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存分に戦え

※前話とは場面は変わりませんが視点が変更します。読みにくいかもしれませんがご了承ください。

 その微弱な電気信号を感知したのはアレウスだけでなく、先程まで当主から負傷した脚を踏みつけられていた結にも感知していた。


 ――『さあ、存分に戦え』


 一体この言葉が何を示すのか結には理解しかねていたが、現状がとある男によって覆させられたことだけは理解できた。


「白いゾオンエネルギーじゃと……?馬鹿な、それは高濃度のゾオンエネルギーを発生させるレギスの結晶でしか出力することができない筈じゃ。何故彼奴(きゃつ)がそれを!?」


「覚悟しろダグラマ、お前は俺がここで討つ」

 アレウスは壁を使いながら再びその腰を起こし、大胆にもダグラマに指を指し同道と公言する。

 ダグラマは何かに感付いたのか倒れている中立側の神官の横に立つルーシーに目を向けると、そこには俯き加減に顔を沈めながらも僅かにほくそ笑んでいた彼の姿を確かに確認するが、今はそれよりも眼前のアレウスをどうにかしようとするように視界を再びそちらに戻す。


「っ……調子に乗るなよ小童!!第五期雷神政権のG7も経験した(わし)に敵うとでも!?」


「確かに、あんたは屑だが実力は雷神家の中でトップだ。いくら俺が雷を放とうともお前の雷はそれを凌駕してくるだろう――」


 即座に神技の構えを取り『エレキブレス』を発生させたダグラマは、暗がりの稽古場を赤い雷光で照らしながらアレウスに雷撃を放つ。が


「効かねえよ……」


「何じゃと!?」

 アレウスによって放たれた不可視の雷光が序列という壁を打ち砕くように赤雷を打ち払うと、彼は踵を地面に踏みつけてそのままダグラマの元へと接近する。


「クソ……!!クソクソクソ……!!」

 その後もダグラマは自身の赤雷を迫り行くアレウスのもとへと放電するが、彼の周りを取り囲んでいた電磁シールドは序列二位の雷撃を反射し続けてついに手の届く範囲にまで距離を詰めた。


「観念しろ、ダグラマ!!」


「ふざけるな……!!」

 身の危険を察したダグラマはアレウスの雷が自身の身に到達する前に電磁シールドを張ろうとする。


「させるか!!」


「何!?」

 先程まで倒れていた結が跪きながらもダグラマの背中に抱きつくと、電磁シールドの内部から『レギオン』を放つことで術者を翻弄させ強制的に神技の発動を解除した。


「俺の雷が届かなくても――」


「や、やめ……」


「――俺達の雷なら届くだろ?」



 ______!!


 その後ダグラマは『インビジブル』と『レギオン』の雷に板挟みとなり、シールドも無効化されてしまったせいで直撃は免れなかった。


「ああああああ……!!」

 さすがのダグラマも序列入りの同時攻撃は体に応えたらしく、彼は結が手を離したと同時に稽古場の床へと崩れていった。


「やった……やったよアレウス!!私達当主を倒したんだ!!」


「うわ!ちょ、くっ付くな!」

 現当主派の代表であるダグラマを倒せた事に結は感極まり勢い余って彼に抱き付くが、アレウスは冷静に彼女の抱擁から離れようとするのだった。


「ごめんごめん、でも本当に良かった。これでアレウスの悲願が達成されたね……」


「……馬鹿、なに本人よりも先に泣いてんだよ。涙腺弱すぎだろ」


「だってえ、病室でアレウスの昔話聞いてから私ずっと頑張らないとって思ってたから……絶対にアレウスの為に勝ちたいって思ってたもん……」


「何だよそれ、お人良し過ぎるだろ」

 人の目も憚らず結は泣き顔をアレウスに見せると、彼もまた少し苦笑した感じで笑みを浮かべた表情を見せた。

 すると気絶していたはずのダグラマは突如として動き始め、まだ起き上がれないながらも床を背に付けながら二人を睨み付ける。


「何故じゃ、どうしてこうなった……(わし)が地を這い蹲るなど、あってはならぬはずなのに……」


「お前の負けだダグラマ、大人しく牢屋にでも閉じ込められていろ」


「……はは」

 するとダグラマは狂ったように不気味な笑い声を上げると、その表情からは今だ反省の意思が見受けられない他人を侮蔑するような目をアレウスに送っていたことが伝わった。


「思い出したぞ、イグニス・ヒストリアの事を。彼奴(きゃつ)は目障りな存在だったよ、言葉巧みに入家者達を丸め込み雷神家の左翼派として活動してきた目の上のタンコブだった。だから(わし)の仕出かしていた汚職事実を丸々着せてやって捨ててやったわ。これ程までに効率的なことはないからのう!!」


