ、薄々判ってはいたことなんだ。

結城のアイツに向けられる視線は特別だから。

切なさを誤魔化すようにアイスティをかき回す。

カランっと涼しげな音を響かせて溶けてゆく氷と一緒にこの思いも溶けてしまえば良いのに。

結城を元気付ける言葉を探しながら、そんな事を考えていた 。


結城を困らせたくない。

だから俺は、自分の思いをひた隠しにして、友達でいる事を選んだ。

結城は優しいから、知ってしまえば、きっと俺の気持ちに応えようとするはず。

あいつの悩む顔だけは、見たくない。

それはわかってる。

わかってるのに、二人でいると胸の奥に隠した想いが溢れ出してきそうで、平常心を装うので精一杯だった。

口では、

「頑張れよ」

とか言ってるが、心のどこかでは杉浦にふられて俺に泣きついてくる事を望んでる。

そんなある日の事、俺たちは偶然街で、杉浦とその幼馴染だと言う男が一緒に居る場面に遭遇してしまった。

ただの幼馴染だからというには違和感を感じてしまうほどに、二人の仲のよさを見せ付けられて、それ以来結城はすっかり塞ぎこんでしまった。

「結城……。最近元気ないけど、なんかあった?」

「ううん。……なんでもないよ、気にしないで」

仲のよい友達の声掛けにも、抑揚の無い返事が返ってくる。

「おい、結城。話がある」

そんなアイツの姿を俺はこれ以上見ていることが出来なくて、人気のない屋上に呼び出した。

「な、なに? 藤川君」

「いつまでもウジウジ悩んでるなよ」

「え?」

俺の言葉に、結城は驚いて顔を上げた。

「お前も男だったら、はっきり告ったらどうなんだ?」

「で、でも……杉浦君には……」

「だったらどうなんだ? それ、本人の口から聞いたのか?」

俺の問いに、結城は静かに首を振る。

「もしかしたら、違うかもしれないだろ? 男ならいつまでも悩んでないで、想いを伝えて来いよ」

「そうだけど、僕……怖い。杉浦君にこんな感情持ってるって知られて嫌われるのが……」

眉根を寄せて、悲しそうな顔をする。

そんな顔は見たくなくて、俺は堪らずその小さな身体を抱きしめた。

「ふ、藤川君!?」

俺の行動がよほど予想外だったのか、結城はしばらく固まって動けずに、小さな瞳を見開いて何が起こったのか理解しようとしているみたいだった。

「怖いんなら……あいつへの想いなんか捨てちまえ」

「……え!?」

「どっちかしかないだろ? 告る勇気も無いのに想ってても仕方がないだろ? 男なら、ぶつかって行けよ!」

そう結城に言いながら、自分自身にも言い聞かせる。

そうだ……告る勇気も無いのに、想ってるなんてばかげてる。

そう簡単に思いを忘れる事が出来ない事も、告るのに物凄い勇気がいる事も俺は知ってる。

知ってて……自分が出来ない事を結城にさせようとしてる。

俺は、最低な人間だ。

自分には勇気が無いくせに、それを結城に求めてる。

しばしの沈黙。

俺にはとてつもなく長い時間に感じられた。


「……ありがとう。藤川君。僕、頑張って杉浦君に言ってみるよ」

「そ、そうか……」

パッと顔を上げた結城には久しぶりに見るさっぱりとした笑顔。

その笑顔に俺は不覚にもドキッとしてしまう。

「じゃ、僕……もう行くから……相談に乗ってくれてありがとう」

そう言って屋上の扉を開けようとする。

「あ、結城!」

「……なに?」

俺の手の届かないところへ行ってしまいそうな気がして、俺は思わず呼び止めた。

きょとんとした顔で振り向いた結城。

「……頑張れよ。俺は、いつでもお前の味方だから」

「うん!」

はにかんだ笑顔を見せながら、結城は階段を軽快な足取りで下りてゆく。


これで……いいんだ。

アイツのために俺はいる。

友達でも構わない。

傷ついた時に支えになれるように、いつでもここにいるから。


初夏の風を感じながら、俺はいつまでも結城の後姿を見送った。

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