「……俺に謝る気はないのか?」


「小童に下げる頭など毛頭ないわ!!だが感謝ならしてやる、あの時は貴様の父が踏み台になってくれて感謝しているとな!!」


「―――」

 その時、ダグラマのあまりにも強引な態度に結も思わず業を煮やしてしまうが、アレウスは無表情のまま倒れている彼に指を指し示した。


「そうか、なら死ね」

 直後、アレウスは神技の構えを取り指先をダグラマの方へと向けると、指先から術式が浮かび上がり不可視の電撃が今も倒れている彼の左脚を貫いてみせた。


「があああ……!!」


「っ……!!アレウス!?」

 アレウスの雷撃はダグラマの肉を抉り、貫かれた左脚からは大量の血が溢れ出し始める光景を見据えて結も思わず驚嘆としてしまう。


「よくもまあそんな事が言えるよな、人の人生無茶苦茶にしておいて」


「が……!!」

 今度は右脚を撃ち抜く、アレウスの怒り狂った表情を窺った結も完全に萎縮してしまい彼の暴走を止めるべきかと戸惑いの念を抱く。


「ヒストリークだと……?今思えばふざけた名前をしておるな、ほとんどあのゴミのセカンドネームじゃろうが……」


「俺は、あの人の意志を背負いたかった!!だから名前の半分だけでも変えたくなかったんだ!!」

 そしてアレウスはダグラマの両腕を撃つと、今度は照準を彼の眉間へと向けようとした。その時__



 _____!!



「……!?」


「もう、やめなよ」

 ダグラマの命を奪おうとしたアレウスに結は平手で彼の頬を叩く。するとアレウスも一瞬何が起こったのかと呆然とした様子を見せ、直後に赤く腫れた自身の頬に手を当てた。


「何をする……?」


「それはこっちのセリフだよ。もうコイツはどう足掻いても罰せられるのに、アレウスはそれでも自らの手を汚してまでこんな屑を殺したいの?」


「お前には関係ないだろ……」


「関係なかったの?だってアレウスは私だけには自分の過去を話してくれたよね。だから私あなたを勝たせる為に戦っていたのに、雷神家を変えたいって思いは嘘だったの?全部自分の復讐の為に私に嘘をついたの?」

 そうじゃない。とアレウスは言いたげな表情をして奥歯を噛み締めるが、彼は結の質問責めに何一つ答えることができない様子でいた。


「私はあなたの復讐の為に協力したんじゃない!アレウスとアレウスのお父さんの悲願である雷神家を変えるっていう目的の為に協力したんだよ!?次期当主になりたいってのも嘘だったの?」


「俺は――」

 するとアレウスは言葉を詰まらせ、ダグラマに指していた指をゆっくりと下ろした。

 結も彼の気持ちが分からない訳でもない、だがそれでも人を殺してしまったら目の前にいる最も憎いと思った相手と同種になってしまうことを悟っていた。

 だからこそ結は、アレウスに向けて再度確認を取ろうとしている。


「勿論アレウスがコイツに復讐したいって気持ちは痛いほど分かる。私だって家族が殺されたらその人を殺したいって思えるほどに憎むかもしれない。だから最初の制止は警告、復讐をやめろなんて言わない、だけど、アレウスの復讐はもう終わっているよね?」


「っ……!?」

 ふと彼は我に戻ったかのように視界を下げて自身の手を見据え始める。

 そこには恐らく、自分が今まで信じてきたものや、大切にしてきたものを海馬の最奥から掘り起こし解答を導き出そうとしていたのだ。


 ____『―――』



 結の脳内にはテレパシー独特のノイズのような音が響き渡り、霞んだピントから何かの光景のようなものが浮かび上がった。


 ___『見て見てお父さん!また一つ覚えたよ!』


 ___『アレウスは覚えが早いな、将来はきっと有望な神になれるよ』


 ___『なら俺、お父さんみたいな神になりたい!』



 ――そしてその映像が途切れると、片目から頬を伝って涙を流していたアレウスの光景が結に飛び込んだ。



「ああ、そうだったな――俺、あの人みたいな神になりたかったんだっけ。なら人殺しなんてできないよ。だって父さんは、誰よりも優しかったんだから――」


「答えを聞かせてくれるかな、アレウス」

 感情を噛み殺すわけでもなく、激情を露にするわけでもなく、アレウスの全てが吹っ切れた瞬間はどこまでも静かなものだった。

 そして結もまた、全ての答えを導き出したはずの彼から選んだ選択肢を聞こうとする。


「俺は、次期当主として雷神家を変える。どうやら本当に、俺のすべき復讐は終わったみたいだったからな」


「うん、それでこそアレウスだよ。私の最強のパートナー!」

 結はこれまで以上にない最高の笑顔を露にすると、それを向かい合う形で見据えたアレウスは口角を少し上げながら床に跪く。

 そして結も跪くとアレウスの首元に両腕を回し、今まで散々傷付けられてきた彼を優しく包み込むように抱擁してみせた。


「本当によく頑張ったよアレウスは、今まで散々辛い思いをしてきたんだろうねえ」


「馬鹿野郎――絶対泣かしにきてるだろ……」


「今日ぐらい泣いてもいいじゃん。嬉し涙だと思ってさ」

 すると結のその言葉を聞いたアレウスは僅かに泣き声を上げながら彼女の肩に手を置いた。

 そして、彼は十年に及ぶ復讐の呪縛が溶けていく。

 その瞬間はあまりにも呆気なく、そしてあまりにもイレギュラーな存在によって巻き起こされた。


 そしてアレウスもまた、何十年と止まっていた時間が進み出したように色鮮やかな情景を噛み締めている様子を漂わせたのだった___



「何をしておるのじゃああ!!さっきからコイツ等には隙しかないというのに、何故攻撃をしないのじゃルーシー!!」


「……!?」

 勝利の余韻も束の間、結とアレウスは壁に凭れていたルーシーの方へと視界を向けて彼の動向を見計らった。


「ほら、彼奴(きゃつ)等を仕留めるのじゃ!!」


「――それはできませんね、元当主」


「な……!?」

 ダグラマは自身の部下だと思っていたルーシーが要求を断ったことに驚きを隠せないでいたが、結達はそれよりも彼の横にいたはずの中立側の神官が目っきり姿を消していたことに意識を向けていた。


 _____!!


 突如として消えていた中立側の神官達はダグラマを包囲するように姿を現すと、それぞれが腰に携えていた剣や神技をいつでも発動できる準備をしており、その緊張感が走った光景に結達も固唾を飲んで見守るしかなかった。


「だって私、中立側の神官ですから」


「な、何じゃと!?」


「嘘……」

 これには結も驚きを隠せきれなく咄嗟にアレウスの方を振り向くが、彼もまた一体どういう状況なのか整理ができていない様子であった。


「どういう事だ中立側!?」


「ルーシー様は中立側の神官として現当主派に潜伏していました。黒い噂が流れていたあなたが不正をしないか監視する為に」


「そんな事を貴様等がしていいのか!?これのどこが中立だ!!」

 体を動かせないダグラマは口だけで抵抗を続けるが、当主選そのものの根底を覆そうとした彼に四の五の言われる筋合いはないかと言いたげな欲求を抑えてメフィストは思わず吐息を漏らす。


「別に現当主派が不正なく当主選を続けていれば彼から動くことはなかったので、支障は無かったとお見受けすることができます。それに当主選そのものを蔑ろにしようとしたあなたに言われる筋合いはありませんね」


「貴様言わせておけば調子に乗りよって……!!それは貴様達の独断と偏見であろうが!!」


「いいえ、あなたの令状は既に司法所が発行済みですよ。通常当主選の違反は罪には問われませんが、あなたには見に覚えがあるでしょう?」

 そしてルーシーはダグラマの元へと向かい司法所が発行したと思われる令状を公に見せると、そこには夥しい罪状の数が記されていることが結の目線からも分かった。


「これはあなたの罪が確定しているほんの一部、今まで捜査の目から逃れてきた業です」


「な、何故じゃ、何故バレておるのじゃ……?」


「政界にまで根を生やしているあなたの黒い噂の尻尾を捕まえるのは大変でしたよ。あなたは自分が生き残る為に邪魔な者は始末して、時には自身の黒い噂を横流しにした。私達が調査をしている間にもそれは行われ、それで人生を狂わされた人だって生まれた」

 ルーシーの言葉を聞いたアレウスはぐっと奥歯を噛み締めるかのように苦い表情をして、確かに自身を照らし合わせていたことが結にも伝わった。


「あなたは到底許されるべき人間ではない。ダグラマ・エインバルト、貴様を逮捕する」

 するとダグラマが倒れ込んでいる床に術式が浮かび上がり、術式からは黒の布のような物が彼の体を縛り上げようと巻き付けられた。


「何をする!?やめろ……!!」


「それはゾオンエネルギーの自動供給を遮断する術式が組み込まれた布です。これでもうあなたは構えを取ろうとも神技を発動することはできない」

 いずれその漆黒の布はダグラマの片目を除いては全ての体の部位を覆い尽くし、ゾオンエネルギーを収束することができなくなった彼は身体強化も神技も発動できなくなった体となってしまう。


「それでは私達はこの男を先に護送しますね。ア・ナ・タ♪」


「ああ」

 どうやらルーシーとメフィストはそういう関係らしく、大胆にも公衆の目の前で口付けを交わしていたところを見ていた結は無意識に手で視界を覆おうとするが指の間から覗き込んでしまっていた。

 そしてダグラマの身柄を拘束したメフィストを筆頭とする中立側の神官は自身の足元に術式を構築して、そのまま司法所の留置所へと空間転移で向かうのだった。


 こうして嵐の中核で繰り広げられていた戦いも終わり、雷神家には再び平和が取り戻されようとしていたのだ。


「っ……」


「どうした、他人の口付けに興味津々とはまだまだ子どもだな」


「ち、違うもん!こ、これは、まさか二人にそんな接点があったとは思いもしなくて!」

 さすがに二十歳のアレウスは隣のカップルが口付けをしているくらいでは動じない様子を見せており、結は自身が子どもと馬鹿にされたことにプンスカと不機嫌さを滲み出した。


「二人共感謝します。多分君達がいなければダグラマを捕らえることができなかったと思います。それに私の()も聞こえたようで何よりです」


「まああなたが味方だったってことは少し驚きましたが、もっと良い方法ありませんでしたかね?」

 どうやらアレウスは彼が途中まで敵として立ち塞がっていたことに不満を抱いていた様子を露にして、実は中立側だったというルーシーを若干声を荒げながら責め立てようとする。


「すいません、相手は四代目神神時代のG7の一角でしたので。何とかダグラマが持つレギスの結晶を君に怪しまれないように渡そうと必死だったんですよ」


「それって、ルーシーさんはわざと現当主派に協力姿勢を見せておいて、端から俺を使って当主を討とうとしたってことですか?」


「まあそういう事です。レギスの結晶が回収できた時点で私が彼を討つ策もありましたが、序列三位の神技を使う君にチートアイテムを渡した方が確実だと思ったまでです」

 ルーシーはアレウスに止めを刺したと思わせる攻撃を放つと同時にレギスの結晶を胸ポケットに入れさせて、その後は予め用意していた偽物のレプリカをダグラマに手渡すことで状況を作り上げたのだという。

 そして二人の脳内に電気信号を送ったのも彼の仕業であり、一瞬結とアレウスの脳内が共有したのもルーシーから一方的に送られてくる電気信号が何かの作用で二人の間を繋いでしまったらしい。

 結局のところルーシーは巧妙な手口で現当主派の暴走を利用して自身の思惑通りに事を進めていたのだという。


「だったら、もう少し心臓への電気ショックは手加減してくれませんか!?本当に死に掛けたんですからね!!」


「それもすいません。威力が弱すぎてもバレると思ったので気持ち多めで撃ってみたんですけど、まさか仮死状態にまでなるとは思ってなかったですから」

 不満を漏らすアレウスにルーシーも苦笑しながら加減できなかったことを謝罪するが、それを傍観していた結には少しばかり気に掛かっていたことがあった。


「ねえ、それならどうしてこの第一階級の稽古場に当主を誘き寄せた時に共闘しなかったの?序列入りの二人と神官で取り押さえればさすがに勝てたと思うんだけど」


「――そうですね。強いて言うなら私が十年前のイグニス・ヒストリアの事件を知っていたからとでも言いましょうか。アレウス・ヒストリークの正体を知っていたからこそ、私は不思議とあなたに倒してほしいと思ったわけです」


「でも、それって……」


「完全なる自己判断ですね。神官にとって個人的感情を仕事に考慮することはタブーとされています。ですが人とは規則だけを見据えるのではなく時には道徳を見据えることも重要で、どちらを優先的に取り入れるかは結局個人の意志でしかないのです」

 ルーシーは十年前のイグニス・ヒストリアの事件を知っていたからこそアレウスにレギスの結晶を託したことを告げると、アレウスは少しだけ不満そうな表情をしていたところから真剣な面持ちにへと変貌を遂げた。


「私は後者を選択した。そして私の仕事はアレウス・ヒストリークが一線を越えようとした時に止めに入ることだと思っていました。しかし結局あなたのパートナーさんが止めてくれた様ですがね」


「……そうだったんですか」

 それを聞いたアレウスは下ろしていた腰を上がらせて、ルーシーの元へと歩き寄り深くお辞儀をした。


「ありがとうございました」


「止してください、私は何も称えられることなどしてませんよ。ダグラマ・エインバルトの決定的な証拠を突き止めるまで私達は彼の悪業を見逃していた、その例があなたのような人のことです。これは何もできなかった自分への罪滅ぼしなのかもしれないのですから」

 ルーシーはあくまでも謙虚な態度で受け止め、アレウスもまた彼の助けがなければこれほどまでに最高の形で執念を晴らすことはできなかったと感謝を垂れるのであった。


「アレウス先輩!ようやく見つけましたよ!」

 するとドアが破壊された出入り口からアリサ、ロサ、ジェリカ、アリシア、ジョセフという顔触れが全てが終わった後にようやく到着するが、結にとっては何故元現当主派である二人までもがそこにいるのか状況が掴めずにいた。


「三人共!?……と初日で負けた人とオバサン」


「誰がオバサンですって誰が?せっかく助太刀したというのに口の減らない小娘ね!」

 アリシアわざわざ跪き怒りの感情を噛み殺し作り笑顔を作っているかのような面持ちで結の頬を強引に突いてみせるが、彼女からしたらアリシアの眉間が上がっていたことから怒りの感情を滲ませていることは何となく予想できていたのだ。


「アリシアさんにジョセフさん、どうしてあなた達がここに?」


「探しましたよアレウス♪まあ酷い!その体の傷はどうしましたの!?」


「あはは、取りあえず全部説明するんで離れてもらってもいいですか?」

 アレウスのボロボロの姿を確認したアリシアは凄まじい俊敏性で彼の胸元へと飛び込む。しかしアレウスは少しだけ苦笑しながらも彼女を一度放して状況を説明しようとするのだった。

 そして結とアレウスは稽古場で起きた状況を一通り説明して、当主だったダグラマは先程中立側の神官のもと司法所の留置所へと護送されたことを伝えた。


「当主を倒しましたの!?」


「信じられねえ、序列二位の相手に勝ったのかよ……」


「いえ、それもこれもレギスの結晶を使ったのもありますし、何よりも結のバックアップがあったおかげなので別に俺が凄いわけではありません」

 全てはダグラマのシールドを無力化した結と最後の最後で味方に回ってくれたルーシーのおかげだということをアレウスは弁舌すると、アリシアは不貞腐れた表情をしながらも結の元へと再び跪いてみせる。


「まあ、一応感謝を伝えておきます。あなたを認めるのは悔しいですが、まさか本当にこの家を変えられては遇の根も出ませんからね」


「――ふふ、どういたしまして」

 アリシアは直後に自分でも恥ずかしいことを告げたと思ったのか顔を紅潮させる。今は何故か扇子は持っていないようなので結の視点からはアリシアが随分と新鮮な表情をしている様にも思えたのだった。


「か、勘違いしないでください!私はあなたの度胸を認めただけで実力を認めたわけではありません!まだまだベテランとして小娘に負けるわけにはいきませんからね!」


「痛っ……!」

 そう告げるとアリシアは人差し指で結の額を突き調子に乗るなと警告するかのような態度を取ってみせる。その行動に結も彼女が平常運転であったことを確認してある意味安心ができたのだった。



「おつかれ様です、アレウス先輩」


「アリサ、ロサ、ジェリカ、お前達も来てくれたんだな」

 その一方でアレウスは新当主派として苦楽を共にした三人の元へと近付いて、彼女達が無事でいてくれた事を確認しようとしていた。


「こっちも大変でしたよ大柱、でもアリサったら序列入りを二人同時に倒しちゃってそりゃもう活躍が凄かったんですから、褒めてやってくださいよ」


「い、いや、あれはロサが大技を仕込ませてくれる程の時間を稼いでくれたからであって、別に私が二人を倒したってわけじゃ……」

 するとアレウスは二人の頭に手を置いて、彼女達を心のそこから労うかのように笑顔を露にした。


「二人共よくやった。お前達新当主派でいてくれ本当に良かったよ――」


「えへへ……」


「っ……」


 アレウスの包容力にアリサはデレデレとした態度を取り、ロサもまた想定外の出来事に遭遇したように顔を紅潮させていて彼とは極力目を合わせまいとする。結局この二人もアレウスに褒められて嬉しいのだろう。と結は胸中に抱く。


「ジェリカもありがとな」


「もっと撫でて、アレウス」


「お、おう……」

 相変わらず無表情のまま立ち竦むジェリカにもアレウスは頭を撫でてやると、その無愛想だった印象からは程遠い笑顔を珍しく見せ付られ彼は思わず動揺してしまう。


「でも一番凄いのはユイだよね。今日の昼間にも序列入りと戦って怪我してたのに、道中にいたキャメロット大柱を倒してから当主とも戦ったんだからね」


「え?ここに来る前に大柱を倒していたのか?」


「はい、だってジェリカが見かけた様ですし」

 アレウスはジェリカの方へと振り向くと、何故か彼女は無表情のまま身震いを始めていた様子を見て思わず首を傾げていた。


「ジェリカ、本当か?」


「うん本当、私嘘つかない」

 口振りは自然だが態度がとても後ろめたいことがない人間がとる態度ではなかったことから、アレウスは随分と思慮深く考えている様子を浮かべると一つの結論に至ってみせた。


「まあ、ユイならありえるか――」

 そしてアレウスは笑みを浮かべながらも先程からアリシアと仲良くしたいのかしたくないのかよく分からない言い合いをしているユイの元へと向かい、彼女の隣に跪き頭を撫でてみせた。


「ありがとな、最強のパートナーさん」


「――それはどういたしまして、アレウス♪」


 こうして、波乱が波乱を呼んだ当主選は幕を閉じた。


 この四日間という短い期間の中、結は戦いを通して色々な人間の思いを目の前にした。


 権力に縋ろうとする者、権力に屈した者、権力を欲する者


 正義を貫こうとする者、正義とは何かを模索する者、仲間を助けたいと思った者


 両者の思いがぶつかり合い、そして正義を掲げた者達は勝った。



 ―――ふと、アレウスの感情に思いを馳せてみた。


 ___ふと、アリシアの感情に思いを馳せてみた。


 ___ふと、ジョセフの感情に思いを馳せてみた。


 ___そして、全く違う境遇の彼等と自身を比べてみた。



 そこには様々な人生観があり、考えがあり、生き様があった。


 そして再び目を開くと、そこにはもう一つの居場所があった。


 結は一つの終わりに想いを募らせながら、その背後を振り向くことなく前を向いた____




 _________

雷神家編もいよいよ佳境。

結構話数重なった上に一話の量も7000字とか普通に突破してたので、次節は短めにしようかと思います。

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